土地の相続

11.土地の相続

 

日本における相続財産の多くは、土地や建物等の不動産ですが、このうち土地等の相続は、登記手続きや相続税の問題、更に、相続税の節税対策にも関連する借地や貸地の処理問題も有するので、この対処に悩む相続人の方が大変多く存在します。

また、農地を相続した方は、農業の継続や農地法の問題もあります。

土地の相続の場合、これらの諸問題を速やかに解決し、相続人に有利な相続を行うには、知識と経験を持つ専門家のアドバイスを受けることが必要です。

ただ、相続人が専門家の有効なアドバイスを受け、相続時のトラブルを避けるためには、相続人自身も土地の相続について基礎的な知識と理解を取得して、計画的な相続対策を行う事が必要です。

そこで、このページでは、土地の相続についての基本事項をいくつか挙げて説明したいと思います。

 

相続した土地を残すか、売却するか

 

2015年から相続税の基礎控除額が全体で40%も減額されるので、土地の相続に生じる相続税の負担者が大幅に増加すると言われています。

相続は、1回に全額を納付することが原則なので、相続税の問題だけに限れば、高く売れる土地を売却することが最もよい方法かもしれません。ただ、その土地を代々残しておきたいと考えるなら、納税計画を含めた、様々な方法を考える必要があります。

例えば、相続した土地が複数存在する場合は、残す土地と売却してもよい土地を比較検討する必要があります。バブル景気崩壊後、当時のような土地神話は影を潜めたとも言えますが、大都市周辺の利便性の高い土地は、最近かなり土地価格が上昇しています。

そこで、土地を複数個所相続した場合は、都心部のから遠い土地を売却するのが得策かもしれません。

 

立地の良い土地は、不動産投資対象か

 

土地の相続は、現金預金等の相続財産と比較して、分割しにくい資産です。分割するには、「分筆の登記」が必要で、分筆すれば価値が減少することも多く、更に、土地は固定資産なので、流動資産と比べ現金化に時間がかかる資産とも言えます。

土地は、固定資産税や都市計画税の課税対象になるので、収益性を有しない土地を先祖から承継する資産であることだけで所有することは、税制面から言えば非常にコストパフォーマンスが悪いと言えます。

ただ、都心部の土地は、上手く活用できれば、収益が期待できることも多く、地方の収益性の低い土地等を売却して、都心部の土地や建物に投資する資産運用も検討してみてもよいでしょう。

この検討の際には、業者の提供する名目の投資利回りを鵜呑みにせず、必ず、反対意見や実質利回りの検討を行い、現実的な運用計画を立てることが肝要です。

 

居住用財産の特例や事業用財産の特例をうまく活用する

 

土地は、高額の相続財産で相続税が高く、また、相続人の生活の基盤を形成する財産である場合もあるので、政府は、相続で取得した特定の不動産売却について税額の軽減措置や新規に償却資産を購入した場合の特例措置を講じています。これらの特例措置適用には、一定の要件が必要ですが、土地等の不動産を売却した場合に生じる譲渡税を繰り延べできる点が大きなメリットになります。

相続税増税に伴って、一般の生活者が土地等の相続で過度な負担を被ることのないように、政府なりに対策を講じているので、国税庁のホームページ等で有利な情報を取得することも重要です。

土地の相続に関して、専門家に相談する際は、このような情報を入手してから相談すると、話がかみ合い実効性のある相談をすることができます。

 

相続した土地に権利をつけて課税評価額削減

 

土地の評価は、自用地の評価から当該土地に設定されている権利を斟酌して行います。

相続の相続で、相続税の節税対策を考えるには、以下の方法採るか否かに関わらず、是非理解しておきたい知識です。

①貸宅地  借地権が設定されている土地で、評価額の算出式は、

自用地評価額×(1-借地権割合)。

②借地権  建物所有を目的として土地を賃借する権利で、評価額の算出式は、

自用地評価額×借地権割合。

③貸家建付地  貸家の敷地として利用されている土地で、評価額の算出式は、

自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

例えば、賃貸アパートの敷地評価では、地積:300㎡、路線価:40万円、借地権割合:60%、借家権割合:30%、賃貸割合:100%であれば、

自用地評価額=300㎡×40万円=1億2000万円

貸家建付地=1億2000万円×(1-0.6×0.3×100%)=9840万円

尚、賃貸割合とは、課税時期に現実に貸し付けられている部分の割合ですが、一時的に空室であっても、賃貸されているものとして計算します。

④定期借地権が設定されている土地の評価額は、原則として、

「自用地-定期借地権の価額」の式で算出します。ただ、定期借地権の残存期間が15年を超える場合は、80%、その他は、残存期間に応じて、85%、90%、95%の割合が設定されています。

