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相続放棄

相続放棄

 

相続放棄は、「常に相続人となる」と民法に規定された配偶者も第1順位の相続人も、相続放棄すると、「初めから」相続人としての地位を失う強力な制度です。

相続放棄の申述には、相続人全員の合意は要りませんが、相続放棄は後順位の相続人に影響が及ぶので、各相続人の理解と合意をとって行う事が重要です。

また、相続放棄の申述書に添付する書類も聞きなれない書類があると思われるので、相続放棄に精通した経験豊かな専門家のアドバイスのもとに行う事が賢明な選択と言えます。

 

相続形態の3つ方法

 

人が亡くなり、相続が開始した際に相続人は、1.被相続人の負債といった消極財産や土地の所有権、現金等の積極財産の全てを承継する「単純承認」、2.被相続人の残した消極財産や積極財産がどの程度あるか不明な場合に、相続した積極財産の限度で債務を承継する「限定承認」、3.被相続人の権利や義務を一切承継しない「相続放棄」の以上3つの相続形態の中から相続人は、その意思でこれらを選択することが可能です。

このうち、相続放棄は、「相続放棄の申述書」を家庭裁判所に提出することが必要です。

この制度は、被相続人が負っていた負債や連帯保証人等の責任の全てを相続人に追わせては、相続人に不測の損害が及び相続人が破産に陥ることもあるので、これを回避するために認められた制度です。

 

相続放棄の申述期間と代理人について

 

相続放棄は、相続人各自が、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出し、これを家裁が受理すれば、家裁は、「相続放棄申述受理通知書」を交付します。

ただ、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理しても、実際上は、相続放棄が完全に認められたことにはなりません。被相続人にお金等貸していた債権者も被相続人の負債を簡単に無くされては困るので、債権者は、相続放棄の効果を訴訟によって争うことも認められています。

万一、自分が相続人であることを知って、相続放棄が認められる相続開始から3か月(被相続人が亡くなってから)の期間に申述しなかった場合は、法的安定を維持するため、単純承認したものとされるので注意が必要です。

相続は、未成年者にも関わることなので、相続人が未成年者の場合や成年後見者の場合は、その法定代理人がその者を代理して相続放棄の申述を行います。また、未成年者と法定代理人が被相続人の共同相続人の場合は、それらの者の利益が相反することも考えられるので、複数の未成年者の法定代理人が一部の未成年者の相続放棄を申述する際は、

相続放棄を申述する未成年者について、特別代理人を選定しなければなりません。

ただ、相続人が、自己のために相続開始があったと知った時から3か月以内に相続財産の現状を調査しても相続財産が確定せず、相続を承認するか相続放棄するかの判断基準となる資料が集まらない場合は、相続承認・延期伸長の申し立てを家庭裁判所に提出してこれを家裁が受理すれば、相続放棄の期限を延ばすことができます。

 

相続放棄の必要書類

 

「相続放棄の申述書」は、裁判所のホームページにその書式のダウウロードと記載例が記載されているので参考にして下さい。

http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/

相続放棄に必要な書類は、申述人全部に共通の書類と申述人が誰であるかによって異なります。

1.相続放棄に必要は書類で、各申述人に共通する書類は、①被相続人の住民票の除籍票または戸籍の附票(耳慣れない書類だと思いますが、行政機関の窓口できけばすぐに分かります)、②相続放棄を申述する者の戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)です。

2.相続放棄の申述人が、被相続人の配偶者の場合は、被相続人の死亡が記載された、除籍、改製原戸籍(かいせいはらこせき)謄本です。

3.相続放棄の申述人が被相続人の子または、孫・曾孫等の代襲相続人(相続上、第1順位の相続人の場合)である場合は、被相続人の死亡が記載された除籍、改製原戸籍謄本、また、申述人が、代襲相続人である場合は、被相続人の子等の本来の相続人(被代襲者)の死亡が記載された除籍、改製原戸籍謄本

3.相続放棄の申述人が、相続上の第2順位に当たる被相続人の父母や祖父母といった直系尊属にあたる時は、被相続人の生まれた時から死亡した時まで全ての除籍、改製原戸籍謄本、被相続人の子及びその代襲相続人が既に亡くなっている場合は、その子及びその代襲者の出生時から死亡した時まで全ての除籍、改製原戸籍謄本、被相続人の直系尊属に既に死亡している人がいる方は、その直系尊属の死亡記載の有る除籍、改製原戸籍謄本)

4.相続放棄の申述人が、被相続人の兄弟姉妹及びその子である被相続人の甥や姪(被相続人の兄弟姉妹の代襲者)の場合は、被相続人が生まれた時から死亡する時まで全ての除籍、改製原戸籍謄本、被相続人の子及びその代襲相続人で既に死亡している人がいる場合は、素個々並びにその代襲相続人が生まれてから死亡するまで全ての除籍、改製原戸籍謄本、被相続人の直系尊属の死亡が記載された除籍、改製原戸籍謄本、相続放棄の申述人が、被相続人の甥や姪といった代襲相続である場合は、本来の相続人である被代襲者の死亡記載の有る除籍、改製原戸籍謄本が必要です。

尚、以上の場合は、先順位相続人等から既に提出された書類については、再度添付する必要はありません。

 

相続放棄の注意点

 

1.相続財産に手をつけない

相続放棄を行うと「初めから」相続人でなかったことになります。相続放棄を行えば、例え被相続人の血族相続人であっても、相続に関しては全く関係のない者となってしまいます。

例えば、被相続人の残した相続財産である預貯金の一部でも使うと、単純承認とみなされてしまいます。また、被相続人の債権者の訴えで、家庭裁判所が行った相続放棄許可が取り消される事態も生じます。

また、預貯金や現金に限らず、相続財産として評価される、自動車の名義変更や売却、生命保険金にも十分配慮する必要があります。

2.相続放棄は、次順位の相続人まで影響する

相続には、法律で定められた相続順位があります。

被相続人の配偶者は「常に相続人」になり、血族相続人の題1順位は、被相続人の子ですが、例えば、被相続人に相続財産では返済できない多額の負債があり、配偶者と子が相続放棄の申述を家庭裁判所に申し出てこれが許可された場合、配偶者とその子に関しては、被相続人が残した負の遺産から解放され安心と言えます。

ただ、相続放棄の効果は、これだけで一件落着とはいきません。第1順位の相続人が相続放棄すれば、相続は、第2順位の相続人に承継されるのが相続です。

例えば、多額の負債を抱えて亡くなった被相続人の配偶者や子が相続放棄を行えば、被相続人の第2順位の相続人である被相続人の親に被相続人が残した消極財産が承継されます。

また、被相続人の兄弟姉妹が相続人であり、被相続人兄弟姉妹が既に亡くなっていても、その子、つまり、被相続人の甥や姪が代襲相続人に該当すれば、相続放棄の影響は、それらの者にまで波及するのです。

このように、相続放棄は、被相続人の積極財産の範囲で相続を引き継ぐ「限定承認」のように相続人全員の合意でではなく、各相続人で行う事が可能ですが、相続放棄を行う時は、後の順位の相続人のことも考慮し、相続放棄をする場合は、相続人全員の理解と合意を得て行う必要があります。

3.相続放棄の撤回・取り消しが原則不可

法的安定を保つため、相続人が家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出し、家裁がこれを受理した場合は、原則として相続放棄の撤回(特段の理由なく、撤回者の一方的な意思表示で、法律行為をなかった状態に戻すこと)・取り消し(取消事由がある場合に、取消権者の一方的な意思表示で、法律行為をなかった状態に戻すこと)はできません。

ただ、法は、以下の要件に当てはまる場合は、相続放棄の撤回を認めないのでは、相続放棄者にあまりに不利益なので以下の要件に該当する場合の例外としてこれを認めています。

①詐欺や強迫によって相続放棄を申述させられた場合

②未成年者がなした相続放棄の場合で、法定代理人の同意がなかった場合

③成年被後見人が単独で相続放棄の申述をなした場合

以上の場合は、家庭裁判所に「相続放棄取り消し申述書」を提出し、家裁に相続放棄の取り消しを認めてもらいます。

ただ、相続放棄の取り消しには期限があります。この期限を過ぎれば取り消し出来なくなるので注意が必要です。

追認可能な時から6か月経過するまでです(短期時効消滅事由)。

①詐欺で相続放棄させられたことに気付いた時6か月

②脅迫が終わった時から6か月

③成年後見人の事理弁識能力が回復し、相続放棄をなしたことを知った時から6か月

・相続放棄をなした時から10年経過した時(除斥期間―時効の中断が無い)

 

相続税対策

5.相続税対策

 

2015年から施行される相続税税制改正で、相続税の最高税率の引き上げや基礎控除額の4割減額等の増税が開始します。

これにより、相続税の納税義務者がかなり増加することが予想されます。相続対象資産は住居用の不動産位しかない方も、大都市近郊では、相続税がかる方の範囲もかなり広がると考えられます。

そこで、相続税対策を十分検討することの重要性が大きくなります。

 

相続税の改正

 

2015年から施行される税制改正の主要ポイントは、①相続税の最高税率の引き上げと②基礎控除額の4割引き下げです。

相続税の最高税率は、現行制度では相続財産が3億円を超える場合、50%ですが、

引き上げにより、相続財産が6億円を超える場合には、55%の税率が課せられることになります。

この税率アップは、相続財産2億円を超える相続人が対象なので、一般的にこの税率上昇のデメリット受ける方は少ないと思われますが、相続財産がかなりあると思わる方は、専門的な観点を持ち、具体的に相続した場合の相続税対策のシミュレーションを早速開始すべきです。

また、基礎控除額は、今回の相続税改正で、現行の5000万円+1000万円×法定相続人の数が、4割減の3000万円+600万円×法定相続人の数になります。

例えば、被相続人の相続人が、配偶者と2人子のであった場合の基礎控除額は、現行では、8000万円までですが、改正後は、4800万円になります。

相続財産が8000万円を超えることはかなり少なく、課税対象者も非常に少なかったのですが、相続財産が4800万円を超える相続人の方はかなり広がると思われます。

例えば、景気が上昇傾向にあり、東京オリンピックを控えた東京近郊や大都市近郊の人気のある住宅地等に不動産を所有する方は、相続税改正に際して十分な相続税対策を行う必要があります。

 

相続税対策に重要な専門家の選定

 

相続税の基礎控除額の減額を踏まえ、相続税対策は多くの方の関心事となっています。相続税対策は、相続対象の不動産評価を出来るだけ抑えることが最も重要な対策と言えますが、この対策には、十分な知識と経験を有する税理士等の実務専門家の活用が不可欠と言えます。

相続税やその他の税制も、奥行きが深く様々な要素が絡み合っています。例えば、国家の難関資格である税理士でも、その専門分野は「相続税」ではなく「法人税」かもしれません。意外に思われるかもしれませんが、相続税対策に十分な経験を持つ税理士な少ないのです。

何故なら、会社の納税や個人商店の納税では、確定申告や決算期に毎年税務処理を行いそれら会社や商店の顧問税理士は、その業務を毎年積み重ねるので、自然に業務に精通するのですが、相続税の場合は、そのような頻度で起こることはないからです。

そこで、真に相続税の知識が十分で、相続税対策の実務に精通する専門家を選定する必要があるのです。

 

相続税対策はどう進めるか

 

2015年から導入される相続税の増税に際し、相続税対策に重要性が一層増しています。

相続税対策は、個人によって多種多様なので、自分に適した相続対策を行う事が最も重要です。これを行うには、事前対策が必要で、これを怠っては、相続税対策そのものが不完全になって対策の趣旨を実現できません。無理をして節税すると、リスクが大きいのでこれも避けなければなりません。

相続対策は、まず、相続財産の現状がどのようになっているかを具体的に把握する現状把握から開始して、相続した場合の相続税の概算を掴む必要があります。

これには、相続法の規定や各種相続税の特例、更に民法上の規定を理解する必要があります。これらの判断材料を元に、自分に可能で最適な相続税対策の実行手順を確認します。出来る限り、相続税対策の具体的案を列挙して下さい。

相続税対策と相続税の節税対策は混合しがちですが、相続税対策は、単に相続制の節税を行う事の他、各相続人が合意のもとで遺産分割決議に速やかに応じ、いわゆる「争続」にならないようにする機能や相続税の納税資金対策を視野に入れた幅広い相続税対策も含まれます。

相続制対策が、各相続人の理解を受け入れ難い方向に進めば、「争続」問題が生じる危険が生じますし、被相続人が事業者や農業経営者等であった場合は、相続対策のミスで、被相続人の事業を承継するために必要な資産が相続により分割の憂き目に遭い、その後の事業に支障をきたす事態に落ちることもあります。

また、相続税の納税は、原則として、被相続人が亡くなり相続が開始したことを知った日の翌日から10か月以内に納税申告して一時(1回)でしかも現金で納付することが義務付けられています。

