相続税の基礎控除

4.相続税の基礎控除

 

相続税の基礎控除とは、相続遺産の課税対象額のある一定額を相続税の非課税枠とする制度です。

2015年1月1日から相続税の基礎控除額が引き下げられることが決定し、基礎控除額が4割縮小されます。

これにより、今までは基礎控除額が相続財産の評価額を上回り、課税の対象とならなかった方も納税の対象となる場合があります。

基礎控除額の縮小に伴う相続税の対象は、改正前の4.2%から6%に上昇するとの試算も出ていますので、相続税の基礎控除額の縮小に伴う節税知識も今の内から十分理解しておく必要があります。

 

相続税総額の算出

 

相続税の基礎控除について理解を深めるのは、相続税の総額は如何にして算出するかを知っておく必要があります。

通常、相続は、複数の相続人に対してなされ、その相続財産の総額の算出の流れは、大きく3つの段階があります。

①課税遺産総額の計算  相続遺産には、債権や現金等の積極遺産だけではなく、借金等の消極遺産も含んでいる場合があります。そこで、相続した遺産のプラス遺産である積極遺産と消極遺産であるマイナス遺産を合計して課税対象となる課税遺産総額を算出します。

②相続税の総額を算出  ①で求めた課税遺産総額を法定相続人が法定相続分を相続した者と仮定して各相続人の相続税額を計算し、この金額を合計して相続税の総額を算出します。

③各相続人の相続税額の計算  相続人の相続割合に応じて、各相続人が有する控除分と加算分を合計して相続税額が算出されます。

 

具体的な相続税基礎控除の計算例

 

現在の相続税基礎控除額の算出式は、5000万円+(1000万円×法定相続人の数)です。

この式に一般的な相続例を当てはめると、例えば、相続人が配偶者と子供2人の3人である場合は、5000万円+(1000万円×3人)=8000万円で、この8000万円が相続税の基礎控除額になります。

また、基礎控除額の算出には、相続人の中に相続放棄した者があってもこれを考慮せず、相続放棄がなかったものとして計算します。

尚、被相続人に養子がある場合は、被相続人に実子がある場合とない場合によって、相続税で認められる法定相続人の数が異なります。

被相続人に実子がある場合は、養子が何人いても相続税法上の基礎控除算出に加えることのできる養子の数は1人です。

また、被相続人に実子がいない場合は、2人までが基礎控除額の算出に加えることのできる法定相続人の数になります。

ただ、実親との法律上の親子関係を断って養父の養子となる「特別養子縁組」で養子となった者は、法律上は実子と同じ扱いを受けるので、相続税の基礎控除額の算出時関わる法定相続人の数の制限適用はありません。

 

相続税基礎控除額の大幅縮小

 

2015年1月1日から相続税の基礎控除額が大幅に縮小されます。

現行の基礎控除額の算出は、5000万円+1000万円×法定相続人の数ですが、改正後は、3000万円+600万円×法定相続人の数で算出することになります。

基礎控除額が従来の6割に縮小されます。

遺産が基礎控除額を超えない場合は、相続税を申告する必要はないのですが、超えると申告の必要があるので、これまで相続税の課税対象でなかった方たちの多くが、相続税の課税対象に該当する場合が生じてきます。

大都市近郊の住宅等を相続対象不動産として所有している方は、早めの相続税対策が必要です。

 

相続税の税率もアップ

 

相続税の税率も相続税の基礎控除と同様に2015年1月1日から引き上げられます。

具体的な事例では、例えば、法定相続人が被相続人の子2人だけであり、遺産総額が5億円であった場合。

改正前は、5億円-7千万円=4億3000万円、4億3000万円×1/2(法定相続分)=2億1500万円であり、この金額に相続税率を乗じ控除額を差し引くと、

(2億1500万円×税率40%-控除額1700万円)×2人=1億3800万円

ですが、

改正後は、5億円-基礎控除額4200万円=4億5800万円、

4億5800万円×1/2(法定相続分)=2億2900万円、この金額に相続税率を乗じ控除額を差し引くと、

(2億2900万円×税率40%-控除額1700万円)×2人=1億4920万円

と改正前に比べ約1千万円の増税となります。

参考までに、相続税の速算表を提示しておきます。

 

2015年1月1日からの相続税速算表 財務省税制改正ホームページから抜粋

http://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei13/02.htm#01

 

相続税控除の拡大

 

相続税の基礎控除額の縮小に伴い、未成年者や障がい者に対する相続税額の控除額は拡大されます。この緩和制度は、相続税基礎控除縮小開始時と同時の2015年1月1日から施行されます。

①未成年者控除 現行は、20歳になるまで、1年につき6万円の控除額ですが、改正後は、20歳になるまで、1年につき10万円が控除になります。

②障がい者控除 現行では、85歳になるまで、1年につき6万円の控除額ですが、改正後は、85歳になるまで、1年につき10万円の控除を受けることができます。

また、特別障害者の認定を受けた、障がい者1級、2級の方の控除額は、現行の1年につき12万円から20万円に引き上げられます。

 

相続税基礎控除額減額に対する節税対策

①小規模宅地等の課税価額計算の特例の改正  相続税の基礎控除額の大幅な縮小に伴い、小規模宅地等の特例が緩和されます。

小規模宅地等の特例は、被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族)の事業(不動産貸付業や駐車場経営を含む)の用または、住居の用に供されていた宅地等で、建物や構築物の敷地の用に供されている土地のうち、ある一定面積にまでの宅地等の課税評価額を50%から80%に減額する制度です。

改正では、被相続人等の自宅の敷地面積が80%小規模宅地の特例等の限度面積が、現行の240㎡から330㎡に拡大されます。

この特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに特例の対象となる宅地等を遺産分割や遺言で確定されていることが要件になります。

ただ、相続税の申告期限から3年以内に特例の対象となる土地の取得者が確定した場合は、この特例を遡って適用し、既に納付した相続税をこの制度の基準に従って返還してもらえます。

②連年贈与の活用

毎年贈与繰り返し贈与することで、相続税基礎控除縮小に対処する方法もあります。

連年贈与は、1年間の贈与税の基礎控除額の上限である110万円枠を活用し贈与を継続して行う事です。

地道な方法ですが、相続税基礎控除の縮小に伴って、被相続人の孫に対する教育資金等の贈与枠の規制が大幅に緩和されたので、相続税基礎控除額が縮小されたのちは、大きな節税方法の1つとなります。

ただ、贈与を行えば、贈与税の申告が必要なので、申告は忘れずに行ってください。また、連年贈与は、税務署の関心の高い事例なので、税務署がいつ調査に入っても大丈夫なように、銀行振り込みであれば、振込金額と日付けが記入された預金通帳を無くさないようにしてください。

また、税務署とのトラブルを避けるためには、あえて110万円までの枠を超えた贈与を行い、その超過部分の贈与税を納めることも1つの節税手段です。

配偶者控除を活用した相続税基礎控除額縮小対策

婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用の不動産を贈与した場合や居住用の不動産購入資金を贈与した場合は、基礎控除額を含めた2110万円まで贈与税がかかりません。

また、通常の贈与税の規定では、相続開始前の3年以内の贈与は、相続財産に含まれますが、配偶者控除の活用の場合では、相続3年以内で贈与が相続財産に含まれないことになります。

④相続時精算課税制度を活用した相続税基礎控除額縮小への対策

この制度の活用で、通常、2500万円、住宅資金なら3500万円までの贈与税が非課税になりますが、この制度の趣旨は、相続税の一時的な後払い制度であり、相続が発生した場合は、相続税にこの贈与額を加算して相続税額が算定されるので、注意が必要です。