相続と養子

相続と養子

 

相続と養子の問題は、単に相続税の節税に関わる問題ではありません。

相続税軽減を目的とする養子縁組は認められません。また、離縁したくても、多額の慰謝料を請求されることもあります。

養子縁組を行えば、例え養親が無くなっても、親族関係は消滅しないので、養子先の兄弟姉妹の扶養義務が生じることもあります。

養子縁組は民法上の優れた制度ですが、このように、相続と養子の問題には、様々な法的問題が潜んでいるので、専門家の知恵と知識を借りて問題解決に臨むべきです。

 

普通養子

 

養子と呼ばれる者には、普通養子と特別養子の2つのタイプの養子があります。

このうち、一般的に「養子」と称される(普通養子)は、親子の血縁関係が無い者が、養子縁組の届出を出すことで、法律上の血縁関係を持ち、血縁関係のある実子と同様の親子関係になる制度です。

養子になれば、相続においても実子と同じ権利・義務があり、相続についても、相続分や遺留分等で実子と全く同じ扱いを受けます。

また、普通養子の場合は、ある者と養子縁組をなし、養子先に行っても、血縁関係の有る実父母との親子関係が失われることはありません。

つまり、養子に行った者は、法律上、養父母と実父母双方を「親」として持つことになります。その結果、相続に関しては、双方からの相続権を持ちます。

尚、養親より年かさの年長者を養子にすることはできません。また、養子を迎えるには、配偶者がいる場合は、その同意を得て、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。

 

特別養子

 

養子には「特別養子」呼ばれるもう1つのタイプが存在します。

「特別養子」は、親子の血縁関係の有る実父母との血縁関係を断たれます(これにより、それまでの血族関係の全てが終了する)。

特別養子は、法律上は、完全に養親の嫡出子となり、養親側との法律上の血縁関係を作る制度です。

この結果、特別養子に行った子は、血縁関係にあった実の親に対する相続権、相互扶養義務等も有しないことになります。

この制度は、実子のいない夫婦が、他人から貰い受けた子を、自分たち夫婦の間にできた実子として届出を行う、いわゆる「藁の上の養子」という虚偽の届け出を防止するために、他人の子でも、この制度を活用して、実子と全く同様の親子・親族関係を作る制度として、1987年に制定された比較的新しい制度です。

特別養子は、従来の実子としての親子関係を消滅させる重い制度なので、その要件もかなり厳しいものになっています。

まず、特別養子になる者は、養子縁組の請求時点で、満6歳未満である必要があります。(例外として、8歳未満まで認められる場合あり)

また、実父母の子に対する監督が著しく困難または不適当であるである場合、その他、特別の事情が認められ、子の利益のために必要な時にだけ、特別養子は認められます。

もちろん、特別養子の成立には、実親の同意が必要で、養親は配偶者を持ち、養父母のどちらか一方の親が25歳以上で有る必要があります。

尚、未成年者は養父母にはなれませんが、既婚者は、未成年者であっても成人擬制され成人となります。

 

養子縁組はなぜ必要か

 

例えば、婿養子として配偶者の家に入ったり、前配偶者との間にできた連れ子、更に、配偶者に先立たれた場合で、その配偶者の親が亡くなった場合は、これらの者は、養子縁組していなければ、法定相続人に該当しません。

このような場合でも、遺言により、「遺贈」をすることは可能ですが、相続上は、養子縁組をなし、法定相続人としての地位を確立しておくことをお薦めします。

何故なら、遺言の無い場合は、相続人以外の者への財産分与は法的根拠がなく、遺言があっても、遺留分減殺請求権も法定相続人に生じる権利だからです。

例えば、奥さんの家に婿養子として入り、配偶者の親と養子縁組していれば、被相続人である配偶者と同じ相続権を婿養子は得ることができ、配偶者(被相続人の子)と同一の割合で法定相続することが出来ます。

被相続人の亡くなる前、すなわち被相続人の相続が開始する時点で、被相続人の子が既に亡くなっていて、その子に子がある(被相続人の孫)がいる場合は、被相続人の遺産は、その孫に代襲相続されます。

そこでこれを養子の場合で検討すると、養子の子の出生時が養子縁組をなした時との前後で代襲相続できるか否かが決定します。

民法第887条第2項に規定する「被相続人の直系卑属」とは、相続開始前(被相続人が生きている時)に死亡した被相続人の子を通じて「被相続人の直系卑属」でなければならないと解されています。

この結果、養子縁組前の養子の子には、代襲相続権が無く、養子縁組後の養子の子には代襲相続権が生じるので、相続に関しては、養子縁組をなすことが重要なのです。

養子のもう1つの形態である「特別養子」では、実親との法律上の血縁関係が亡くなるので、代襲相続の問題は生じません。

 

