相続権

相続権

 

相続権には、2つの意味が有ります。

1つ目の意味は、実際に相続が開始され、相続人が確定した場合の相続人の相続に関する権利です(相続人が相続開始後、被相続人の財産法上の権利義務と言う被相続人の法的地位を承継する権利と言い変えることもできます)。

2つ目は、相続開始前、すなわち被相続人が亡くなる前の、配偶者並びに優先的な相続順位を有する「推定相続人」が、相続開始の際に有する、相続財産を取得する権利です。

この権利は、この段階では確定していないので、通常この権利を相続の「期待権」と呼ぶ、相続開始後、被相続人の相続財産の移転を主張し得る法的根拠を持つ権利です。

 

配偶者の相続権について

 

民法では、被相続人が亡くなった時点で配偶者が健在ならば、配偶者は「常に相続人になる」と規定しています。これは、被相続人に関しては、常に相続権が与えられていることを意味します。

被相続人の配偶者には、例え遺言で、被相続人が配偶者以外の誰かに遺産の全てを相続させると記載していても、法定相続分である2分の1の半分である4分の1の「遺留分減殺請求」権が認められています。この「遺留分減殺請求権」も究極的な、配偶者の相続権と言えます。

ただ、配偶者と認められるのは、法律婚の場合のみで、どんなに長く被相続人と生活を共にしても、学説上の争いはあるものの、判例によると、法律の婚姻関係のない「事実婚」の場合は、「配偶者」に法律的には認められません

このような場合に備えて、被相続人が事実婚受胎の相手に遺産を残したい場合は、[遺言]を作成する必要があります。

また、被相続人に身内の者が存在しない場合で、被相続人と事実婚関係にある者が、被相続人の療養看護に努めたと認めらた場合等には、特別縁故者として被相続人の相続権を取得することも可能です。

 

子の相続権について

 

被相続人に実子がいれば、配偶者と共に被相続人の相続権を持ちます。

また、被相続人がある者養子縁組を行っていれば、その養子も、実子と全く同様の相続権を取得します。

被相続人が何回か結婚して、それまでの配偶者との間に設けた子も、現在の配偶者との間の子と全く同じだけの相続権を取得します。被相続人の子が未成年者で、親権を離婚した配偶者に与えていても、相続権には影響しません。

子の他、被相続人と法律上の婚姻関係が無い配偶者に設けた子、すなわち法律的に言う「非嫡出子」も、被相続人がこの子を生前に認知しているか、または、遺言で認知した場合は、非嫡出子であっても、相続権が発生します。

しかし、この場合の相続分は、嫡出子の半分とされていました(民法900条4号但書)。

かつての最高裁判例では、法律婚を優先して、法によって社会秩序を維持するためだと考えられ合憲としていました。

しかし、様々なこの判例に対する批判が相次ぎ、法の下の平等を定める憲法下(憲法14条)にあって、この規定は違憲ではないかとされ、2013年の最高裁判決は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定を憲法違反と判事するに至りました。

尚、民法上の権利・義務の発生は、生きて生まれることですが、被相続人が死亡した時点で配偶者である妻が懐妊していた場合は、この胎児にも相続権が与えられます。

ただ、死んで生まれた場合は、相続権は遡及して消滅します。

また、被相続人に子がいたのですが、被相続人が亡くなる前、すなわち相続開始前に、その子が既に死んでいた場合はどうなるのかと言うと、被相続人の子の子、すなわち被相続人の孫が生きていれば、被相続人の子を代襲して相続権と取得します(代襲相続)。この代襲相続権は、曾孫、玄孫と直系卑属がいる限り、代襲して相続権を取得します。

尚、被相続人が子以外の誰かに遺産の全部を相続させると、その遺言で書き記しても、子は、「遺留分減殺請求」権を配偶者と同様に持つので、例えば、被相続人子が1人であれば、最低限、相続財産の2分の1の半分である4分の1の遺留分を請求する相続権を持ちます。

 

被相続人の親の相続権

 

被相続人の親に相続権が発生することも有りますが、被相続人に子や孫等の直系卑属が存在する場合は、原則として、被相続人の親の代に遡って相続権が発生することはありません。