そこで、この納税を行うために土地等の相続財産を売却して現金化して納税する必要に迫られることも生じます。

更に、極端な例では、相続税の節税対策で、相続財産である土地に賃貸アパートやマンションを建設して、土地の評価額を下げようとしたあまり、納税のために現金化可能な土地が殆ど無くなってしまったと言う事例も報告されています。

 

相続税をどう支払うかも相続税対策

 

相続税の納税資金対策は、相続税対策の重要な1本の柱として、未然に十分検討しておく必要があります。

先述のように、相続税の納付は、相続開始を知った翌日から10か月以内で、しかも、納付方法は1回に現金で納付することが原則です。

相続財産には、現金や預貯金、有価証券、保険金等の積極財産の他、借入金等の消極財産も存在することが考えられるので、積極財産と消極財産を迅速に調査し、相続財産の課税評価額の概要を算出する必要があります。

この際、相続税納付の原則である「一時に現金」での納付が出来ない場合は、例外的に、延納や物納といった納税手段が税法上認められているので、それらの方法も検討する必要があります。

 

延納によっても相続税が払いきれない場合

 

相続税の延納(分割払い)の特例によっても相続税を払いきれない時は、その払いきれない分だけ、「物納」が許されます。

例えば、相続税の納付額が3億5千万円で、現金で8000万円納税し、延納で2億円(毎年1000万円ずつ20年間納税{但し、相続不動産の評価額が相続財産の中で75%以上占める場合})場合では、納税額の不足分である7000万円について物納が許されます。

ただ、土地による物納には厳格な要件があり、原則として物納する土地を物納の申告期限までに測量して、隣地との境界線を確定しなければなりません。

尚、境界線確定を行う際には、当該土地の隣地の土地の所有者の立会いが求められ非常に面倒な事態に発展することも考えられます。

土地の境界確定は非常に難解な民事訴訟法の問題も含んでいるので、相続が開始して慌てて測量するより、被相続人の生前に落ち着いて、隣人共々納得のいく境界線確定作業を終えているべきなのです。

このような先を見越した相続税対策の実施が、結果的に相続税の節税に有効に働き、また、相続人の相続手続きの負担を軽減することに大きく寄与するのです。

 

相続制対策の納税対策は相続財産の現金割合を増加させること

 

相続税対策は、大きく分けて相続税の節税対策と納税資金対策の2つに分類されます。

この内、相続税の節税対策は、多くのサイトや書籍雑誌等で取り上げられることが多く、相続税対策と言えば、相続税の節税と考える方も多いと言えます。

ただ、相続税対策には、相続税の納付資金対策も含まれます。相続税の納税資金対策は、節税対策とは異なり、相続財産における、現金またはすぐに現金化できる「流動資産」の割合を増加させることです。

相続財産が不動産等の現金化しずらい「固定資産」であっても、共同相続で共有名義にの相続地を交換や一方の共有者が他の持ち分の土地を購入すれば、土地を売却して現金化することにそれほど時間がかかりません。

また、相続後の相続手続きやの税資金の確保を予め想定し、相続財産である土地を被相続人の生前に名義統一しておくことや売却も考えられます。

ただ、このような手続きは、法律上の規定や特例措置等、「どんな制度と法律があり、どうすれば得でどうすれば損なのか」が素人にな理解できないこともあるので、相続税対策は、相続税に事案を数多く経験した税理士等の専門家と相談することがベストな選択と言えます。

 

二次相続まで考慮する

 

相続とは、被相続人の権利・義務、財産といった諸々の法的地位が相続人に承継することですが、この承継は、被相続人の一身全属権を覗いて被相続人の配偶者や子、孫へと引き継がれ、そのたびごとに相続税が課せられます。最初の相続を一次相続と言いますが、相続税対策は、相続人からの相続である二次相続まで視野に入れた相続を考えておく必要があります。

例えば、配偶者が亡くなった際に、被相続人の配偶者には非常に高額な相続税の配偶者控除が認められています。そこで、被相続人の遺産相続にこの配偶者控除を活用することは節税対策として様々な媒体で紹介されている方法です。

ただ、この相続税の節税を見込んだ方法には、落とし穴が存在します。

一次相続において被相続人の配偶者に被相続人の遺産を偏って大きく相続させた場合、

この配偶者が亡くなり、その子等への二次相続が開始した際に、相続税が大きく膨らむ可能性があります。

仮に被相続人の相続人が配偶者と子二人であり、遺産が1億円であった場合、一次相続である配偶者の相続税基礎控除を活用すれば、配偶者の相続税基礎控除額は、被相続人が残した遺産と1億6000万円の何れか多い方なので、相続税の税負担はありませんが、二次相続では、配偶者の遺産1億円を相続した場合は、大きな税負担が発生します。特に、相続税の基礎控除額が四割カットとなる2015年1月1日以降は、納税義務額が大きく増加するので注意が必要です。

(現行の相続税基礎控除は、5000万円+1000万円×相続人の数ですが、改正後は、3000万円+600万円×相続人の数となり、更に、相続税対象額も細分化され、最高税率も50%から55%に引き上げられます。)

相続税の配偶者控除は、相続税の免除と思われている方も多いのですが、その本質は、発生した相続税の先送りと理解すべきなのです。

また、配偶者が被相続人の遺産以外に多額の遺産を持っていた場合は、相続税の負担は、より重いものになるので、生前の相続対策も十分図っておくことを忘れてはなりません。

これに対処するには、相続に対する知識を深め、遺産相続や相続税対策に豊富な経験と実務的な知識を有する専門家と十分相談することが必要です。

相続税の節税対策

3.相続税の節税対策

 

相続税の節税対策を行い税額を減少させるには、相続財産を減らせばよいのですが、これでは、納税額は減少しても財産が減るので、良い相続税節税対策とは言えません。

相続税の節税対策でまず考慮すべきは、課税対象財産を圧縮したり、法律上認められている贈与や不動産の評価額を念頭に置き、相続財産における課税対象価額を引き下げることを考える必要があります。

ここでは、その具体的で代表的な方法について紹介します。

 

生前贈与で節税

 

相続税対策の1つに、生前贈与があります。生前贈与とは、文字通り被相続人の生前に財産を移転することです。

ただ、生前贈与には、贈与税が原則として課せられ、この税率は相続税より高いのでが、例えば、被相続人の配偶者に生前贈与を行う場合は、「配偶者控除」と言う特例制度があり、これを活用すれば節税が可能です。

ただし、この控除の特例利用は、1人に対し一生に1回だけです。

また、長期間に渡って少しずつ贈与を行えば、基礎控除や低い税率を活用して節税効果を受けることも可能です。

例えば、相続時精算課税制度(生前贈与促進のため、生前贈与時には贈与税を課さず、被相続者が亡くなった相続時に課税をする制度)を利用していない場合、年間110万円までの贈与は、非課税になっていいます。110万円を超えても200万円以下なら税率は10%です。

贈与税の計算式は、(贈与財産価格-110万円(基礎控除額)×税率-控除額で求められます。

仮に、子と孫が合計6人いれば、年間で660万円まで費増族人の財産を子や孫に無税で移転可能です。

この他、子や孫に対する住宅資金の贈与の非課税措置制度があり、住宅を取得するための贈与は、例えその住宅が中古住宅であっても、耐震基準をクリアしていれば、相続制精算課税制度と合わせて利用すれば、最高3500万円まで贈与税が非課税になります(2014年度)。

更に、親から子・孫に教育資金を贈与する場合は、1500万円まで贈与税の非課税枠が拡大されています。教育資金には、授業料等の他、給食費や修学旅行費も含まれています。

以上のような具体的な贈与税に関する特例措置を考慮して、毎年いくらまで贈与したら実効税率が相続税と比べて低くなるかを専門的に調査すべきです。

2015年から相続税の基礎控除額が4割引き下げられることを考えると、贈与税の非課税枠の検討は相続税の節税対策として不可欠と言えます。

 

配偶者に対する不動産贈与で節税

 

配偶者に対する相続税の基礎控除では、法定相続分または1億6000万円のいずれか多い額まで相続税が課せられない制度があります。

またこれに加え、婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産を配偶者に贈与した場合は、2000万円の基礎控除が認められます。

この制度が認められる要件は、婚姻期間20年間以上の他、贈与不動産を受けた年の翌年の3月15日までに居住の用に供し、以後も引き続き居住の用に供すること、さらに、この特例制度を以前に同一の配偶者からの贈与で利用していないことです。

ただ相続税の節税を考えて、配偶者に偏った遺産分割を行えば、被相続人が亡くなった際の一次相続では相続税の節税ができますが、被相続人から大半の遺産を相続した被相続人の配偶者が亡くなり、その子へ二次相続が起きた場合は、逆に子が、相続税の大きな負担を被ることが起こるので、相続税の節税を考える際には、目先の節税だけにとらわれず、大きな観点から十分考える必要があります。

 

小規模住宅地等の活用で節税

 

相続や遺贈で相続人が取得した宅地のうち、事業または居住用の宅地については、「小規模宅地等の特例」と呼ばれる減税措置制度があります。

相続税の課税対象として最も大きな価額になるのは不動産(土地)ですが、この特例の活用で、居住用や事業用の土地に関して土地の評価額を最高80%まで引き下げることができます。

特例の適用には、様々な要件が規定されているので、相続税に精通した専門家等に詳しい内容のアドバイスを受けてください。

 

生命保険の活用で節税

 

相続税の節税には、まず、相続財産(課税対象価額)を減少させたり、各種の特例を活用することが重要ですが、生命保険も相続税の節税に活用できます。

生命保険と言えば、被相続人が一家の経済的な柱であった場合の遺族のその後の生活費や病気やけがに備えることがその目的としてまず浮かびますが、生命保険は相続税の節税や相続税の納税対策としてとしても有効です。

生命保険を活用し、この生命保険料分の現金贈与を続け、親である被相続人が亡くなった時、子に生命保険金が支払われる保険契約に設定しておくと、子はこの保険金を相続税対象ではなく、一時所得の所得税対象として取得するため相続税の節税効果があります。一時所得は、収入から経費を差し引き、更に、50万円の基礎控除があります。

その上、課税対象は、その額を2分の1に圧縮した額になります。

また、相続税の納付は、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内で、しかも一時に(一回で)現金で納付することが原則なので、保険金がおり、キャッシュが入ることは、相続人にとって重要なことなのです。

また、生命保険金には、500万円×法定相続人の数で算出する、非課税金額が設定されています。

更に、生命保険の活用で、相続財産が分割しにくい物である場合は、生命保険金を遺産として分割することもできます。

 

不動産の活用で節税

 

相続税の節税対策で最も重要なのが、不動産を活用する節税です。

何故なら、遺産のうち、現金や預貯金等は、その金額に対してきっちりと課税されますが、不動産に対しては、まずその不動産の評価額を決定して相続税を算出するので、この評価の際に節税可能なのです。不動産の場合は、時価よりも約3割から4割程度評価額は減額されます。

相続税の路線価は、公示価格の約8割と言われているので、相続財産に対する土地の割合が多い場合は、特に相続の税節税のための土地活用を考えるべきです。

また、先述した、マイホーム購入時の「小規模宅地等の特例」の他、自宅をリフォーム・リノベーション、改築した際の改築費が認められ、かなり多額の控除額になります。

例えば、1000万円でリフォームを行った場合は、300万円から500万円が相続税課税対象額から控除されます。

 

遊休地に賃貸アパート・マンション建設で節税

 

土地は、その利用状況に応じて評価額が変化します。

例えば、現在青空駐車場として土地活用を行っている場合に、その土地にアパートや賃貸マンションを建設すると、土地の利用区分が「更地」(自用地)から貸家建付地に代わるので、更地に比べ土地の相続税評価額が2割から3割減価します。

この計算式は、借地権割合×借家権割合で計算します。

具体的に言うと、例えば、借地権割合が80%で借家権割合が30%であれば、自用地評価額から24%評価額が減額されます。

また、建物においても、相続税評価額は、固定資産税評価額に相当する金額で評価するので、その評価額は、建設に要した建設費の約60%に留まります。また、アパート等の貸家は、自家用家屋に比べその評価額は70%になります。

ただ、相続税の節税対策に不動産を活用する際には注意も必要です。

不動産価格は経済の動きに敏感で、しかも、賃貸アパート等の住人は借地借家法で強力にその権利が保護され、更に、不動産資産は、現金化や分割しにく資産なので、これらのリスクを十分考慮したうえで相続税対策を行うべきです。

 

債務控除の利用で節税

 

相続税の課税対象額は、簡単に言うと、被相続人が残したプラスの財産である積極財産と負債等のマイナス財産である消極財産の合計額です。

この制度を活用すると、債務は時価で相続財産評価額から控除されるので、借入金でアパート等を建設すると、その借入金部分が控除され相続税の節税に繋がります。ただ、何とか相続税の節税を行おうと、無理して借入金でアパート等を建設した場合は、入居希望者が少なく空室率が高くなったり、返済金に利率が高く返済額がかさみ、節税どころではなくなったと言う事例もあります。収支計算のシミュレーションは、このようなリスクを厳格に設定して慎重に行ってください。 机上の空論通りに実務は進まないことを肝に銘じるべきです。

