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相続税

相続税

 

相続税とは、亡くなった人(被相続人)が、生前有していた財産を、相続や遺言による「遺贈」により、取得した時に課せられる税金です。

相続で取得した者を「法定相続人」、遺言によって遺産に遺贈を受けたものを「受遺者」呼び、これらの者が、相続税の納税義務を負います。

相続税に関する事柄は、複雑で難解な部分も多いので、納税者自身が相続税の基本事項を理解することと同時に、相続税の納付を円滑・有利に行うには、相続税に精通する専門家のアドバイスは欠かせません。

 

相続税の計算手順

 

1.相続税を算出するには、まず、被相続人の残した相続財産の総額を算出することが必要です。

現金や預貯金、不動産、有価証券、ゴルフ会員権、書画骨董・美術品等の財産的価値のある被相続人の全て財産を集計してします。

その後、この総額から被相続人の借り入れ金やローン等の負債や葬儀費用等の税金控除の対象となる費用を控除して、被相続人の遺産の正味価額を算出します。

この遺産総額が、税法上認められている基礎控除額に満たない場合は、相続税は課せられず、申告の必要はありません。

遺産総額が、基礎控除額を超えていた場合は、相続税の算定を行い、納期までに、納税すべき金額を納める必要が生じます。

2.相続税の総額の計算

相続税の総額の算出は、まず、法定相続人各人が、法定相続分通りに相続財産を取得したとみなして算出します。

相続財産の分割に際しては、相続人全員の同意に基づく遺産分割協議が優先されますが、遺産分割の方法によっては、相続税の額が変動することもよくあり、相続税対策を目的とする不当な遺産分割協議が行われる可能性も否定できないので、まず、法定相続分に従った相続分を算出し、その際の相続税を計算します。

3.相続税の総額を算出し、各相続人が取得した実際の相続財産の割合に応じて、相続税を負担します。

相続財産は、現金や預貯金等の分割可能な「可分債券」ばかりではなく、不動産や日々刻々と値が変化する株式等の財産もあります。

そこで、これらの遺産の価値を正確には把握し、税法上問題が生じることなく、相続税を計算するには、非常に高い専門知識が必要です。

税額の計算は、税理士の業務ですし、不動産の評価は、不動産鑑定士がその専門家です。

この他、相続税の規定には、様々な特例や国税庁の通達もあるので、基礎控除を超える方はもちろん、自分は基礎控除内の相続なので、相続税の納付義務はないとお考えの方も、相続税に関しては、専門家と相談してその知恵と経験、専門知識を借りることが賢明な選択と言えます。

 

相続税とみなし相続財産

 

「みなし相続財産」とは、相続税の納付手続き上、被相続人の本来の財産ではないのも関わらず、相続財産に算入され、課税対象となる財産です。

本来、被相続人の死亡を原因として相続人に支払われる生命保険金や死亡退職金は、被相続人が生前有していた財産ではないので相続財産とは言えません。民法上の相続財産には入らず、「遺産分割協議」の対象から除外されますが、生命保険金や死亡退職金は、「みなし相続財産」として相続税の対象となる場合があるのでので注意して下さい。

1.被相続人が亡くなる前の3年間に贈与した財産は、「みなし相続財産」に該当します。

このみなし財産の規定は、被相続人が自分がの死んだ時のことを考えて、贈与することでより多くの遺産を相続人に残そうとする、被相続人の相続税載節税行為を防止するための制度です。

被相続人が死亡する前3年間に贈与した財産は、みなし相続財産とされ、相続財産に算入され、相続税の課税対象になります。

2.生命保険金

被相続人が生命保険の保険料の支払いを行い、保険金の受取人である場合は当然ながら、被相続人の死亡で支払われる保険金は、被相続財産と考えられるので、被相続人の通常の相続財産に算入して相続税の対象になります。

また、被相続人がその死を考えて、生命保険の受取人を相続人変更して相続税の節税を目論むことも考えられます。このような相続税の節税行為を防ぐために、相続税に関し原則として、保険料を被相続人が支払っていた場合の生命保険金は、被相続人の「みなし相続財産」として相続税の課税対象としています。