相続法では、配偶者は常に相続人になると規定し、その他の血族相続人については、相続出来る順位が規定されています。被相続人の親は、相続順位第2位と高い順位ですが、まず、相続順位第1位の子が相続権を取得します。

被相続人に配偶者がいても、被相続人の子や孫等の直系卑属卑属がいない場合は、第2順位の被相続人の親にも相続権が発生します。

この場合で、被相続人の親が既に亡くなっていて、被相続人の祖父母が健在なら、これらの者が相続権を取得します。

 

兄弟姉妹の相続権

 

相続法で規定する兄弟姉妹の相続順位は第3順位です。

民法における相続の原則は、配偶者並びに直系血族を基本とするので、兄弟姉妹に相続権が与えられる場合は、それほど多くありません。

被相続人の兄弟姉妹に相続権が発生する要件は、被相続人に子や孫といった直系卑属も親や祖父母といった直系尊属も存在しない場合です。

よくある事例では、被相続人が未婚のままで亡くなったり、結婚はしたものの、子も養子もいない場合等に、兄弟姉妹に対する相続権が発生します。

また、既に亡くなっている親が再婚して儲けた子、いわゆるい異父・異母兄弟と言われる半血の兄弟姉妹でも、相続関しては、実の兄弟姉妹と同様の相続権があります。

 

姪や甥の相続権

 

被相続人に、親や祖父母といった直系尊属も子や孫等の直系卑属もいない場合に、兄弟姉妹の相続権が発生しますが、このような場合で、相続権を持つ兄弟姉妹が亡くなっている場合の相続権はどうなるのでしょうか。

この場合は、これら兄弟姉妹の相続権を兄弟姉妹の子(甥や姪)が代襲して相続します。兄弟姉妹には、被相続人がこれらの者に遺産を残さなくとも、遺留分減殺請求権で相続する権利を取得することはできませんが、代襲相続権は認められています。

 

遺言による相続権の取得

 

遺言は、被相続人の最終意思の表現なので、遺言は相続法の規定に優先して適用されます。遺言があれば、法定相続人以外の推定相続人に該当しない者も相続に関する権利を取得することができます。

被相続人が遺言で、「私の財産のうち、○○を甲に遺贈する」と書き残していれば、甲は遺産に対する相続権を取得します。

この場合の甲を法律的には、「受遺者」と呼んでいます。

受遺者として被相続人の遺産相続権を取得出来る対象は、私たち自然人に限らず、一般財団法人や福祉法人、会社、各種団体まで様々に認められています。

 

特別縁故者の相続権

 

民法は、法定相続人や遺贈によって被相続人の遺産相続権を有していない、法律上相続権が全くないと思われる者への例外的な相続権の発生を認めています。

この制度は、「特別縁故者」への遺産分与制度です。

「特別縁故者」とは、被相続人の生前に、被相続人の療養看護等に特に努めた等の被相続人と特別に深い関係性が認められる者を指します。

特別縁故者への財産分与が認められる要件は、まず、被相続人に、配偶者や血族法定相続人が誰1人として存在せず(法定代理人が無く、遺言により遺贈する受遺者もいない場合)てす。

特別縁故者として相続権を発生させるためには、まず、相続人の存在が確認できないことを家庭裁判所に申し出て認めてもらう必要があります。

この申請に基づき、家裁は、被相続人の相続財産管理人を選定します。

家庭裁判所が、「特別縁故者」に当たると認めたものだけが、「特別縁故者」に該当して、被相続人の遺産相続権を取得するのです。

特別縁故者に該当する事例として多いのは、事実婚上の配偶者、事実上の養子関係にある養子等ですが、福祉団体や市町村、また病院等も「特別縁故者」として認められる場合もあります。

特別縁故者として家裁に認められる要件は様々で、認定には事実の証明も必要なので、万一、生前の被相続人と親密な付き合いがあったり、療養看護に努めた方、被相続人の遺産形成に重要な役割を果たしたと考える方は、この分野に詳しい専門家に1度相談することがお薦めです。