 

基礎控除額で節税

 

法定相続人の数を増やせば、相続税の基礎控除額が増加し、その分節税になります。

2015年1月1日からは基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数(現行は、5000万円+500×法定相続人の数)と現行に比べ40%引き下げられますが、依然としてこの控除額は大きな額と言えます。

そこで、この基礎控除制度を利用して相続税の節税を図るものに、養子縁組があります。養子縁組を行うと民法上は、被相続人の実子と同じ法的地位につくので、法定相続人の数を増加させることになります。

ただ、相続税の節税を意図とした不当な養子縁組の乱発を防ぐため、被相続人に実子がいる場合の養子縁組は、相続税法上は1人に限られています。また、実子がいない場合でも養子として相続税の基礎控除の法定相続人になれるのは2人までです。

もちろん、民法は、要件を満たす限り養子が何人いても構いません。   

相続税の申告

2.相続税の申告

 

相続税の申告は、課税対象財産の評価や相続人の確定、遺産分割協議書の作成、更に、相続人に対する基礎控除等様々な相続税法上の制度や民法の相続の問題が複雑に絡み合う骨の折れる重要な手続きです。

しかも、相続税の申告には期限定められていて、相続人はこの期限に向かって手続きを迅速に進めることが求められます。

そこで、これらの業務に精通した専門家の知恵と経験を借ることは、相続税の申告を迅速かつ有利に進める上で、必要不可欠なことであると言えます。

 

相続税の課税価格の合計とは

 

相続税の申告は、相続または遺贈によって取得した被相続人の財産と相続時精算課税の適用を受け、被相続人から贈与された財産の合計額が、相続財産の課税対象額の基礎控除額を超える場合に行う必要が生じます。

ただ、相続財産が、基礎控除の額を超えない場合は、相続税の申告は必要なく、相続税納付の必要もないことになります。

尚、この相続財産には、被相続人が亡くなる前3年以内に贈与した財産額も含めて合算します。

また、被相続人の財産額の合計は、小規模宅地等についての相続税課税額の特例(居住用地では、240㎡または200㎡までの部分に関しては、土地の評価額の80%から50%に減額した評価額を相続税の課税対象額とする)や特定山林計画山林についての相続税課税価格の計算の特例を適用しない場合の課税価格の合計です。

 

相続税申告の概要

 

1.相続税の申告は相続を知ってから10か月以内

相続税の申告は、相続人が、自分が相続人であることを知った日の翌日から10か月以内に申告する必要があります。

例えば、被相続人が2月1日に亡くなり、相続人がこの日に被相続人の死亡を知った場合は、その年の12月1日が相続税税の申告期限になります。

納付期限期日が税務署が休みとなる、土曜、日曜、祭日等である場合は、この日が明けた日(翌日等)になります。

相続税の申告期日は厳格に規定されており、万一、この期日までに申告しない場合は、相続税の無申告課税が年20%、延滞課税が年14.6%の高い税率で課せられるので十分注意して下さい。

また、相続人間での遺産分割協議が長引き、相続税の申告期間内に遺産分割が確定していない場合でも、まず、被相続人の遺産を法定相続分だけ各相続人が相続したとみなして申告する必要があります。

その後、相続財産が確定し、相続分を払い過ぎている場合は税務署に申告して払い過ぎた分を払い戻して貰えますし、また足りない場合は、追加して相続税を納める必要が生じる場合もあります。

2.相続税の申告先と納付場所

被相続人が亡くなった時におけるその住所が日本国内である場合の相続税の申告先は、

被相続人が住民登録していた住所地を管轄する各地方税務署です。相続人の現住所を管轄する税務署ではないので注意して下さい。

尚、相続税の納付は、税務署だけではなく、銀行や郵便局等の各金融機関でも納付することができます。

3.相続税の物納・延納

相続税を含めた各税金は、一時に現金で納付することが原則ですが、相続税は相続人に負担になることも考えられるので、これに対処するため、例外的に相続税の物納、延納と言う制度があります。

物納は、その名の如く、「物」を現金納付に代用することや国債、地方債、株式、社債等の有価証券で納税することが認められています。

相続税の延納は、一時に相続税の現金が納付できない場合に、相続税を何年かに分割して納める制度です。

物納、延納共にある一定の要件のもとで認められる制度であり、物納や延納を希望する相続人は、相続税の申告書の提出期限までに税務署にその旨を申し出て(相続税の修正申告、更生の申告)、税務署の許可を受けることが必要です。

 

相続税申告の基本的な流れ

相続税の申告期限は厳格に定められています。申請期限の中には、個別的は事情で延ばせる例外が認められることがありますが、そのような場合でも、納税義務者が税務署に申請し、相続税の要件に該当する期限の伸長事項である必要があります。

ここでは、相続税申告の基本的な流れについて説明します。

1.相続税の申告は、相続開始を知ってから10か月以内

何度も言いますが、相続税の申請期限は、被相続人が亡くなったこと(相続があったこと)を知った日の翌日から10か月以内に税務署に申告する必要があります。

「相続の開始を知る」とは、被相続人の死亡を知ることであり、例えば、相続人が海外の僻地に住んでいて、連絡が取れず被相続人の死を知らない時は、相続税の申告期限である10か月は進行しません。

被相続人の死亡と同時に相続は開始され、医師の死亡診断書と死亡届を市町村役場に7日以内に提出します。この時、葬祭費用等は相続財産課税対象から控除できるので、これらの領収書は必ず取っていてください。

尚、相続税の納税は、原則として、相続税の基礎控除額を超えた場合に必要で相続財産が、基礎控除に満たない場合は、相続税申告の必要はありません。

ただ、例えば、配偶者控除や未成年者控除、障害者控除、また、小規模住宅の特例控除、更に、公益法人等に寄付した場合の相続税控除がある場合で、相続税が非課税になった場合は、相続税の申告をする必要が生じます。

1年以内に相続税の更生の申告をして、相続税を払い過ぎていた場合は、その分が還付税務署から還付されます。

相続の申告に際しては、まず、これらの相続税控除を正確に把握することが重要です。

2.遺言の確認

遺言は被相続人の最終的な意思を表した書面であり、遺言書がある場合は、この内容が相続に反映されます。一般的な遺言書には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがありますが、「自筆証書遺言」の場合は、遺言書の封を切らず、家庭裁判所で検認の手続きを行う必要があります。

3.相続人の確定

相続人を確定するために、被相続人と相続人全ての本籍地の戸籍謄本を取得します。被相続人の戸籍を辿り、相続人の確定作業を行います。

4.3種類の相続形態

相続財産は、財産的価値の有るプラスの財産ばかりとは限らず、借金や保証債務等のマイナス財産もあります。相続人は、これらの財産と債務を合計して単純相続するか否か、また、相続財産の範囲でこれを相続するか(限定承認)また、相続を放棄するかを自由に選択する権利があります。

被相続人の遺産がプラスの財産より債務等のマイナス財産が多ければ、家庭裁判所に「相続の放棄申請」をして、家裁がこれを受理すれば、被相続人の債権者がこれを不服として訴えない限り、「相続放棄」により、相続人は初めから相続人でなかったことになり、被相続人の負債を背負う事はなくなります。

5.被相続人の確定申告

亡くなった方であっても、当期に収入があった場合は、確定申告する必要があります。これを税法上は、「準確定申告」と呼んでいます。この申告期限は、被相続人の死後4か月以内です。

6.相続財産の確定と評価

相続財産は現金や預貯金だけでなく、不動産や書画骨董、また、中小企業主の場合はその未公開の株価も評価して相続税の税額を算出する必要があります。不動産については、評価額の算定の他に、相続を原因とする所有権移転登記して名義変更する必要もあります。

このような相続財産の評価は、非常に専門職が強く、相続財産評価や相続税法に精通した選ばれた専門家とそうでない者との差が大きく現れるので、依頼する税理士の選定には十分注意して下さい。

7.遺産分割協議の作成

相続財産の確定や評価が終了し、相続人全員のもとで遺産分割が行われます。この具体的な内容を書面にしたものが、「遺産分割協議書」です。

遺産分割協議書は、不動産登記事項の変更の際や相続税の申告の際の重要な添付書類となるので、正確に記入作成し、相続人全員の署名と実印による押印、印鑑証明の添付が必要です。

8.相続税の申告書提出

相続税の申告書並びに相続税の納税期限は原則として、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日(相続開始の翌日)から10か月以内です。

相続税の申告は、被相続人が住所登録をしていた住所を管轄する税務署に申告します。

相続税は、原則として一時に現金で納付しなければなりませんが、現金が足りない場合は、「物納」や税金の分割払いである「延納」もある一定条件下で認められ、これらの申請も被相続人の死後10か月以内に申請することが必要です。

ただ、遺産分割協議が長引き各相続人の遺産が10か月経っても確定しない場合は、法定相続分に従って相続税を納付しますが、遺産分割が完了していないと、配偶者の税の軽減措置、小規模宅地の特例等が適用できない場合が生じるので、遺産分割協議の合意はなるべく早くすることが税制面からも有利です。

以上、順を負って相続税の申告を説明しましたが、このように相続税の申告複雑かつ面倒な作業なので、税理士をはじめ多くの専門家の助けが必要であると言えます。

その際、相続の実務知識と豊富な経験を有する本当の意味での「相続税申告」の専門家を見極めて依頼することが非常に重要です。

税理士等の専門家であっても、各税理士、行政書士、司法書士等の「士業」の専門分野は異なるので、相続分野に精通した方に依頼すべきです。

相続と養子

相続と養子

 

相続と養子の問題は、単に相続税の節税に関わる問題ではありません。

相続税軽減を目的とする養子縁組は認められません。また、離縁したくても、多額の慰謝料を請求されることもあります。

養子縁組を行えば、例え養親が無くなっても、親族関係は消滅しないので、養子先の兄弟姉妹の扶養義務が生じることもあります。

養子縁組は民法上の優れた制度ですが、このように、相続と養子の問題には、様々な法的問題が潜んでいるので、専門家の知恵と知識を借りて問題解決に臨むべきです。

 

普通養子

 

養子と呼ばれる者には、普通養子と特別養子の2つのタイプの養子があります。

このうち、一般的に「養子」と称される(普通養子)は、親子の血縁関係が無い者が、養子縁組の届出を出すことで、法律上の血縁関係を持ち、血縁関係のある実子と同様の親子関係になる制度です。

養子になれば、相続においても実子と同じ権利・義務があり、相続についても、相続分や遺留分等で実子と全く同じ扱いを受けます。

また、普通養子の場合は、ある者と養子縁組をなし、養子先に行っても、血縁関係の有る実父母との親子関係が失われることはありません。

つまり、養子に行った者は、法律上、養父母と実父母双方を「親」として持つことになります。その結果、相続に関しては、双方からの相続権を持ちます。

尚、養親より年かさの年長者を養子にすることはできません。また、養子を迎えるには、配偶者がいる場合は、その同意を得て、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。

 

特別養子

 

養子には「特別養子」呼ばれるもう1つのタイプが存在します。

「特別養子」は、親子の血縁関係の有る実父母との血縁関係を断たれます(これにより、それまでの血族関係の全てが終了する)。

特別養子は、法律上は、完全に養親の嫡出子となり、養親側との法律上の血縁関係を作る制度です。

この結果、特別養子に行った子は、血縁関係にあった実の親に対する相続権、相互扶養義務等も有しないことになります。

この制度は、実子のいない夫婦が、他人から貰い受けた子を、自分たち夫婦の間にできた実子として届出を行う、いわゆる「藁の上の養子」という虚偽の届け出を防止するために、他人の子でも、この制度を活用して、実子と全く同様の親子・親族関係を作る制度として、1987年に制定された比較的新しい制度です。

特別養子は、従来の実子としての親子関係を消滅させる重い制度なので、その要件もかなり厳しいものになっています。

まず、特別養子になる者は、養子縁組の請求時点で、満6歳未満である必要があります。(例外として、8歳未満まで認められる場合あり)

また、実父母の子に対する監督が著しく困難または不適当であるである場合、その他、特別の事情が認められ、子の利益のために必要な時にだけ、特別養子は認められます。

もちろん、特別養子の成立には、実親の同意が必要で、養親は配偶者を持ち、養父母のどちらか一方の親が25歳以上で有る必要があります。

尚、未成年者は養父母にはなれませんが、既婚者は、未成年者であっても成人擬制され成人となります。

 

養子縁組はなぜ必要か

 

例えば、婿養子として配偶者の家に入ったり、前配偶者との間にできた連れ子、更に、配偶者に先立たれた場合で、その配偶者の親が亡くなった場合は、これらの者は、養子縁組していなければ、法定相続人に該当しません。