養子縁組と相続税対策

 

相続税の計算を行う際には、法定相続人の数をもとに行うため、養子の存在が、相続問題に大きき関わることになります。

養子縁組を行うと、相続税の節税になるメリットが生じる場合があります。

何故なら、相続税の基礎控除の算定式は、3000万円+600万円×相続人の数(2015年施行。現行では、5000万円+1000万円×相続人の数)で表しますが、養子が加わり、法定相続人の数が増えれば、その分、相続税に基礎控除額が増加するので、非課税限度額が多くなります。

また、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠も相続人1人に対して500万円増加する(控除額の計算式は、500万円×相続人の数)ので、養子がいれば、その分、非課税枠が増加し相続税対策になります。

ただ、このような相続税の節税対策として養子縁組を進めたものが多く生じた事から、これに対処する税制改正がなされ、現在の税法では、法定相続人に該当する養子の数を被相続人に実施がいる場合は1人に、実子のない場合は、2人に限定し、相続人の数が不当に増加することを防いでいます。

例えば、被相続人に実子がある場合で、養子が3人存在していても、養子は相続法上、1人として相続税を計算します。
尚、養子の相続法上の計算に関する制限は、相続税法上の計算だけに妥当するもので、民法上、被相続人の養子が何人いても、法律上の要件を満たす限り、養子であることに不都合なことは有りません。
ただ、以下に記述した、いずれかに該当する養子は、法律上、被相続人の実の子として取り扱われ、本来の法定相続人の数に含まれます。

1.被相続人と特別養子縁組により、被相続人の養子となっている者

2.被相続人の配偶者の実子で、被相続人が亡くなる前からの普通養子である者

3。被相続人とその配偶者の婚姻前に、配偶者と特別養子縁組でその養子となり、被相続人と配偶者が婚姻した後に、被相続人の養子になった者

 

相続と養子に関する注意点

 

1.2003年の税制改正で、孫を養子にした場合は、孫の相続について、相続税の2割加算が行われるようになりました。

ただ、被相続人子を飛ばして孫に相続させると、被相続人の子から孫への2回の相続が、1回で済むことになる利点があります。

この他、養子縁組により、養子縁組による生命保険金や死亡退職金等の被相続人の「みなし相続財産」の非課税控除額が増加するメリットもあります。

 

節税のための養子縁組は認められない

 

養子は、実子同様の法定相続人に該当し、相続人が増加した分、節税効果を生みますが、もし、その養子縁組が節税を目的とした行為であるなら、税務署は、当該養子縁組を租税回避行為と判断する危険が生じます。

養子縁組を行うには、当事者の自由意思の他に、養子縁組することに節税以外の正当な事由が必要です。

節税対策で行う養子縁組は認められないので、そのような場合は、法定相続人にこの養子は

含まれず、相続税の計算も養子を排除して計算する事態になります。

ただ、これは税法上の処置であり、養子縁組自体の法的根拠を失うものではありません。

養子縁組を認め得る代表的な理由としては、

1.被相続人の永代供養やお墓を守ってくれる孫等に遺産を残すために養子縁組を行う、

2.被相続人の療養看護に尽くしてくれた子の嫁であっても法定相続権はないので、これを養子にして、嫁への感謝の意を示したり、その後の生活に寄与したい等が考えられます。

 

養子をとれば、他の相続人の相続分が減少する

 

養子縁組により、法定相続人の数を増やせば、養子は実子と同様の相続権を取得するので、他の相続人の相続分が減少することはもちろんのこと、遺言によっても侵害できない「遺留分」も減少します。

被相続人が、推定相続人である相続人(例えば、被相続人の実子)の了解を取らずにある者を養子にした場合は、被相続人亡き後の「争族」の原因になる危険も生じます。

 

相続と養子の問題は、専門家と相談する方が良い 

 

養子縁組は、相続税に関わる問題の他、法律上の親子関係を新しく作ることなので、安易に養子縁組をなして、当事者の将来に禍根を残すことは避けるべきです。

また養子との関係がうまくいかなくなり、離縁を行う場合でも、法律上は親子関係なので、簡単には離縁出来ないのが一般的で、離縁出来ても、著しい非行や虐待等の事実が無い限り、慰謝料を支払わなければならないこともあります。

このように、養子縁組は、民法上の優れた制度ではありますが、法的に見れば複雑な問題を生む温床になるとも考えられるので、養子縁組やその相続に関しては、これらの問題に精通した専門家の知恵を借りるべきと考えます。