この結論は、生命保険金の受取人が誰であっても変わりません。

ただ、生命保険金の相続では、非課税限度額が設定されていて、500万円×法定相続人の数で算出する額までは、非課税になります。

2.死亡退職金

死亡退職金とは、被相続人の死亡により、被相続人に支給されるはずであった退職金や功労金等の給与に準ずるお金のことを言います。

死亡退職金は、被相続人の死から3年以内に支給が確定したものは、「みなし相続財産」とされ、相続税の課税対象に算入されます。

ただ、相続人が受け取った、死亡退職金の全額が相続税の対象になるのではなく、500万円×法定相続人の数で算出する非課税限度額までは課税されません。

尚、相続人以外が受け取った死亡退職金には、非課税限度額の適用はありません。

3.弔慰金

被相続人が亡くなった方際に受ける弔慰金やお花代等は、原則として相続税の対象にはなりません。これらを相続税の対象とすることは、国民感情に反すると考えられているからです。ただ、被相続人が勤めていた会社等から受け取った金員等が、実質的に退職慰労金と認められる場合は、相続税の対象になります。

 

相続税の税率

 

現行の相続率は、以下のようになっていますが、相続税が改正され、

課税標準

税率

控除額

1000万円以下

10%

              ー

3000万円以下

15%

50万円

5000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

3億円以下

   40%

1700万円

3億円超

50%

4700万円

2015年1月1日以降は、

課税標準 税率 控除額

1,000万円以下

10%

-

1,000万円超~3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超~5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超~1億円以下

30%

700万円

1億円超~2億円以下

40%

1,700万円

2億円超~3億円以下

45%

2,700万円

3億円超~6億円以下

50%

4,200万円

6億円超~

55%

7,200万円

になります。

 

納税額の減額

 

1.配偶者の特例

被相続人の配偶者は、課税価格合計額×配偶者の法定相続分と1億6000万円を比較して、いずれか多い金額まで、相続税が課せられません。

ただ、この結果、配偶者の相続税がたとえ0円であっても、相続税の申告書は提出する必要があるので注意して下さい。

また、遺産分割協議が遅れ、申告期限までに相続財産が確定しない場合は、一旦法定相続分の申告書を提出し相続税をおさめ、申告期限から3年以内に相続分が確定したら、配偶者特例を請求して、相続税を返還請求できます。

2.未成年控除

現行の未成年控除は、20歳まで1年につき6万円ですが、2015年からは、20歳まで、1年につき10万円に引き上げられます。

3.障害者控除

現行の障害者控除は、85歳まで1年につき6万円(特別障害の場合は、12万円)ですが、2015年からは、85歳まで1年につき10万円(特別障害者の場合は、20万円)に引き上げられます。

3.相次相続控除

被相続人の死亡前10年以内に開始した相続で、今回相続を受けた相続人が財産を取得し相続税を納めている場合は、その相続税のうちの一定額を今回の納税額から控除する規定があります。

4.外国税控除

相続により外国にある財産を取得した者で、外国の相続税等が課せられた場合は、その税額を日本の相続税から控除できます。

 

相続税の申告

 

相続税の申告は、「相続を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日で、通常は、被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内に被相続人の住所地を管轄する税務署に申告書を提出し、納税することが義務付けられています。

万一、これに反すれば、加算税や滞納税が課されることがあります。

ただ、必ずしも遺産分割協議がスムーズに進行するとも限らず、遺産分割協議が相続税申告・納付期日に間に合わない場合もあります。

間に合わない場合は、とりあえず、未分割状態の相続財産の法定相続分を相続したとして、申告・納税を完了します。

その後、遺産分割協議がまとまり相続財産が確定し、その時が相続税申告期限から3年以内であれば、相続税の払い過ぎがある場合は、「相続税の更生」をして、返還してもらう事ができます。

ただ、確定した納税金額が納税した金額より少なかった場合は、「相続税の修正申告」を行い、足らない分を追加して納税する義務があります。

 

相続税の延納

 

相続税の納付は、納付期限までに現金で1回で納付することが原則ですが、ただ、現金で1回に納付することが困難な場合は、一定の要件を満たせば、延納(相続税を分割納付する方法)することが出来ます。

延納の適用要件は、

①納付額が10万円を超えていること。

②相続税の納付期限までに、現金で一時に納税することが困難であること。

③担保を供与すること(但し、延納金額が50万円未満で、かつ、延納期間が3年以下の場合は不要)

④延納期限までに、延納申請書を提出すること。

の以上4つです。

尚、延納は相続税の分割払いなので、利子相当額の利子税が加算されます。

 

相続税の物納

 