このような場合でも、遺言により、「遺贈」をすることは可能ですが、相続上は、養子縁組をなし、法定相続人としての地位を確立しておくことをお薦めします。

何故なら、遺言の無い場合は、相続人以外の者への財産分与は法的根拠がなく、遺言があっても、遺留分減殺請求権も法定相続人に生じる権利だからです。

例えば、奥さんの家に婿養子として入り、配偶者の親と養子縁組していれば、被相続人である配偶者と同じ相続権を婿養子は得ることができ、配偶者(被相続人の子)と同一の割合で法定相続することが出来ます。

被相続人の亡くなる前、すなわち被相続人の相続が開始する時点で、被相続人の子が既に亡くなっていて、その子に子がある(被相続人の孫)がいる場合は、被相続人の遺産は、その孫に代襲相続されます。

そこでこれを養子の場合で検討すると、養子の子の出生時が養子縁組をなした時との前後で代襲相続できるか否かが決定します。

民法第887条第2項に規定する「被相続人の直系卑属」とは、相続開始前(被相続人が生きている時)に死亡した被相続人の子を通じて「被相続人の直系卑属」でなければならないと解されています。

この結果、養子縁組前の養子の子には、代襲相続権が無く、養子縁組後の養子の子には代襲相続権が生じるので、相続に関しては、養子縁組をなすことが重要なのです。

養子のもう1つの形態である「特別養子」では、実親との法律上の血縁関係が亡くなるので、代襲相続の問題は生じません。

 

養子縁組と相続税対策

 

相続税の計算を行う際には、法定相続人の数をもとに行うため、養子の存在が、相続問題に大きき関わることになります。

養子縁組を行うと、相続税の節税になるメリットが生じる場合があります。

何故なら、相続税の基礎控除の算定式は、3000万円+600万円×相続人の数(2015年施行。現行では、5000万円+1000万円×相続人の数)で表しますが、養子が加わり、法定相続人の数が増えれば、その分、相続税に基礎控除額が増加するので、非課税限度額が多くなります。

また、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠も相続人1人に対して500万円増加する(控除額の計算式は、500万円×相続人の数)ので、養子がいれば、その分、非課税枠が増加し相続税対策になります。

ただ、このような相続税の節税対策として養子縁組を進めたものが多く生じた事から、これに対処する税制改正がなされ、現在の税法では、法定相続人に該当する養子の数を被相続人に実施がいる場合は1人に、実子のない場合は、2人に限定し、相続人の数が不当に増加することを防いでいます。

例えば、被相続人に実子がある場合で、養子が3人存在していても、養子は相続法上、1人として相続税を計算します。
尚、養子の相続法上の計算に関する制限は、相続税法上の計算だけに妥当するもので、民法上、被相続人の養子が何人いても、法律上の要件を満たす限り、養子であることに不都合なことは有りません。
ただ、以下に記述した、いずれかに該当する養子は、法律上、被相続人の実の子として取り扱われ、本来の法定相続人の数に含まれます。

1.被相続人と特別養子縁組により、被相続人の養子となっている者

2.被相続人の配偶者の実子で、被相続人が亡くなる前からの普通養子である者

3。被相続人とその配偶者の婚姻前に、配偶者と特別養子縁組でその養子となり、被相続人と配偶者が婚姻した後に、被相続人の養子になった者

 

相続と養子に関する注意点

 

1.2003年の税制改正で、孫を養子にした場合は、孫の相続について、相続税の2割加算が行われるようになりました。

ただ、被相続人子を飛ばして孫に相続させると、被相続人の子から孫への2回の相続が、1回で済むことになる利点があります。

この他、養子縁組により、養子縁組による生命保険金や死亡退職金等の被相続人の「みなし相続財産」の非課税控除額が増加するメリットもあります。

 

節税のための養子縁組は認められない

 

養子は、実子同様の法定相続人に該当し、相続人が増加した分、節税効果を生みますが、もし、その養子縁組が節税を目的とした行為であるなら、税務署は、当該養子縁組を租税回避行為と判断する危険が生じます。

養子縁組を行うには、当事者の自由意思の他に、養子縁組することに節税以外の正当な事由が必要です。

節税対策で行う養子縁組は認められないので、そのような場合は、法定相続人にこの養子は

含まれず、相続税の計算も養子を排除して計算する事態になります。

ただ、これは税法上の処置であり、養子縁組自体の法的根拠を失うものではありません。

養子縁組を認め得る代表的な理由としては、

1.被相続人の永代供養やお墓を守ってくれる孫等に遺産を残すために養子縁組を行う、

2.被相続人の療養看護に尽くしてくれた子の嫁であっても法定相続権はないので、これを養子にして、嫁への感謝の意を示したり、その後の生活に寄与したい等が考えられます。

 

養子をとれば、他の相続人の相続分が減少する

 

養子縁組により、法定相続人の数を増やせば、養子は実子と同様の相続権を取得するので、他の相続人の相続分が減少することはもちろんのこと、遺言によっても侵害できない「遺留分」も減少します。

被相続人が、推定相続人である相続人(例えば、被相続人の実子)の了解を取らずにある者を養子にした場合は、被相続人亡き後の「争族」の原因になる危険も生じます。

 

相続と養子の問題は、専門家と相談する方が良い 

 

養子縁組は、相続税に関わる問題の他、法律上の親子関係を新しく作ることなので、安易に養子縁組をなして、当事者の将来に禍根を残すことは避けるべきです。

また養子との関係がうまくいかなくなり、離縁を行う場合でも、法律上は親子関係なので、簡単には離縁出来ないのが一般的で、離縁出来ても、著しい非行や虐待等の事実が無い限り、慰謝料を支払わなければならないこともあります。

このように、養子縁組は、民法上の優れた制度ではありますが、法的に見れば複雑な問題を生む温床になるとも考えられるので、養子縁組やその相続に関しては、これらの問題に精通した専門家の知恵を借りるべきと考えます。

相続権

相続権

 

相続権には、2つの意味が有ります。

1つ目の意味は、実際に相続が開始され、相続人が確定した場合の相続人の相続に関する権利です(相続人が相続開始後、被相続人の財産法上の権利義務と言う被相続人の法的地位を承継する権利と言い変えることもできます)。

2つ目は、相続開始前、すなわち被相続人が亡くなる前の、配偶者並びに優先的な相続順位を有する「推定相続人」が、相続開始の際に有する、相続財産を取得する権利です。

この権利は、この段階では確定していないので、通常この権利を相続の「期待権」と呼ぶ、相続開始後、被相続人の相続財産の移転を主張し得る法的根拠を持つ権利です。

 

配偶者の相続権について

 

民法では、被相続人が亡くなった時点で配偶者が健在ならば、配偶者は「常に相続人になる」と規定しています。これは、被相続人に関しては、常に相続権が与えられていることを意味します。

被相続人の配偶者には、例え遺言で、被相続人が配偶者以外の誰かに遺産の全てを相続させると記載していても、法定相続分である2分の1の半分である4分の1の「遺留分減殺請求」権が認められています。この「遺留分減殺請求権」も究極的な、配偶者の相続権と言えます。

ただ、配偶者と認められるのは、法律婚の場合のみで、どんなに長く被相続人と生活を共にしても、学説上の争いはあるものの、判例によると、法律の婚姻関係のない「事実婚」の場合は、「配偶者」に法律的には認められません

このような場合に備えて、被相続人が事実婚受胎の相手に遺産を残したい場合は、[遺言]を作成する必要があります。

また、被相続人に身内の者が存在しない場合で、被相続人と事実婚関係にある者が、被相続人の療養看護に努めたと認めらた場合等には、特別縁故者として被相続人の相続権を取得することも可能です。

 

子の相続権について

 

被相続人に実子がいれば、配偶者と共に被相続人の相続権を持ちます。

また、被相続人がある者養子縁組を行っていれば、その養子も、実子と全く同様の相続権を取得します。

被相続人が何回か結婚して、それまでの配偶者との間に設けた子も、現在の配偶者との間の子と全く同じだけの相続権を取得します。被相続人の子が未成年者で、親権を離婚した配偶者に与えていても、相続権には影響しません。

子の他、被相続人と法律上の婚姻関係が無い配偶者に設けた子、すなわち法律的に言う「非嫡出子」も、被相続人がこの子を生前に認知しているか、または、遺言で認知した場合は、非嫡出子であっても、相続権が発生します。

しかし、この場合の相続分は、嫡出子の半分とされていました(民法900条4号但書)。

かつての最高裁判例では、法律婚を優先して、法によって社会秩序を維持するためだと考えられ合憲としていました。

しかし、様々なこの判例に対する批判が相次ぎ、法の下の平等を定める憲法下(憲法14条)にあって、この規定は違憲ではないかとされ、2013年の最高裁判決は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定を憲法違反と判事するに至りました。

尚、民法上の権利・義務の発生は、生きて生まれることですが、被相続人が死亡した時点で配偶者である妻が懐妊していた場合は、この胎児にも相続権が与えられます。

ただ、死んで生まれた場合は、相続権は遡及して消滅します。

また、被相続人に子がいたのですが、被相続人が亡くなる前、すなわち相続開始前に、その子が既に死んでいた場合はどうなるのかと言うと、被相続人の子の子、すなわち被相続人の孫が生きていれば、被相続人の子を代襲して相続権と取得します(代襲相続)。この代襲相続権は、曾孫、玄孫と直系卑属がいる限り、代襲して相続権を取得します。

尚、被相続人が子以外の誰かに遺産の全部を相続させると、その遺言で書き記しても、子は、「遺留分減殺請求」権を配偶者と同様に持つので、例えば、被相続人子が1人であれば、最低限、相続財産の2分の1の半分である4分の1の遺留分を請求する相続権を持ちます。

 

被相続人の親の相続権

 

被相続人の親に相続権が発生することも有りますが、被相続人に子や孫等の直系卑属が存在する場合は、原則として、被相続人の親の代に遡って相続権が発生することはありません。

相続法では、配偶者は常に相続人になると規定し、その他の血族相続人については、相続出来る順位が規定されています。被相続人の親は、相続順位第2位と高い順位ですが、まず、相続順位第1位の子が相続権を取得します。

被相続人に配偶者がいても、被相続人の子や孫等の直系卑属卑属がいない場合は、第2順位の被相続人の親にも相続権が発生します。

この場合で、被相続人の親が既に亡くなっていて、被相続人の祖父母が健在なら、これらの者が相続権を取得します。

 

兄弟姉妹の相続権

 

相続法で規定する兄弟姉妹の相続順位は第3順位です。

民法における相続の原則は、配偶者並びに直系血族を基本とするので、兄弟姉妹に相続権が与えられる場合は、それほど多くありません。

被相続人の兄弟姉妹に相続権が発生する要件は、被相続人に子や孫といった直系卑属も親や祖父母といった直系尊属も存在しない場合です。

よくある事例では、被相続人が未婚のままで亡くなったり、結婚はしたものの、子も養子もいない場合等に、兄弟姉妹に対する相続権が発生します。

また、既に亡くなっている親が再婚して儲けた子、いわゆるい異父・異母兄弟と言われる半血の兄弟姉妹でも、相続関しては、実の兄弟姉妹と同様の相続権があります。

 

姪や甥の相続権

 

被相続人に、親や祖父母といった直系尊属も子や孫等の直系卑属もいない場合に、兄弟姉妹の相続権が発生しますが、このような場合で、相続権を持つ兄弟姉妹が亡くなっている場合の相続権はどうなるのでしょうか。

この場合は、これら兄弟姉妹の相続権を兄弟姉妹の子(甥や姪)が代襲して相続します。兄弟姉妹には、被相続人がこれらの者に遺産を残さなくとも、遺留分減殺請求権で相続する権利を取得することはできませんが、代襲相続権は認められています。

 

遺言による相続権の取得

 

遺言は、被相続人の最終意思の表現なので、遺言は相続法の規定に優先して適用されます。遺言があれば、法定相続人以外の推定相続人に該当しない者も相続に関する権利を取得することができます。

被相続人が遺言で、「私の財産のうち、○○を甲に遺贈する」と書き残していれば、甲は遺産に対する相続権を取得します。

この場合の甲を法律的には、「受遺者」と呼んでいます。

受遺者として被相続人の遺産相続権を取得出来る対象は、私たち自然人に限らず、一般財団法人や福祉法人、会社、各種団体まで様々に認められています。

 

特別縁故者の相続権

 

民法は、法定相続人や遺贈によって被相続人の遺産相続権を有していない、法律上相続権が全くないと思われる者への例外的な相続権の発生を認めています。

この制度は、「特別縁故者」への遺産分与制度です。

「特別縁故者」とは、被相続人の生前に、被相続人の療養看護等に特に努めた等の被相続人と特別に深い関係性が認められる者を指します。

特別縁故者への財産分与が認められる要件は、まず、被相続人に、配偶者や血族法定相続人が誰1人として存在せず(法定代理人が無く、遺言により遺贈する受遺者もいない場合)てす。