 

土地の相続手続きの概要

 

土地の相続には、相続を原因とする登記手続きが付きものです。土地名義の変更登記は

義務ではありません。しかし、将来に禍根を残さないよう迅速に登記変更すべきです。

ここでは、その手順の概略を説明します。

①遺言書の確認  被相続人の遺言書が自筆証書遺言であれば、家庭裁判所で「検認」の手続きを行う必要があります。勝手に開封すると科料が課せられます。

②相続する土地の調査  相続財産である土地の現地調査。

③相続人の確定  誰が相続権を持つのかを確定します。

④遺産分割協議と遺産分割協議書の作成  相続人全員の参加で行う遺産分割協議の場(持ち回り会議でも可)で、相続分や相続財産の具体的な物の相続を書面化します。

⑤相続する土地の課税評価額の申告・納税 相続した土地の所在地を管轄する税務署に税務申告と納税を被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内に行います。

 

相続した土地の分割

 

土地は「1筆」「2筆」と数え、土地を分割する場合は、「分筆」の登記を行います。

また、土地の相続では、相続人の1人が当該土地の全てを承継する代わりに、他の相続人に金銭を支払う「代償分割」、土地を売却して現金化し、各相続人の相続分に応じて分配する「換価分割」があります。

「分筆」で分割すれば、土地を引き続き相続人が所有可能ですが、土地を分割することで、思っても見なかったほど、土地評価額が下がることがあります。また、「分筆」は、正確な測量も必要になります。

「代償分割」は、土地を分割も手放すこともなく、相続人間に相続財産が、金銭で公平に換価されますが、土地を承継する相続人は大きな金銭的負担が生じます。

尚、土地の相続は、以上のような手続きを行わず分割しないと、各相続人が土地を相続分の割合で「共有」することになります。

ただ、共有状態にあれば、担保設定や売却する場合にも、共有者の合意が必要で、様々な争いの原因になることが多いので、共有状態は出来る限り避けるべきです。

 

農地の相続

遺言書がなく、相続法の通りの規定によって農地を相続する場合は、農業を承継しようとする相続人に不利な結果をもたらす場合が生じます。

例えば、被相続人に2人の息子がいるとして、長男は被相続人の仕事を手伝い、農業を継ぐ覚悟を決めていますが、次男は、農業を継ぐ意思はなく、サラリーマンをやっている場合では、相続法の規定では、長男・次男の相続分は均等なので、農業を承継しようとする長男の相続地が半分になってしまいます。

そこで、国は、このような事態を回避し、農業という国民の食糧供給を支える重要な産業を守るために、「農地法」と言う法律を制定し、農業従事者(耕作する者)が農地の所有権を取得することを大原則にしています。相続分は法定相続分に従いますが、農業経営を行っていない者が農地を売却するには、知事の許可が必要で、その他、農地の転用・売却・権利移転等には、農業委員会の許可が必要です。

 

農地の相続には、公正証書遺言の作成を

 

農地は、法定相続分に従って分割されると非常に生産性の低い土地になる懸念があります。農業を営む被相続人は、通常、遺産である農業用地を1人の承継人に全て相続させたいと考えます。

そこで、この被相続人の意思を明確に残すためには、「公正証書遺言」を作成すべきです。公正証書遺言なら確定判決土同様の効力を持ち、遺言の不備についても、公証人はこの分野の専門家中の専門家なので、心配することがありません。

ただ、公正証書遺言で、長男に全ての農地を相続させると記しても、次男には、「遺留分」があります。例えば、相続人が兄弟2人なら4分の1は、公正証書遺言によっても侵害できません。

そこで、被相続人が存命の間に、農業の承継者を決定し、農地の相続に対する代償等を決定して、次男に遺留分の放棄をさせておくことができます。

ただ、初めから相続人でなかったことになる「相続放棄」は、被相続人が生きている間は、約束させたり、宣言させたりしても無効なので、注意して下さい。