相続登記

6.相続登記

 

相続登記は、民法の理解や知識はもちろん、不動産登記法や各種通達が絡む非常に面倒で複雑な手続きが必要となることがあります。

また、相続登記は、登録免許税等の費用がかかるので、被相続人が亡くなってもそのままにしておくことが多く見受けられました。

ただ、相続登記手続きは義務ではないのですが、相続からの時間が経過すればするほど難しい手続きとなり、いわゆる「争続」の原因となるリスクが高まります。

そこで、相続登記は、相続登記や相続実務に精通した「腕の有る」専門家に速やかに依頼して、相続登記に関する将来の禍根を除去すべきです。

 

相続登記とは

 

被相続人が亡くなり相続が開始すると、被相続人が生前有していた権利・義務等の法的地位、また、その財産(土地や建物等の不動産や株式、国債等の有価証券、骨董品、美術品などの価値ある財産)が相続人に承継されますが、この内、土地建物等の不動産の被相続人から相続人への名義変更を相続登記と言います。

 

不動産登記制度とは

 

土地や建物と言った不動産を売却するには、当該土地建物が売主の所有物であることを証明する必要があります。不動産以外の所有物は、その物を占有していることで所有者と推定されますが、不動産はその土地を占有し、土地上に居住していてもその人が不動産の所有者とは限らないので、取引の安全を図るため民法177条で登記制度を定めています。

土地や建物を遺産分割協議や遺言によってある相続人が相続したと言っても、相続により当該相続人が真の所有者であることを公に証明するには、相続を原因とする所有権移転登記を行い、当該不動産の移転登記を行う事が取引の安全上必要です。

例えば、土地の所有者「甲」が「乙」、「丙」2人に2重に当該土地を売却した場合、最初に土地を購入した「乙」より、後から土地を購入した「丙」が先に登記を備えた場合は、「丙」が当該土地の所有権を主張できます(対抗要件を備えます)。

法務局(登記所)に対して不動産登記を申請すれば、全部事項証明を発行してもらえます。(以前はこれを登記簿謄本「権利書」と呼んでいましたが、登記のオンライン化に伴い登記は電子情報化しています。)

民法は不動産に関して登記制度を定めていますが、不動産登記は義務ではなく、自己責任に委ねられていて、相続に関する登記変更を行わなくても罰則もありません。

ただ、相続登記をしないで放置すると思わぬ落とし穴に陥ることもあります。

 

相続登記はなぜ必要か

 

不動産の相続が発生しても、相続人の調査を怠ったり、遺産分割協議が不調に終わる、また、単に相続手続きの怠慢から、相続登記の名義変更手続きを放置している場合があります。

不動産登記変更が義務化せれておらず、名義変更登記には「登録免許税」と言う税金がかかるので、そのまま放置している場合が見受けられます。

ただ、名義変更を怠っていると、大きなデメリットを被ることがあります。

まず、相続不動産は登記上、所有者が亡くなった被相続人になっているで、当該不動産を相続した相続人は、所有者として不動産を売却できません。

また、当該不動産に抵当権等の担保設定をすることもできません。

相続人の中に不逞の輩が存在した場合は、不動産を自己の所有物と偽って、第3者に売却するおそれも生じます。このような事件は、これまで頻繁と言えるほど起こっています。

また、不動産登記変更を怠っていると、その期間が長くなればなるほど名義変更は複雑で面倒になります。

例えば、相続開始時は、配偶者と子2人だけが相続人であった場合でも、その子の1人が万一死亡すれば、死亡した相続人の子に相続権が移転します。相続登記を怠っていると、法定相続分を取得した相続人が相続分を他者贈与等を行えば、所有権の所在が複雑になり、これら権利者全ての合意が得られなければ不動産の所有権の名義変更登記が出来なくなります。

また、遺産分割協議の際には、相続人の円満な合意が得られていても、そのまま相続を原因とする所有権移転登記を行っていないままにしておくと、ある相続人が、何らかの理由から遺産分割協議に対して不満を抱き、これを撤回する意思表示をなした場合、当該相続不動産を自由に売却することが不可能になる場合が生じます。

このように、不動産の名義変更登記は義務ではありませんが、特に、相続により不動産を取得した場合は、相続登記手続きを速やかに行う事が、様々なトラブルを回避するために非常に重要です。

この相続登記手続きは、自分でも可能ですが、登記には様々な添付書類や相続法や不動産登記法等の専門知識が必要なので、相続問題に詳しい司法書士等の専門家に相続登記を依頼した方が合理的と言えます。
相続登記は単独申請可能

 

以前、相続登記をなすには、当事者出頭主義と言って登記義務者(登記により権利を失う者)と登記権利者またはその代理人(司法書士)が出頭することを原則としていましたが(共同申請の原則)、不動産登記法の登記手続きオンライン化に伴い、書面申請や郵送による登記が可能になりました。

ただ共同申請の原則は、相続登記については、相続人単独申請が認められていたのでこの点での変更はありませんが、遺言による贈与(遺贈)の登記移転に関しては、共同登記申請の原則が妥当しますので注意して下さい。