特別縁故者として相続権を発生させるためには、まず、相続人の存在が確認できないことを家庭裁判所に申し出て認めてもらう必要があります。

この申請に基づき、家裁は、被相続人の相続財産管理人を選定します。

家庭裁判所が、「特別縁故者」に当たると認めたものだけが、「特別縁故者」に該当して、被相続人の遺産相続権を取得するのです。

特別縁故者に該当する事例として多いのは、事実婚上の配偶者、事実上の養子関係にある養子等ですが、福祉団体や市町村、また病院等も「特別縁故者」として認められる場合もあります。

特別縁故者として家裁に認められる要件は様々で、認定には事実の証明も必要なので、万一、生前の被相続人と親密な付き合いがあったり、療養看護に努めた方、被相続人の遺産形成に重要な役割を果たしたと考える方は、この分野に詳しい専門家に1度相談することがお薦めです。

 

相続税

相続税

 

相続税とは、亡くなった人(被相続人)が、生前有していた財産を、相続や遺言による「遺贈」により、取得した時に課せられる税金です。

相続で取得した者を「法定相続人」、遺言によって遺産に遺贈を受けたものを「受遺者」呼び、これらの者が、相続税の納税義務を負います。

相続税に関する事柄は、複雑で難解な部分も多いので、納税者自身が相続税の基本事項を理解することと同時に、相続税の納付を円滑・有利に行うには、相続税に精通する専門家のアドバイスは欠かせません。

 

相続税の計算手順

 

1.相続税を算出するには、まず、被相続人の残した相続財産の総額を算出することが必要です。

現金や預貯金、不動産、有価証券、ゴルフ会員権、書画骨董・美術品等の財産的価値のある被相続人の全て財産を集計してします。

その後、この総額から被相続人の借り入れ金やローン等の負債や葬儀費用等の税金控除の対象となる費用を控除して、被相続人の遺産の正味価額を算出します。

この遺産総額が、税法上認められている基礎控除額に満たない場合は、相続税は課せられず、申告の必要はありません。

遺産総額が、基礎控除額を超えていた場合は、相続税の算定を行い、納期までに、納税すべき金額を納める必要が生じます。

2.相続税の総額の計算

相続税の総額の算出は、まず、法定相続人各人が、法定相続分通りに相続財産を取得したとみなして算出します。

相続財産の分割に際しては、相続人全員の同意に基づく遺産分割協議が優先されますが、遺産分割の方法によっては、相続税の額が変動することもよくあり、相続税対策を目的とする不当な遺産分割協議が行われる可能性も否定できないので、まず、法定相続分に従った相続分を算出し、その際の相続税を計算します。

3.相続税の総額を算出し、各相続人が取得した実際の相続財産の割合に応じて、相続税を負担します。

相続財産は、現金や預貯金等の分割可能な「可分債券」ばかりではなく、不動産や日々刻々と値が変化する株式等の財産もあります。

そこで、これらの遺産の価値を正確には把握し、税法上問題が生じることなく、相続税を計算するには、非常に高い専門知識が必要です。

税額の計算は、税理士の業務ですし、不動産の評価は、不動産鑑定士がその専門家です。

この他、相続税の規定には、様々な特例や国税庁の通達もあるので、基礎控除を超える方はもちろん、自分は基礎控除内の相続なので、相続税の納付義務はないとお考えの方も、相続税に関しては、専門家と相談してその知恵と経験、専門知識を借りることが賢明な選択と言えます。

 

相続税とみなし相続財産

 

「みなし相続財産」とは、相続税の納付手続き上、被相続人の本来の財産ではないのも関わらず、相続財産に算入され、課税対象となる財産です。

本来、被相続人の死亡を原因として相続人に支払われる生命保険金や死亡退職金は、被相続人が生前有していた財産ではないので相続財産とは言えません。民法上の相続財産には入らず、「遺産分割協議」の対象から除外されますが、生命保険金や死亡退職金は、「みなし相続財産」として相続税の対象となる場合があるのでので注意して下さい。

1.被相続人が亡くなる前の3年間に贈与した財産は、「みなし相続財産」に該当します。

このみなし財産の規定は、被相続人が自分がの死んだ時のことを考えて、贈与することでより多くの遺産を相続人に残そうとする、被相続人の相続税載節税行為を防止するための制度です。

被相続人が死亡する前3年間に贈与した財産は、みなし相続財産とされ、相続財産に算入され、相続税の課税対象になります。

2.生命保険金

被相続人が生命保険の保険料の支払いを行い、保険金の受取人である場合は当然ながら、被相続人の死亡で支払われる保険金は、被相続財産と考えられるので、被相続人の通常の相続財産に算入して相続税の対象になります。

また、被相続人がその死を考えて、生命保険の受取人を相続人変更して相続税の節税を目論むことも考えられます。このような相続税の節税行為を防ぐために、相続税に関し原則として、保険料を被相続人が支払っていた場合の生命保険金は、被相続人の「みなし相続財産」として相続税の課税対象としています。

この結論は、生命保険金の受取人が誰であっても変わりません。

ただ、生命保険金の相続では、非課税限度額が設定されていて、500万円×法定相続人の数で算出する額までは、非課税になります。

2.死亡退職金

死亡退職金とは、被相続人の死亡により、被相続人に支給されるはずであった退職金や功労金等の給与に準ずるお金のことを言います。

死亡退職金は、被相続人の死から3年以内に支給が確定したものは、「みなし相続財産」とされ、相続税の課税対象に算入されます。

ただ、相続人が受け取った、死亡退職金の全額が相続税の対象になるのではなく、500万円×法定相続人の数で算出する非課税限度額までは課税されません。

尚、相続人以外が受け取った死亡退職金には、非課税限度額の適用はありません。

3.弔慰金

被相続人が亡くなった方際に受ける弔慰金やお花代等は、原則として相続税の対象にはなりません。これらを相続税の対象とすることは、国民感情に反すると考えられているからです。ただ、被相続人が勤めていた会社等から受け取った金員等が、実質的に退職慰労金と認められる場合は、相続税の対象になります。

 

相続税の税率

 

現行の相続率は、以下のようになっていますが、相続税が改正され、

課税標準

税率

控除額

1000万円以下

10%

              ー

3000万円以下

15%

50万円

5000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

3億円以下

   40%

1700万円

3億円超

50%

4700万円

2015年1月1日以降は、

課税標準 税率 控除額

1,000万円以下

10%

-

1,000万円超~3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超~5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超~1億円以下

30%

700万円

1億円超~2億円以下

40%

1,700万円

2億円超~3億円以下

45%

2,700万円

3億円超~6億円以下

50%

4,200万円

6億円超~

55%

7,200万円

になります。

 

納税額の減額

 

1.配偶者の特例

被相続人の配偶者は、課税価格合計額×配偶者の法定相続分と1億6000万円を比較して、いずれか多い金額まで、相続税が課せられません。

ただ、この結果、配偶者の相続税がたとえ0円であっても、相続税の申告書は提出する必要があるので注意して下さい。

また、遺産分割協議が遅れ、申告期限までに相続財産が確定しない場合は、一旦法定相続分の申告書を提出し相続税をおさめ、申告期限から3年以内に相続分が確定したら、配偶者特例を請求して、相続税を返還請求できます。

2.未成年控除

現行の未成年控除は、20歳まで1年につき6万円ですが、2015年からは、20歳まで、1年につき10万円に引き上げられます。

3.障害者控除

現行の障害者控除は、85歳まで1年につき6万円(特別障害の場合は、12万円)ですが、2015年からは、85歳まで1年につき10万円(特別障害者の場合は、20万円)に引き上げられます。

3.相次相続控除

被相続人の死亡前10年以内に開始した相続で、今回相続を受けた相続人が財産を取得し相続税を納めている場合は、その相続税のうちの一定額を今回の納税額から控除する規定があります。

4.外国税控除

相続により外国にある財産を取得した者で、外国の相続税等が課せられた場合は、その税額を日本の相続税から控除できます。

 

相続税の申告

 

相続税の申告は、「相続を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日で、通常は、被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内に被相続人の住所地を管轄する税務署に申告書を提出し、納税することが義務付けられています。

万一、これに反すれば、加算税や滞納税が課されることがあります。

ただ、必ずしも遺産分割協議がスムーズに進行するとも限らず、遺産分割協議が相続税申告・納付期日に間に合わない場合もあります。

間に合わない場合は、とりあえず、未分割状態の相続財産の法定相続分を相続したとして、申告・納税を完了します。

その後、遺産分割協議がまとまり相続財産が確定し、その時が相続税申告期限から3年以内であれば、相続税の払い過ぎがある場合は、「相続税の更生」をして、返還してもらう事ができます。

ただ、確定した納税金額が納税した金額より少なかった場合は、「相続税の修正申告」を行い、足らない分を追加して納税する義務があります。

 

相続税の延納

 

相続税の納付は、納付期限までに現金で1回で納付することが原則ですが、ただ、現金で1回に納付することが困難な場合は、一定の要件を満たせば、延納(相続税を分割納付する方法)することが出来ます。

延納の適用要件は、

①納付額が10万円を超えていること。

②相続税の納付期限までに、現金で一時に納税することが困難であること。

③担保を供与すること(但し、延納金額が50万円未満で、かつ、延納期間が3年以下の場合は不要)

④延納期限までに、延納申請書を提出すること。

の以上4つです。

尚、延納は相続税の分割払いなので、利子相当額の利子税が加算されます。

 

相続税の物納

 

相続税を延のうによっても現金で納付できない場合は、一定の条件下で、「物納」することが認められています。

物納の要件は、

①相続税を納付期限までに現金一時納付または延納によっても現金で納付することが困難である場合。

②納付期限までに、物納申請書を提出し、それと同時に、物納の対象物が不動産であれば、登記事項証明書や測量図、協会確認書等を提出すること。

の以上2つです。

物納出来るものには順位があり、第1順位が国債や地方債、不動産、船舶、第2順位が株式、公社債、投資信託等の有価証券、貸付信託等の受益証券、第3順位が動産です。

 

 

 

相続人

相続人

 

「相続人」とは、亡くなった被相続人の財産、権利義務等の法的地位を承継する者のことです。

これらの者は、法定相続人と呼ばれ、民法上、相続順位も決められています。

また、相続順位には入っている者で、相続開始前の相続人を「推定相続人」と呼んでいます。

相続人と一言で言っても、多様な広がりを見せることもあるので、基本的な相続人に関する知識と理解を得ることは、相続する際に欠くことのできないことと言えます。

 

相続人の範囲

 

相続人は大きく分けて、被相続人と血が繋がっている相続人と繋がっていない相続人の2つに分かれます。

被相続人の配偶者と被相続人の子や親、兄弟姉妹等の血族関係の2つで、配偶者は常に相続人になります(民法890条)。

相続人になれる範囲は民法に規定されています。これらの者を「法定相続人」と呼んでいます。民法により、相続順位(地位)を与えられたものと言い代えることもできます。

法定相続人は、配偶者、被相続人の子、被相続人の親や祖父・祖母等の尊属、兄弟姉妹に限られます。

ただ、法定相続人であっても、相続開始後は、誰が推定相続人であるかを確定する必要があります。法定相続人の全てが実際に相続できるとは限りません。

この相続人確定作業は、戸籍を辿る作業が必要で、被相続人の血族関係が複雑な場合は、非常に手間のかかる業務になります。

先述の通り、まず、被相続人の配偶者は、常に相続人になります。

配偶者は、「配偶者相続人」と呼ばれています。配偶者は、法律上の婚姻届を提出した者のみを指し(法律婚)、内縁関係(事実婚)等は相続人の範囲に該当しません。

次に、被相続人の子や孫といった直系卑属、また、親や祖父母等の直系尊属、更に、兄弟姉妹が血族相続人となり、民法上の法定相続人に該当します。

この血族関係にある法定相続人には、婚姻のため別姓を名乗る娘や養子に出した子(特別養子に出すと従前の親子関係はなくなるので、被相続人が実の親であっても相続権はありません)、被相続人が再婚者である場合は、先妻との間にできた子も法定相続人に該当します。

また、人は生まれて初めて人としての権利・義務の主体となりますが、相続法上は、まだ生まれていない胎児にも相続権が認められています。この趣旨は、僅かな出生日の違いで、相続出来ないとするは不平等な事態を招くからです。

ただ、胎児が死んで生まれれば(死体で生まれた時)、子となみなすことが出来ず、初めからいなかったことにみなされます(民法8886条)。

法定相続人の内、血族関係の相続人の中には相続順位は与えられているものの、上位の相続順位を持つ血族がある場合は、実際には相続出来ない者もいます。

例えば、被相続人の相続順位の1位は被相続人の子ですが、この子が被相続人が亡くなる前に既に死んでいても、亡くなった子に子供がある場合、被相続人から言えば、孫がいる場合は、その孫に相続権が移転します。

