相続財産分与と寄与分

7.相続財産分与と寄与分

 

相続財産分与の問題では、相続人不存在の際に生じる特別縁故者の財産分与と離婚した配偶者が被相続人の相続人に対して行う、相続財産の分与請求がよく取り上げられます。

被相続人が遺言も残さず、法定相続人も存在することなく死亡する場合も考えられるので、この問題は、少子化や独身者が増加する現代においては考えておくべき問題です。

また、相続財産の分与では、被相続人の財産形成や被相続人の生活に深く寄与した者の寄与分についての理解も相続を円滑に進めるためには重要な知識です。

 

特別縁故者への相続財産分与制度とは

 

相続人の不存在が確定した場合は、特別縁故者への相続財産分与が生じます。この制度の趣旨は、遺言の不備を補い、被相続人の最終的意思表示の実現を図ることです。

家庭裁判所が法的要件に照らし相当と認める場合は、①被相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めたと認められる者、③その他被相続人と特別の縁故があったとする者からの請求で、被相続人の残存する相続財産の一部またはその全部が、特別縁故者に分与されます。

特別縁故者に該当するものは、上記の3つの要件を満たすものが原則として挙げられますが、裁判所の裁判例では、これらの要件を例示規定と解釈し、被相続人の最終的な意思を尊重したうえで、被相続人が享受した精神的・物理的恩恵や死後における供養の程度等の総合的な諸条件や情況を斟酌して、特別縁故者への相続財産分与やの拒否またはその程度を決定すべきとしています。

 

特別縁故者への相続財産の分与には、相当性が必要

 

相続財産の特別縁故者への分与が容認されるには、「分与することが相当である」と家庭裁判所が認めることが必要です。

相当性に関する裁判例の判断基準では、①被相続人と特別縁故者の縁故関係の度合い、②特別縁故者の年齢や職業、③相続財産の種類や数、財産の所在や状況等の一切の諸般の事情を考慮の上、相続財産の分与すべき種類や数額を決定すべきとしています。

 

特別縁故者の財産分与手続き申立て

 

特別縁故者が相続財産の分与を請求するには、相続財産管理人を選任することが必要で、この依頼を弁護士に依頼した場合は、弁護士が特別縁故者の代理人として選任手続きを行います。

申立ては、相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して行います。提出書類は、特別縁故者であることを具体的に示した申立書と戸籍謄本、また、特別縁故関係を証明できる資料等です。弁護士に依頼した場合は、これらの書類作成業務も弁護士が行います。

尚、判例によると、特別縁故者が申立てを行わず死亡した場合は、特別縁故者の法的地位は、その相続人に承継されず、特別縁故者の相続人は、財産分与の請求を行う事が出来ないとされています。

また、財産分与の申立ては、特別縁故者に限られ、第3者への相続財産の分与申し立てはできません。

 

特別縁故者に該当するか否かの審理・審判

 

家庭裁判所は、提出された特別縁故者申立て書類やその他の資料の他、家裁の調査官の調査により、相続財産の財産分与に相当性があるか否かを確認します。この際、財産管理人の意見を聞き、関係各方面に事情を聴取します。

特別縁故者への事情聴取も行いますが、弁護士に依頼した場合は、弁護士が特別縁故者の代理人として、家裁の事実照会等の対応にあたります。

家裁は、以上のような審理手続きを行った上で、相続財産の特別縁故者への分与が相当であると認める時は容認の判断を示し、相当性が認められない時は、却下の審判を下します。

 

相続財産の分与により取得した資産の取得費について

 

相続財産の分与で不動産を取得した特別縁故者が、当該不動産を譲渡した場合の不動産の取得時と取得費について問題となることがあります。

特別縁故者は、被相続人から遺贈によって当該不動産を取得した者としてよいのでしょうか。

これについて国税庁は、相続財産の分与として取得した財産を遺贈によって取得した者とみなす規定が所得法上存在しないので、遺贈にとって取得したとみなすことが出来ず、相続財産の分与として取得した財産は、分与を受けた時にその当時の価格で取得したことになるとしています。