 

相続登記は3種類に分類される

 

相続の際に生じる登記には、3つの種類があります。

①民法に定められた法定相続分通りの相続登記

②遺産分割協議で合意された相続分の登記

③遺言書に記述され相続登記と遺贈分の登記

法定相続分通りの登記では、遺産分割前の相続登記なので、各相続人は被相続人の不動産等の遺産を相続分に従って共同相続している状態です。原則として共有する不動産の相続登記は各共同相続人の全員のものなので、共同登記申請が必要と思われますが、この点、不動産登記法では、例外的に、相続登記に関して、共同相続人の1人が共同相続人全員のために登記申請することを認めています。

ただ、共同相続人の一人だけの登記は認められず、遺産分割協議が合意に達し、各相続人の持分が決定した際には、持分の移転登記を行う必要があります。

尚、登記実務上は、共同相続登記を行った後に再度持ち分登記を行う事は、登録免許税が2重に課せられ、また、登記手続きも面倒になるので、共同相続登記を割愛して、遺産分割協議後の決定した相続人の持ち分を直接被相続人から取得したとする相続登記がなされています。

ただ、遺産分割協議がまとまらない場合は、共同相続登記をまず行います。

 

遺産分割協議と相続登記

 

遺産分割協議を行い、相続財産である不動産が相続人1人の単独所有となる場合もあれば、相続人の何人かの共有とする場合もあります。

まず、遺産分割協議後の登記を行う時点で、「共同相続の登記」がすでに行われている場合は、遺産分割による「持ち分移転登記」を申請する必要があります。

一方、「共同相続の登記」がなされていない場合は、相続を原因とする「所有権移転登記」の申請をします。この登記申請は、共同申請の原則の例外として、1人の相続人が相続人全員のために登記することが認められています。

 

遺言書と相続登記

 

被相続人の遺言が存在すれば、被相続人の最終的な意思である遺言の内容に従って相続登記を行います。また、当該遺言に「遺贈」があれば、遺贈を原因とする所有権移転登記を行います。

遺言の主な形式には、被相続人が遺言書の全部を自筆で記述する「自筆証書遺言」と公証人に遺言者が遺言内容を読み聞かせ、その内容を記し、これを公証人が公証して公正証書化する「公正証書遺言」があります。

「自筆証書遺言」の場合は、相続人が遺言書の封緘を解くことは許されず、家庭裁判所に持って行き、立会人のもとで封緘を解き、「検認の手続き」を受ける必要があります。

公正証書は、確定判決と同様の効力があるので、この検認手続は必要ありません。

尚、遺言の記述は、○○(面積や地番で特定する)土地をAに「相続させる」としてください。「Aにやる」とか「Aに遺贈する」と記述したのでは、登記権利者である「受遺者」と登記義務者である相続人または被相続人等から指定を受けた遺言執行者といった「登記義務者」が、相続登記を共同でなす必要があり、また、遺言執行者の指定が無い場合は、相続人全員の共同登記申請が必要なので、大変手間と時間がかかる場合もあるので注意して下さい。

 

相続登記に必要な書類とは

 

相続登記に必要となる書類は、登記申請書、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本、被相続人の住民票の除票(本籍地が死亡した際の住所と異なる場合は、戸籍の付票も必要)、不動産を相続する者(登記権利者)の住民票、相続人が代理人の申請手続きを依頼する場合は、相続人の委任状、更に、形式は問いませんが、相続関係説明図の各書類が必要です。

また、相続登記には、遺言書がある場合は、遺言書、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の印鑑証明、遺産放棄した者がある時は、相続放棄申述受理書、更に、家庭裁判所の力を借りて遺産分割した場合は、家裁の調停、審判に基づく調停書・審判書が必要です。

更に、相続欠格者として認められた相続人がいる場合は、その裁判の確定判決の謄本、または、当該相続欠格者自身が欠格者でることを認めた証明書が必要です。

ただ、相続人の廃除の場合は、この内容が戸籍に掲載されるので、特別な書類は必要ありません。

 

相続登記の費用

 

相続登記に必要となる費用は、登録免許税と所有権移転登記費用の大きく2つに分類されます。

このうち登録免許税は、不動産固定資産評価価額の1000分の4であり、「遺贈」の場合は、1000分の20になります。ただ、「遺贈」の場合でも、相続人に対する「遺贈」であれば、相続と同様の1000分の4の登録免許税で済みます。

所有権移転登記に関する費用では、戸籍や住民票の取り寄せ費用や発行手数料がかかり、更に被相続人の戸籍の調査を行政書士等の専門家に依頼する場合や相続登記手続きを司法書士に依頼する場合は、これらの者に対する報酬が発生します。

この金額は、業務の難易度や相続人の数、相続不動産の評価価額等によって大きく異なり、また、各専門家の中でも大きくその報酬に差があるので、相続登記をなす相続人は、これらの専門家の何人かをリストアップしてよく話を聞き、報酬を含めて自分の相続問題を解決するに一番ふさわしい専門家を選定して下さい。