被相続人の親が健在の場合は、被相続人の親が第2位の相続順位を持ちます。親が既に亡くなっていて、その親の親すなわち、被相続人の祖父ないし租母が生きている場合は、それらの者が第2順位の相続人になります。

更にこれらに続く順位の相続人が、被相続人の兄弟姉妹です。もし、兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、被相続人兄弟姉妹の子である甥や姪が第3順位の相続人になります。

これらをまとめると、相続は配偶者並びに直系血族関係を第一にして行うので、被相続人に子や孫ある場合は、それらの者のみが相続人に該当し、被相続人の親や兄弟姉妹の相続権はありません。

 

代襲相続制度とは

 

被相続人の子又は兄弟姉妹が相続人となる場合、民法には代襲相続制度と言う相続形態が規定されています。

代襲相続とは、本来血族相続人として被相続人に対する相続権を有していたにも関わらず、被相続人の死亡、つまり相続開始時に既にこの者が亡くなっていた場合等に、その子や孫が代わりに(代襲して)相続人になる相続制度です。

代襲される者を 「被代襲者」、代襲する者を 「代襲者」 と呼んでいます。

例えば、被相続人に子が2人いて、その1人が被相続人が亡くなる前に既に死亡しており、その者に子がある場合は、被相続人の孫にあたる者が既に死亡している相続人を代襲して相続します。

また、代襲制度は、被相続人が死亡する前に、子が既に死亡していた場合に限らず、推定相続人とされていた者が、相続欠格であたったり、被相続人がその者を相続人から廃除し、その相続人が相続権を失った場合も有効に機能します。

ただ、相続放棄の場合は、相続放棄した者は「初めから」相続人ではなかったことになるので、もとになる相続権そのものが無いことになるので、代襲相続は観念できません。

 

代襲相続者の範囲と相続分

 

代襲相続ができる者は、被相続人の直系卑属と兄弟姉妹が相続人の子までです。

例えば、養子縁組の前に養子に子があった場合、この養子の連れ子は被相続人の直系卑属に該当しないので、被相続人と養子縁組していない限り、代襲相続することができません。また、相続では、配偶者は常に相続人になりますが、配偶者の代襲相続は認められていないので、例えば夫が夫の親(義父ないし義母)より先に亡くなっている場合、被相続人となった義父・義母の遺産は全く相続出来ないことになります。

この点は、相続関係の盲点とも言える事項なので、十分理解しておくことが必要です。遺言を残して貰って下さい。

代襲相続人の相続分は、例えば代襲者が被相続人の孫であった場合は、本来相続人であった被相続人の子と同じです。被相続人に何人かの子がある場合は、その人数で相続分を均等に分割します。

 

再代襲とは

 

民法は、被相続人の代襲者が既に亡くなっていても、更にその相続権を代襲して相続する権利を認めています。

例えば、被相続人の子や孫が既に亡くなっていても、孫の子である曾孫が孫を代襲して相続します。これを再代襲と言います。

再代襲制度は、被相続人の兄弟姉妹には認められていないので、被相続人の甥や姪が再代襲することはありません。甥や姪の再代襲制度は、以前は認められていたのですが、血縁関係の薄い甥や名にまで相続権を認めたのでは、いわゆる「たなぼた」で遺産を相続する、「笑う相続人」を生むことになるので、甥や姪に対する再代襲は認められないことにしました。

相続は、被相続人が生前有していた権利や財産、法律的な地位を相続人に実現することが原則ですが、被相続人が築いた財産も被相続人だけの力だけではなく、一般社会の恩恵を元に作られたことを考慮すると、この制度廃止は当然なことかもしれません。

 

同時死亡の推定について

 

相続は被相続人が死亡と同時に開始されますが、被相続人が死亡した時点で相続人が生存していなければ相続を観念できません。

例えば、被相続人とその子が同じ飛行機事故で亡くなった場合は、どちらが先に死亡したのか判断することは不可能と言えます。このような状況を想定した制度が、「同時死亡の推定」と言う民法上の規定です。言葉の通り、このような場合は、同時に死亡したことになります。

同時死亡の推定がなされると、相続は被相続人が死亡した時に生存していないことになるので、被相続人の子は、被相続人を相続することはなく、また、その逆で、親も子を相続しません。

ただ、同時死亡の推定がなされた場合でも、代襲相続は認められるので、被相続人の子供の子、すなわち被相続人の孫は代襲相続権を有します。

 

相続欠格と相続人の廃除について

 

相続人にも、社会通念上、相続権を認めては社会秩序を乱しかねない者も存在します。

このような相続人から相続権を奪う制度が民法に規定されています。・

民法では、相続人にある一定の重大な非行がある場合には、相続できないようにする「相続欠格」と「相続の廃除制度があります。

このうち、相続欠格に該当する者は、1.被相続人や先順位の相続人を殺したり、殺そうとしたために刑罰を受けた者、また、2.相続人が殺されたことを知りながらこれを告訴、告発しなかった者、3.詐欺や強迫によって、被相続人に遺言を取り消させたり、遺言内容を変更させた者、及び、被相続人の権利である遺言の変更や取り消しを妨げた者、4.被相続人の遺言を偽造、破棄、隠ぺいした者です。

次に、相続人の廃除とは、相続欠格事由に当たるほどの強度の非行はないものの、相続人にある一定の非行が認められると、被相続人の意思により、相続人から除くことにする制度です。

相続人の廃除には、被相続人が廃除したい相続人の非行を家庭裁判所に申述し、家裁がこれを調停や審判によって認めることで法的効果が生じます。

 

相続人、不存在の場合

 

被相続人が亡くなった時、配偶者や子をはじめ、法定相続人である親や兄弟姉妹等が不存在であるか、または、存在が明らかでない場合があります。このような相続に関する情況を「相続人の不存在」と言います。

被相続人の相続人の存在が明らかでない場合は、本当に被相続人に相続人がいないのかを調査し確定する必要があります。もし、相続人が不存在であれば、相続財産は、被相続人の生活の面倒を見てきた方等の特別縁故者と認められた人がいない場合は、国庫に帰属することになります。

先述した、相続欠格や相続廃除に当たる場合で、代襲・再代襲者がいない場合も、相続人の不存在に該当します。。

相続の手続き

相続の手続き

 

相続は被相続人が、死亡したと同時に開始されます。相続手続きには期限が定められているので、悲しみに浸る暇もなく、相続手続きを着実に進行させなければなりません。

相続については、民法にかなり突っ込んだ詳細な規定が有りますが、これは被相続人の最終意思の発現である遺言書の無い場合に活用され、相続実務は、被相続人や相続人の意思に沿って行われます。

相続手続きは、遺言書や相続人の話し合いや合意により進行するので、各相続人は、相続手続きの概要を知れば、手続きの迅速化を図ることができ、手続きを専門家に依頼する場合も、相続手続きの全体を俯瞰することが出来るので、安心して相続手続きを行えます。

死亡届の提出

 

死亡届の提出は、相続とは直接関連しませんが、人の死亡に際してまずなすことが死亡届の提出です。死亡届は、被相続人が亡くなった日、または、その死亡したことを知った日から7日以内に市町村役場に届出を行います。

この際、死亡診断書と死亡届はセットになっていて、病院で亡くなった場合の死亡診断書は、生命保険を請求するためにも必要です。

死亡届提出の効果は、被相続人の戸籍に死亡記事が記載され、住民票も削除されます。

 

遺言書の存在確認

 

死亡届の提出の後、被相続人の遺言が有るか無いかを確認します。

遺言書の確認を怠ると、遺産分割協議が合意に至っていたあとでも、最初から協議をやり直す必要があるので注意して下さい。

原則として、遺言は被相続人の最終的な意思表示なので、「遺産分割協議」に優先して適用されます。

遺言書が見つかれば、その遺言書が「自筆証書遺言」である場合は、家庭裁判所で、「検認」の手続きを行って下さい。検認の前に、勝手に開封すると過料に課せられることがあるので開封しなでください。

開封した遺言を変造・廃棄、また、遺言を隠匿した者は、相続欠陥事由に該当し、相続権を失う事もあります。

「検認」が終了すれば、遺産確定作業や相続人調査を開始します。

尚、秘密証書遺言の場合も、「検認」手続きが要ります。

「公正証書遺言」の場合は、「検認」の手続きは必要ないので、遺産確定作業や相続人調査を進めることになります。

遺言の無い場合も有る場合も、法定相続人が法定相続分を相続することになりますが、相続人全員で行う「遺産分割協議」での合意により、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことも可能です。

ただ、遺言の有る場合で、遺言執行者が指定されている場合は、遺言の執行は、遺言執行者の判断が優先されます。遺言で認知した子や相続廃除が有った場合は、相続人が変わることになるので、相続人全員で行う必要のある「遺産分割協議」を初めからやり直す必要に迫られます。

 

法定相続人の確定

 

民法には、配偶者並びに血族相続人の相続順位が規定されていますが、これらの相続人は明確に決定した相続人ではなく、「推定相続人」と呼ばれる相続人です。

そこで、被相続人の遺産相続手続きを行うには、真の「相続人」は誰なのかを確定する作業を行う必要があります。

遺産分割協議が終了した後に、相続権者が現れた時は、また最初から協議をやり直さなければならないので、相続人の確定作業は重要な相続手続きと言えます。

法定相続人の確定は、まず、被相続人が生まれた時から亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍)を被相続人の本籍地や居住地の市町村役場で入手します。

この戸籍により、被相続人の子の数や名前、また認知した子や養子の有無を調査し、被相続人にこれらの者がいない時は、被相続人の両親や祖父母まで遡って戸籍を調査し、法定相続人の確定を行います。

この相続人確定作業は、被相続人の歩んだ人生によっても異なりますが、複雑場合は、その分相続人の確定は複雑さを極め、大変面倒な作業で、相続手続きの山場となることも有ります。

 

遺産の調査と財産目録の作成

 

法定相続人の確定作業が終了すれば、次に遺産の調査を開始して「相続財産目録」を作成します。

この目録は、相続人全員で行う「遺産分割協議」には欠くことのできない資料なので、もれなく調査・記入することが必要です。

相続財産目録を作成することで、被相続人が残した債券・現金・不動産等の積極財産や負債等の消極財産が明確になります。

これによって、単純承認するのか、また、限定承認、相続放棄するのかを相続人が判断することにもつながるので、財産目録の財産価値の試算はとても重要な作業です。

尚、限定承認、相続放棄を行う場合は、被相続人の死亡時(相続開始時)または、知った時から3か月以内に家庭裁判所に申し出る必要があり、限定承認に際しては、相続人全員の合意が必要です。

 

遺産分割協議と遺産分割協議書の作成

 

被相続人の遺産調査が終了し、「相続財産目録」を作成したら、遺産内容の確認の上、単純相続、限定相続、相続放棄と言う、相続人に自由意思に委ねられている相続方法を選定します。その後、遺産分割協議を開始して遺産分割協議書を作成します。

この協議書を元に、被相続人の遺産に不動産が含まれていたなら、相続を原因とする所有権移転登記を行い、金融機関等の名義変更手続きを行います。

民法が規定する相続割合は、遺言書が無い場合を想定し、法定相続分を明記しています。ただ、現金や預金等は、可分債権であるため、明確に法定相続分によって分割されるので、遺産分割協議の対象外と言えます。実際の被相続人の遺産は、不動産等の不可分財産が含まれていることが大半なので、遺産分割協議を行うことで、相続人相互に納得と公平感ある相続にすることができるのです。

遺産分割協議は、被相続人の遺産が現金等の可分債権だけであったり、遺言が残されており、その遺言が要式性を持つ法的に有効なものならば、遺言書に従った相続(法定相続人の遺留分を侵害した場合は、「遺留分減殺請求」を提起できる)が行われるため、取り立てて、これを開催する必要もない場合も有ります。

 

遺産分割協議不調に終わった場合

 

遺産分割協議は、悪く言えば、相続各人の欲の絡んだ財産の争奪合戦と思われる場面を呈することさえあります。何回も協議を重ねても納得のいかない相続人が出ることも考えられます。

このように、遺産分割協議がまとまらなかった場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し出てください。裁判その家事審判委員が調停委員となって、各相続人の主張を聞き、調停案を出してくれます。また、この調停案を受け入れないものは、裁判官が下す審判手続きに進むことになります。それでも受け入れない場合は、即時抗告して、高等裁判所で戦います。

尚、遺産分割については、「調停前置主義」が採られているいので、争う場合は、まず、家裁の調停を受ける必要が有ります。

 

遺産分割協議書作成時の注意点とは

 

遺産分割協議書には、遺言書のような要式性は求められていません。ただ、相続分割を決する相続人全員の協議内容を定めた、言わば相続手続きの要となる文書なので、作成に関しては落ち度のないよう十分注意する必要があります。