 

財産分与義務は相続で承継されるか

 

例えば、甲と乙は夫婦であったが離婚し、その後甲が死亡しました。しかし、離婚に際して乙は、財産分与請求権があったにもかかわらず、これを行使していませんでした。この場合乙は、甲の相続財産への分与請求は出来るかといった問題が考えられます。

この問題に関しては、乙に対して無条件に相続財産の分与が認められると言う意見と財産分与のためには、請求や審判、協議が行われる必要があるとの意見が対立しています。

ただ、離婚の際には、一般的に財産分与が認められるので、被相続人の権利・義務の全てを原則として承継する相続人が、この財産分与義務を承継し、乙は、甲の相続人に対して相続財産の分与を請求出来ると考えられます。

また、離婚した配偶者は相続権は有しないものの、この相続財産分与請求権は、法律婚に限らず、事実婚等にも妥当すると言われています。

 

配偶者が相続・贈与を受けた財産は、財産分与の対象になるか

 

これは、相続財産の分与とは多少異なる問題ですが、よく質問されるのが、配偶者が相続や贈与で取得した財産の分与を請求することが出来るか否かと言う問題です。

財産分与とは、婚姻中に夫婦で形成した共同財産を清算して公平に分配することを言いますが、配偶者の一方が相続や贈与で取得した財産は、夫婦で形成した共同財産とは言い難く、配偶者が相続・贈与で取得した財産は、財産分与の対象にはなりません。

 

寄与分とは

 

寄与分とは、被相続人が残した財産形成・維持に大きな貢献が認められる寄与者にその功績を認め、相続財産を公平に分配するものです。

例えば、2人の息子がいる農業等の事業を営む被相続人が死亡し相続が発生した場合で、1人は被相続人の事業を手伝っていたが、もう1人は、会社勤めで全く被相続人の事業には関係していなかった場合、このような状況で法定相続分通りに相続分を配分したのでは、不公平な相続になってしまいます。

そこで、共同相続人の中に「寄与者」がいる場合は、現実の相続財産から寄与分に相当する額を控除したうえで相続分を計算して各自の相続分を算出し、寄与者にはこれに寄与分を加えて相続する制度を民法上規定しています。

 

寄与者とは

 

寄与者とは、民法の規定(第904条の2)にあるように、①被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、②被相続人の療養看護その他の方法により相続人の財産の維持または増加に特別の寄与が認められる共同相続人です。

ここで注意すべきは、寄与者と認められるものは、相続人に限られることです。たとえ上記の要件を充たしていても、相続人でない者は寄与者に該当し無いことです。

また、被相続人の息子の配偶者が被相続人の療養看護に尽くしても、これは義理の父への当たり前の義務と解される範囲内では、寄与者には該当しないとされています。

そこで、被相続人が息子の嫁に財産を多く残したいと思うなら、遺言書を残すことが必要です。遺言による遺贈は、寄与分に優先して適用すると解釈されているので、十分に遺言の効力を活かしてください。

 

寄与分の決定と寄与分の計算

 

寄与分は、共同相続人間で行う協議で決定します。協議が整わない場合は、寄与者は、家庭裁判所に請求して、寄与分を決定した貰う事になります(家庭裁判所の調停、審判)。

寄与分の具体的計算式は、(相続開始時における財産の価額-寄与分)×相続分+寄与分の価額です。尚、カッコ内で算出した額を「みなし相続財産」と言います。

例えば、商店事業者であった甲が死亡し、遺産が5000万円であり、甲には、相続人として配偶者乙と子である丙・丁の3人がいた場合で、丁が寄与者であり、寄与分が1000万円と認められれば、乙の相続額は、(5000万円-1000万円)×2分の1=2000万円、丙の相続額は、(5000万円-1000万円)×2分の1×2分の1=1000万円、丁の相続額は、(5000万-1000万円)×2分の1×2分の1+1000万円=2000万円になります。