相続税を延のうによっても現金で納付できない場合は、一定の条件下で、「物納」することが認められています。

物納の要件は、

①相続税を納付期限までに現金一時納付または延納によっても現金で納付することが困難である場合。

②納付期限までに、物納申請書を提出し、それと同時に、物納の対象物が不動産であれば、登記事項証明書や測量図、協会確認書等を提出すること。

の以上2つです。

物納出来るものには順位があり、第1順位が国債や地方債、不動産、船舶、第2順位が株式、公社債、投資信託等の有価証券、貸付信託等の受益証券、第3順位が動産です。

 

 

 

相続人

相続人

 

「相続人」とは、亡くなった被相続人の財産、権利義務等の法的地位を承継する者のことです。

これらの者は、法定相続人と呼ばれ、民法上、相続順位も決められています。

また、相続順位には入っている者で、相続開始前の相続人を「推定相続人」と呼んでいます。

相続人と一言で言っても、多様な広がりを見せることもあるので、基本的な相続人に関する知識と理解を得ることは、相続する際に欠くことのできないことと言えます。

 

相続人の範囲

 

相続人は大きく分けて、被相続人と血が繋がっている相続人と繋がっていない相続人の2つに分かれます。

被相続人の配偶者と被相続人の子や親、兄弟姉妹等の血族関係の2つで、配偶者は常に相続人になります(民法890条)。

相続人になれる範囲は民法に規定されています。これらの者を「法定相続人」と呼んでいます。民法により、相続順位(地位)を与えられたものと言い代えることもできます。

法定相続人は、配偶者、被相続人の子、被相続人の親や祖父・祖母等の尊属、兄弟姉妹に限られます。

ただ、法定相続人であっても、相続開始後は、誰が推定相続人であるかを確定する必要があります。法定相続人の全てが実際に相続できるとは限りません。

この相続人確定作業は、戸籍を辿る作業が必要で、被相続人の血族関係が複雑な場合は、非常に手間のかかる業務になります。

先述の通り、まず、被相続人の配偶者は、常に相続人になります。

配偶者は、「配偶者相続人」と呼ばれています。配偶者は、法律上の婚姻届を提出した者のみを指し(法律婚)、内縁関係(事実婚)等は相続人の範囲に該当しません。

次に、被相続人の子や孫といった直系卑属、また、親や祖父母等の直系尊属、更に、兄弟姉妹が血族相続人となり、民法上の法定相続人に該当します。

この血族関係にある法定相続人には、婚姻のため別姓を名乗る娘や養子に出した子(特別養子に出すと従前の親子関係はなくなるので、被相続人が実の親であっても相続権はありません)、被相続人が再婚者である場合は、先妻との間にできた子も法定相続人に該当します。

また、人は生まれて初めて人としての権利・義務の主体となりますが、相続法上は、まだ生まれていない胎児にも相続権が認められています。この趣旨は、僅かな出生日の違いで、相続出来ないとするは不平等な事態を招くからです。

ただ、胎児が死んで生まれれば(死体で生まれた時)、子となみなすことが出来ず、初めからいなかったことにみなされます(民法8886条)。

法定相続人の内、血族関係の相続人の中には相続順位は与えられているものの、上位の相続順位を持つ血族がある場合は、実際には相続出来ない者もいます。

例えば、被相続人の相続順位の1位は被相続人の子ですが、この子が被相続人が亡くなる前に既に死んでいても、亡くなった子に子供がある場合、被相続人から言えば、孫がいる場合は、その孫に相続権が移転します。

被相続人の親が健在の場合は、被相続人の親が第2位の相続順位を持ちます。親が既に亡くなっていて、その親の親すなわち、被相続人の祖父ないし租母が生きている場合は、それらの者が第2順位の相続人になります。

更にこれらに続く順位の相続人が、被相続人の兄弟姉妹です。もし、兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、被相続人兄弟姉妹の子である甥や姪が第3順位の相続人になります。

これらをまとめると、相続は配偶者並びに直系血族関係を第一にして行うので、被相続人に子や孫ある場合は、それらの者のみが相続人に該当し、被相続人の親や兄弟姉妹の相続権はありません。

 

代襲相続制度とは

 

被相続人の子又は兄弟姉妹が相続人となる場合、民法には代襲相続制度と言う相続形態が規定されています。

代襲相続とは、本来血族相続人として被相続人に対する相続権を有していたにも関わらず、被相続人の死亡、つまり相続開始時に既にこの者が亡くなっていた場合等に、その子や孫が代わりに(代襲して)相続人になる相続制度です。