遺産分割協議書においては、まず、1.当該文書が「遺産分割協議書」であることを明確にすることが必要です。

2.相続人を確定して列記します。(相続人全員の署名・実印による押印)3.被相続人が誰であるか、その名前や死亡日を記載します。3.各相続人の相続分割合を記載します。4.遺産分割協議後の出現した相続人や相続財産に対処するため、当該遺産分割協議書が作成された期日を明記します。また、新たな相続人が判明した場合や新たな事実が確認された場合等に対して、再度協議する旨を明文で規定しておく。

5.「遺産分割協議書」が複数枚に渡る場合は、各ページの間に相続人全員の契印(割印)を押す。

6.相続財産が不動産の場合は、当該不動産が特定出来る物件の記載でも構いませんが、その不動産の登記記録情報を正確に記載することがベストです。

 

相続税の申告と納付

 

遺産分割協議書の作成が終了し、各相続人の相続分が確定したら、相続人は、相続税を計算して期限までに納付する必要があります。

相続税の申告・納付は、相続開始を知った日(被相続人の死亡を知った日)の翌日から10か月以内です。

 

借金の相続

借金の相続

 

相続は、亡くなった被相続人が生前有していた権利・義務等の法的地位の全てを相続人が承継することが原則なので、被相続人が借金を抱えたいた場合も、原則として相続対象になります。

ただ、相続によって、相続人が不測の損害を被ることを避けるため、民法ではその回避制度を設けています。

借金の相続を行いたくない場合の手続きや対処法についての基礎的な知識を得ることは、相続人には欠かせないものと言えます。

 

相続は、マイナス遺産も承継する

 

相続する被相続人の財産は、預金や有価証券、株式、不動産といったプラスの財産(積極財産)ばかりとは限りません。被相続人が金融機関等から借金をしていたり、身近な例では、住宅ローンの返済義務が残っている場合もあるでしょう。

相続は、原則として、相続が開始(被相続人の死亡と同時に相続が発生)すると、相続人はその時点で何らの意思表示をしなくても、また相続の事実を知らなくても、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。

つまり、被相続人の借金返済義務も承継することになります。したがって、相続をすれば借金の返済義務を負います。

多少の借金なら何とかするとしても、借金が大きな金額であれば、相続財産を持ってしても払いきれない状態に陥る危険もあります。いわゆる債務超過の状態です。

 

単純承継とは

 

相続は、後述する相続放棄や限定承認手続きを家庭裁判所に申請しない限り、被相続人が生前有していた一身専属権を除く、全ての権利・義務、財産(プラスの財産・マイナスの財産=借金、負債、債務保証等)を承継したものされます。相続ではこの承継形態を「単純相続」と呼んでいます。

また、相続人が相続放棄や限定承認手続きを申請する前に、相続財産の全部またはその一部を処分すれば、単純承認したことになります。更に、相続財産を全部またはその一部を故意に隠したり、使用した場合も、限定承認の際に提出する「財産目録」記載しなかった場合も単純承認となります。

 

相続放棄制度の趣旨

 

民法は、借金を相続しない自由を相続人に認めています。

被相続人が借金を負っていた場合に、相続人を救済する民法上の制度が「相続放棄」です。相続放棄をすると、相続放棄した者は、「初めから」相続人でなかったことに法律上擬制されます(民法939条)。このことは、最初から相続人としての地位を1度も有していないことになるので、亡くなった被相続人が生前有していた権利・義務、財産の一切の承継をすることがないことを意味します。当然、被相続人の借金の返債義務も無くなります。

相続放棄は、被相続人が残した負の遺産から相続人の生活を保護する制度です。例えば、被相続人に金融機関からの多額の借金があり、プラスの遺産だけでは支払い不可能な場合は、相続人は、相続放棄して初めから相続人にならなうように法律上犠牲して、その後の生活を守るのです。

また、相続放棄制度は、被相続人が事業者主や農業を営んでいた場合にうまく活用されます。

事業や農業は、相続による事業資産の分割や農地の細分化が起きては効率的な運営が出来ない場合が多いので、事業資産や農地の細分化を防ぐため、被相続人の借金が無くても、被相続人の後継者に後を継がせるために他の推定相続人に相続放棄をしてもらう事もあります。

ただ、相続放棄は、被相続人や他の相続人が合意していても、被相続人の生前に約束していても法律上は無効なので注意が必要です。

 

相続放棄の手続きと法的効果

 

相続は、相続人知っているか否かに関わらず、亡くなった被相続人の死亡と同時に開始しまが、相続放棄したい相続人は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。相続放棄は、限定承認とは異なり、他に相続人がいる場合でも単独の意思で自由に申請することができます。

家裁の相続放棄の申述が認められれば、相続放棄した相続人は、「初めから」相続人でなかったことになります。

相続には、代襲相続と言って、世代を跨いだ相続制度があります。

例えば、相続廃除された被相続人の子がいた場合でも、その廃除された者に子がある場合は、その子が被相続人の相続財産を代襲相続出来ます。

しかし、相続放棄の法的効果は、「初めから」相続人でなかったことに擬制されるので、この代襲相続もその法的根拠を無くし出来なくなるのです。

相続放棄は、各相続人の相続分に影響を与えたり、相続順位も変わります。

例えば、配偶者と子が法定相続人の場合に、子が相続放棄すれば、被相続人の親が健在であれば、その親は第2順位の法定相続人として遺産を相続する権利を有することになります。
限定承認

 

被相続人の遺産価値がなかなか判明しない場合もあります。また、どれ位の借金があるのか良く分からないことも多いと言えます。

例えば、不動産投資や株式投資と行って資産運用していた被相続人の場合、投資した不動産価値が、地域の再開発事業等で大きく膨らんだり、投資した株式が新規に上場して資産価値が上昇した場合も考えられます。

表面上、被相続人に多額の借金があるので、これを相続しない為に相続放棄することも考えられますが、相続放棄は、被相続人の全遺産の承継を放棄することなので、もし、被相続人が投資対象としていた資産が今後も活用可能で運用したい場合は、相続人はそのチャンスを根元から失うことになります。こんな場合、相続人は相続放棄をなすか否か十分検討する必要があります。

そこで考えられた相続上の制度が、限定承認です。

限定承認を行えば、相続人が相続によって獲得した財産の限度でおいてのみ、被相続人の債務を弁済する義務を負う事になります。(民法922条)


限定承認の手続き


まず、限定承認を行う前提として、相続放棄と異なり相続人が他にいる場合は、それら共同相続人全員で裁判所にその旨を申請する必要があります。

限定承認は、相続開始を知ってから3か月以内に被相続人が残した「財産目録」を家庭裁判所に提出すると共に申請します。

限定承認は、「財産目録」の作成やその他相続財産価値の評価等の様々な手続き上の複雑な作業が伴うので簡単な手続きだとは言えません。限定承認をお考えの方は、これらの業務に豊富な経験と実績を持つ専門家の知恵を活用すべきです。

借金の相続負担の合意は、相続人間で有効

 

相続は、亡くなった被相続人の生前における法律上の地位を相続人において承継させる制度です。

制度上は相続分に応じて按分に被相続人の権利・義務を相続するのが原則ですが、実際は、相続分に従って按分相続しては不都合なことも多いのです。

例えば、事業主や農業経営者が亡くなった場合は、その事業の後継者(承継者)が、その地経営資産や事業資産をまとめて承継することが一般的です。

被相続人が事業経営者や農業経営者である場合は、事業資金を金融機関や農協等から借入している場合も多く、また、土地や建物、機械等の導入時に金融機関のローンを組んでおり、その返済途中であることも多いのです。

このような場合、相続人の誰が被相続人の借金を相続するか(債務を引き継ぐか)といった問題が生じます。

この場合、相続人全員で行われる遺産分割協議等で、被相続人の借金引き継ぎの行為をなすことは、判例上有効とされています。ただ、誰が借金を相続するかは借金先の金融機関等の承諾が必要です。

また、被相続人が一般サラリーマン等であった場合は、住宅ローン債務(借金)は誰が引き継ぐかといった問題が生ることも多いと思います。
ただ、現在の住宅ローン融資では、融資条件に団体信用保険への加入が義務化している場合がほとんどであり、生命保険住宅ローン商品も数多く提供されているので、万一被相続人がローン返済途中に亡くなって相続人がこの借金を相続しても、生命保険会社が相続人に代わってローン残金の返済をなすので、相続人が借金の相続で不測の事態に陥り、困窮することはあまりないと言えます。

遺産相続

遺産相続

 

被相続人の遺産は、積極財産ばかりとは限らず、マイナスの消極財産も存在する可能性があります。

遺産相続につい基本的な知識がないと、相続人は、被相続人からの遺産相続で大きな負担を強いられる事態に陥ることもあります。

また、遺産価値の評価には、専門家の知識を借りなければならない場合も多く、遺産相続に複雑な手続きを必要とする場合もあります。

そこで、相続人は専門家の知恵と経験を活用し、相続人自身も、遺産相続について基本的ではあるが、確実な知識を備えておくことが必要なのです。

 

遺産相続とは

 

相続とは、ある人(被相続人)が死亡した時、その人が生前有していた権利・義務等、また、財産的地位を被相続人の配偶者や子などの一定の身分関係にある者(相続人。法定相続人)が、原則としてそのまま受け継ぐことを言います。民法の規定では、人が亡くなると被相続人の一切の財産は、相続人に承継されるとする明文規定があります。(民法896条)。

この亡くなった被相続人から相続人に承継される財産のことを「相続財産」または、「遺産」と呼んでいます。

相続の対象となる遺産は、現金、不動産、有価証券等のプラス財産だけではなく、金融機関からの借り入れや債務保証、損害賠償債務等のマイナス財産も含まれます。

 

相続分

 

遺言が無い場合で、推定相続人が複数存在する場合は、法定相続分の割合に応じてなくなった方(被相続人)の遺産は相続人に承継されます。

その割合は、例えば被相続人に配偶者と子がある場合は、相続分はそれぞれ2分の1ずつ、子が2人の場合は、それぞれが4分の1の遺産を相続します。

また、被相続人に子がおらず、妻と被相続人の親が健在であれば、配偶者が遺産の3分の2、親が3分の1を相続します。更に、相続対象者が被相続人の配偶者と兄弟姉妹である場合は、配偶者が4分の3を兄弟姉妹が4分に1の遺産を相続します(法定相続分。民法900条)。

またこの遺産相続の分配については、この原則に加え、被相続人が生前の遺産形成にどれ位相続人が寄与したのかと言う「寄与分」や生前に相続人が被相続人から受けた「特別受益」等の要素を加味して遺産相続を行う事になります。

 

遺言がある場合

 

遺言の有る場合は、遺言の内容が法定相続規定に優先されます。例えば、被相続人(亡くなった方)が、遺産の全部を甲に相続させると遺言を残すと、法定相続人による遺留分減殺請求が無い限り、全ての遺産は甲に承継されることになります。

遺留分は、法定相続分の2分の1であり、配偶者と子が相続人ある場合の遺留分は、配偶者と子は、法定相続分2分の1の半分の4分の1となります。

また、兄弟姉妹には遺留分が認められないので、もし、被相続人に子や親が無く、兄弟姉妹に遺産相続をさせない為には、配偶者に遺産の全部を相続させる旨の遺言書を残すことが必要です。 被相続人の残した遺産相続の最終的な帰属は、原則として、全ての相続人の間で行われる協議によって決定します。法律上この協議を「遺産分割協議」と言います。

 

遺産分割協議がまとまらない場合

 

遺産分割協議を行っても相続人の意見がまとまらないこともあります。このような場合は、家庭裁判所に調停や審判といった判断を下して貰える制度があります。最終的には裁判になりますが、この場合でも、まず調停を申請する必要があります(調停前置主義)。

遺産分割は、遺言の有効性やどの範囲の財産が相続対象にあたるのかといった複雑な法律問題が生じることも多いので、遺産相続に関する専門知識と十分な実務経験を有する専門家に遺産相続がこじれる前に相談して、相続人の遺産相続についての基本的な知識を醸成しておくことが得策です。

 

遺産調査には専門家を活用するのが得策

 

また、遺産と言っても、必ずしも現金や有価証券、不動産、権利・債券等のプラスの遺産(積極財産)ばかりではなく、金融機関等からの借り入れ等のマイナス財産(消極財産)もあり、このような場合は、ただ単純に遺産相続について単純包括承認するとその後に大きな禍根を残す危険もあるので十分注意して下さい。

そこで、相続人は、被相続人が生前有していた遺産(相続財産)を調査することが求められます。この点については、積極財産と消極財産の財産目録を作成する必要があるので、遺産相続に経験と知識のない者にとって大きな負担となります。また、正確な遺産の財産的な評価も難しいことから、まず専門家の知恵と経験を活用すると良いでしょう。

 

遺産相続に関する3つの制度

 

遺産相続には、民法上3つの制度が設けられ、相続人はこれら3つの制度を自由に選択することが可能です。

1.単純承認

単純承認とは、相続開始を知った時から後述する限定承認や相続放棄をしなかった時や遺産の全部やその一部を処分した時に承認したと認める制度です。

また、限定承認または相続放棄した場合であっても、相続財産を隠ぺいしたり処分すれば、法定単純承認したことになるので注意が必要です。

2.限定承認

限定承認とは、相続した遺産(不動産、現金、有価証券等)の範囲内で、被相続人が残したマイナスの遺産である負債の債務責任を負う制度です。債務の不足分は弁済責任が免除されます。

ただ、限定承認しても債務が有限になるのではなく、債務は一応全て相続人が承継し、返済責任が遺産の範囲になると言う事です。

そこで、責任以上の弁済を債務が無いのにあると思って弁済した(非債弁済)場合でも、この弁済は有効で、後から法律上の根拠のない弁済として不当利得返還請求することはできないので注意が必要です。

限定承認は、相続の開始を知ってから3か月以内に財産目録を作成し、家庭裁判所に「限定承認の家事審判書」を提出することが必要です。また、限定承認は、相続人全員の同意が必要です。

3.相続放棄

相続放棄とは、その名の如く、相続権をすべて放棄することです。もちろん、被相続人が残した消極財産も受け継ぎません。相続放棄をすれば、相続人は、初めから相続人ではなかったことになります。

相続放棄には、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することが必要です。

相続放棄は、限定承認と異なり相続人全員の同意は必要ありませんが、相続放棄を行うと法律関係を安定させるため、原則として取り消しが出来ません。

 

遺産(積極財産の評価)のための調査について

 

遺産は、多種多様な財産価値のあるものなので、その調査方法も多岐にわたります。

遺産が不動産である場合は、まず、対象不動産を管轄する法務局(登記所)で当該不動産の登記事項全部証明書を入手して遺産(相続対象)である不動産を確認します。

また、この遺産としての評価額は、当該不動産が存在する市町村役場で入手する固定資産評価額証明書や固定資産課税台帳で算定します。

被相続人が残した不動産は、市町村の固定資産税をつかさどる部署に行けば、被相続人名義の不動産が確認できます。

遺産(相続財産)が金融機関へ預金や株式、債券等である場合は、被相続人名義の預金通帳や証券会社の株式名簿の照会請求等で残高証明書を取得すれば確認可能です。

ただ、被相続人が亡くなった時点で預金等が無い場合でも、取引履歴から不自然なお金の出入りがあることもあります。この取引履歴から贈与や隠し財産の発見につながることもあるので、取引履歴は十分注意してみてください。

被相続人が自動車に乗っていた場合は、車検証で真の所有者が確認できます。ただ、被相続人が所有していると外見上は見えても、ローンで購入している場合で車を販売したディーラーやメーカー等にローンの返済が完了していない場合は、車を販売したディーラー等に車の所有権が留保されているので注意が必要です。

最近では、中古自動車の価格について、インターネット上で車種、製造年や型式、走行距離等の基本情報を入力すれば比較的簡単にその中古車の市場価格の概要が分かるので、被相続人の車がどれ位の価値のあるもの判断が可能です。

その他の遺産として骨董や書画、美術品等があります。このような価値は素人ではとても鑑定できないので、専門家に鑑定を依頼しなければなりません。

 

負債・債務保証等の遺産(消極財産)の調査方法

 

被相続人の遺産は、財産価値を有する積極財産とばかりとは限りません。現実は、相続人が知らない債務や保証債務を抱えている場合も数多く見受けられます。

相続人が目に見える遺産のみに目が行き遺産調査を確実に行わず、消極財産の存在を知らずに単純承認すれば、相続人は大変大きな負担を抱え込む事態に陥るリスクがあります。十分に被相続人の遺産は調査する必要があります。

金融機関の取引履歴に消費者金融業者等の名前が確認できる場合は、速やかに債務処理について方策とることが求められます。

また、実際に被相続人が住んでいた住宅やその敷地でもまだローンが完済されておらず、当該不動産取得のために抵当権が設定されている場合もあります。

ローン等の抵当権は、登記記録全部証明書(以前の名称では登記簿謄本)の乙欄に記載されているので調べて下さい。抵当権の調査から、被相続人が債務保証をしていた場合が判明する場合も多いのです。

この他、被相続人の遺品等を整理していると様々な遺産と思しき物が出てくることもあるので、遺産の評価や遺産整理は十分な注意を払い、専門家の知識を借り確実で迅速な遺産確定とその承継を行うべきです。

遺産について

遺産について

 

どのような経済的価値があるのもが遺産(相続財産)となるのかを知ることは、相続人が相続手続きを行う上で欠くことのできない知識と言えます。

また、遺産は、プラスの積極財産ばかりではなく、消極財産と呼ばれるマイナスの遺産もあるので、相続人は被相続人の遺産の範囲を十分に見極めて相続する必要がります。

遺産の相続問題が円滑で満足する解決に至るには、法的な専門知識と理解が必要なことも多いので、出来る限りこれらの問題に精通した専門家の知恵と経験を借りることがお薦めです。

 

遺産とは

 

ここで取り上げる遺産とは、相続財産と同じことで、死者(被相続人)が生前有していた財産や本人に帰属する権利・義務等の有形・無形的価値(但し、一身専属権(本人以外の者では目的を達することのできない権利。例えば、資格や年金受給権を除く)の総称です。

一般的に使われる「遺産」の意味は、歴史的に受け継げられた、世界遺産のような有形建造物や伝統的な口承、祭り等の文化的無形価値も遺産に含まれます。

民法896条には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属していたものは、この限りではない」と規定されています。

つまり、相続財産である遺産は、「相続開始の時」すなわち、被相続人が死亡と同時に、何らの手続きを経ることなく、当然に相続人承継されます。例え、被相続人が死亡したことを被相続人が知らなかったとしても、被相続人に遺産は、被相続人に移転するのです。

 

代表的な遺産(相続財産)

 

一口に遺産と言っても、その範囲は多岐に及びます。被相続人から承継する遺産、すなわち相続財産はどのような財産価値を有するものまでを含むのか知る必要があります。

預貯金、株や国債、社債、一般債権(貸付金や未収金等)の金銭債権や土地・建物等の不動産、現金、貴金属、書画骨董、家具、果樹・立木等の積極財産は遺産を代表するもので、当然、相続の対象となる遺産に含まれます。

これらの遺産は、その価値を貨幣で測ることが可能なであり、分割可能な可分債権であるので、これらの遺産相続は、法律上、遺言のない場合は、被相続人が亡くなったと同時に生じる相続開始とともに推定相続人が遺産の法定相続分を分割相続します。

ただ、預貯金の名義書き換えは、金融機関の厳格な運営規則に従っているので、相続人間の合意で預金を相続しても、相続人間全員の同意書の提示がないと、応じてくれないことが一般的になっているので注意が必要です。

 

生命保険は遺産に当たるか

 

生命保険は、保険料の支払いを行う契約者や、万一の時に保険金を受け取る受取人、保険の対象となる被保険者等が契約した保険によって異なることがあります。

契約内容が、保険料の支払いを行っていた者(契約者)と保険の対象となる被保険者が被相続人で、保険金の受取人が相続人を含む被相続人以外のだれかである場合は、この保険金は、保険料を対価とする遺産は別の保険契約から生じる「受取人固有の権利」と考えられるので、被相続人の遺産には含まれないことになっています。

ただ、保険契約の内容が、保険金の受取人が被相続人自身である保険契約である場合は、保険金は、被相続人の死亡により被相続人に帰属するので、遺産(相続財産)に含まれます。

また、生命保険等は、被相続人が契約者で被保険者となり、受取人を相続人の誰かのために(例えば次男の為にだけ等)保険支払いを行っていた場合、被相続人の死亡で、保険金は受取人に支払われますが、この際、ある特定の相続人である受取人が、特別受益者(特別な経済的利益や贈与を被相続人から受けたもの)と認められる可能性もあるので、持ち戻し(ある相続人が特別に受けた遺産を、再度、被相続人の遺産に参入して相続財産を計算し直す)等の協議が必要な場合もあるので、相続人間で十分話し合う必要があります。

 

死亡退職金・遺族年金は遺産に含まれない

 

死亡退職金制度の制度趣旨は、被相続人が死亡した場合における、遺族の生活保障のためにあると言えます。

会社の就業規則に準拠した受給権は、受給者の固有の権利として認められているため、これを覆す特段の事情が無い限り、被相続人の遺産(相続財産)に死亡退職金は含まれません。また、死亡者の家族に対して支払われる「遺族年金」も同様の趣旨から、遺産に含まれないとされています。

 

株主としての地位(社員権)は相続遺産になるか

 

株式会社の実質的な所有者である株主たる地位、また、かつての有限会社の社員たる地位、合資会社(有限責任社員と無限責任社員の2種類の社員で構成する会社)の有限責任の社員たる地位は相続財産たる遺産に含まれます。

ただ、合名会社の社員権や合資会社の無限責任社員の社員たる地位は、これらの社員の個性が最も重視されることなので、他の人格である相続人には承継されないのが原則です。

ただ、これらの会社の定款に、相続を認める記述があれば、相続出来ることになります。

更に、合同会社の場合の原則も、定款に被相続人の社員たる地位を相続人が引き継ぐとの明文が存在すれば、被相続人の持分をそのまま引き継ぎますが、このような定款の定めがない場合は、被相続人の出資額相当の金銭等が相続人に支払われることになります。

 

賃貸借権は遺産となるか

 

被相続人が住宅を賃借していた場合の賃借権も、賃借権は財産的価値を有するので、原則としては被相続人の遺産(相続財産)に含まれ、相続の対象になります。

また、賃貸人(貸し手側)の法律上・契約上の地位もその相続人に承継されるのが原則です。

ただ、不動産の賃貸借契約は賃貸人と賃借人の個性を重要な要素とする信頼関係に基づく契約なので、契約内容によっては、必ずしも賃借権を有していた被相続人の権利を相続人がその遺産として当然に引き継ぐとはしない場合もあるので注意が必要です。

賃貸借においては様々な契約形態が考えられるので、専門家と相談して個別に検討する必要が生じます。

 

損害賠償請求権は遺産(相続財産)になる

 

遺産には、交通事故等で被相続人が死亡した場合に発生する医療費や慰謝料、被相続人の逸失利益(万一被相続人が事故に遭遇し死亡しなければなければ得られていたであろう利益)も、相続人の損害賠償請求権として、遺産となることが判例上認められています。

 

祭祀財産

 

墓地の永代使用権、墓石、仏具・仏壇等の祭祀に関連する祭祀財産は、法律上の遺産(相続財産)には該当しません。祭祀財産の承継は、一般的に慣習で祭祀を主宰する者が承継します。ただ、被相続人が遺言によって祭祀承継者を指名することも可能です。

 

消極(マイナス)遺産の承継

 

相続は、被相続人の権利・義務等の法律上の地位の全面的な相続人への承継なので、被相続人が生前有していた遺産は、プラスの遺産である積極財産の他、相続人は、マイナスの遺産も相続するのが原則で、相続人はこのマイナス遺産(負債等)の返済義務を負います。

被相続人のマイナスの遺産が、金銭債務等の可分債務の場合は、相続に人の相続割合に按分して承継されます。

ただ、雇用契約に対する身分保証やある一定の債務に対する継続的な保証の「根保証」については、この保証形態が被相続人と保証を受ける者との人的な信頼関係を重視して行われ、これをそのまま相続人に承継させたのでは、相続人に不測の損害を被らせることに繋がる危険もあるので、原則としてこのようなマイナスの遺産は原則として承継されません。

尚、契約には、様々な形態・種類・条件等があり複雑な場合も多いので、個々の契約内容を十分検討して結論を出す必要があります。

 

遺産相続出来ないもの

 

遺産相続が出来ないもの、すなわち一般的に遺産に該当しないものに、被相続人が有していた被相続人だけが権利行使し得る「一身専属権」と呼ばれる権利があります・

例えば、被相続人の法的身分を前提に支給される生活保護請求権や恩給請求権、厚生年金等は、被相続人の「一身専属権」であり、相続人はこれらの権利を遺産として相続することはできません。

また、民法には、何種類かの契約形態が定められていますが、被相続人と個人の信頼関係が元となり、使用に際して賃料が発生しない「使用貸借契約」は、遺産には入りません。被相続人の死亡により、使用貸借契約は効力を失います。

更に、個人間の信頼関係を契約の基礎とする「委任契約」や「雇用契約」も遺産相続の対象外です。例えば、難しい法律問題の解決を法律家に委任しても、受任者が亡くなれば、その信頼関係は相続人であっても承継されるとは限りません。これは、「雇用契約」でも当てはまり、例え優秀な被相続人に依頼した場合でも、その子やその相続人がこれと同様の力があるとは限りません。

この他、遺産に対する所有権の帰属関しては、様々な形態が生じ、相続法や判例に対する知識と理解も、円滑な手続きや相続人の間の合意形成必要な場合も多いので、遺産相続実務に精通した専門家と十分協議の上、手続きを進める必要があります。