代襲される者を 「被代襲者」、代襲する者を 「代襲者」 と呼んでいます。

例えば、被相続人に子が2人いて、その1人が被相続人が亡くなる前に既に死亡しており、その者に子がある場合は、被相続人の孫にあたる者が既に死亡している相続人を代襲して相続します。

また、代襲制度は、被相続人が死亡する前に、子が既に死亡していた場合に限らず、推定相続人とされていた者が、相続欠格であたったり、被相続人がその者を相続人から廃除し、その相続人が相続権を失った場合も有効に機能します。

ただ、相続放棄の場合は、相続放棄した者は「初めから」相続人ではなかったことになるので、もとになる相続権そのものが無いことになるので、代襲相続は観念できません。

 

代襲相続者の範囲と相続分

 

代襲相続ができる者は、被相続人の直系卑属と兄弟姉妹が相続人の子までです。

例えば、養子縁組の前に養子に子があった場合、この養子の連れ子は被相続人の直系卑属に該当しないので、被相続人と養子縁組していない限り、代襲相続することができません。また、相続では、配偶者は常に相続人になりますが、配偶者の代襲相続は認められていないので、例えば夫が夫の親(義父ないし義母)より先に亡くなっている場合、被相続人となった義父・義母の遺産は全く相続出来ないことになります。

この点は、相続関係の盲点とも言える事項なので、十分理解しておくことが必要です。遺言を残して貰って下さい。

代襲相続人の相続分は、例えば代襲者が被相続人の孫であった場合は、本来相続人であった被相続人の子と同じです。被相続人に何人かの子がある場合は、その人数で相続分を均等に分割します。

 

再代襲とは

 

民法は、被相続人の代襲者が既に亡くなっていても、更にその相続権を代襲して相続する権利を認めています。

例えば、被相続人の子や孫が既に亡くなっていても、孫の子である曾孫が孫を代襲して相続します。これを再代襲と言います。

再代襲制度は、被相続人の兄弟姉妹には認められていないので、被相続人の甥や姪が再代襲することはありません。甥や姪の再代襲制度は、以前は認められていたのですが、血縁関係の薄い甥や名にまで相続権を認めたのでは、いわゆる「たなぼた」で遺産を相続する、「笑う相続人」を生むことになるので、甥や姪に対する再代襲は認められないことにしました。

相続は、被相続人が生前有していた権利や財産、法律的な地位を相続人に実現することが原則ですが、被相続人が築いた財産も被相続人だけの力だけではなく、一般社会の恩恵を元に作られたことを考慮すると、この制度廃止は当然なことかもしれません。

 

同時死亡の推定について

 

相続は被相続人が死亡と同時に開始されますが、被相続人が死亡した時点で相続人が生存していなければ相続を観念できません。

例えば、被相続人とその子が同じ飛行機事故で亡くなった場合は、どちらが先に死亡したのか判断することは不可能と言えます。このような状況を想定した制度が、「同時死亡の推定」と言う民法上の規定です。言葉の通り、このような場合は、同時に死亡したことになります。

同時死亡の推定がなされると、相続は被相続人が死亡した時に生存していないことになるので、被相続人の子は、被相続人を相続することはなく、また、その逆で、親も子を相続しません。

ただ、同時死亡の推定がなされた場合でも、代襲相続は認められるので、被相続人の子供の子、すなわち被相続人の孫は代襲相続権を有します。

 

相続欠格と相続人の廃除について

 

相続人にも、社会通念上、相続権を認めては社会秩序を乱しかねない者も存在します。

このような相続人から相続権を奪う制度が民法に規定されています。・

民法では、相続人にある一定の重大な非行がある場合には、相続できないようにする「相続欠格」と「相続の廃除制度があります。

このうち、相続欠格に該当する者は、1.被相続人や先順位の相続人を殺したり、殺そうとしたために刑罰を受けた者、また、2.相続人が殺されたことを知りながらこれを告訴、告発しなかった者、3.詐欺や強迫によって、被相続人に遺言を取り消させたり、遺言内容を変更させた者、及び、被相続人の権利である遺言の変更や取り消しを妨げた者、4.被相続人の遺言を偽造、破棄、隠ぺいした者です。

次に、相続人の廃除とは、相続欠格事由に当たるほどの強度の非行はないものの、相続人にある一定の非行が認められると、被相続人の意思により、相続人から除くことにする制度です。

相続人の廃除には、被相続人が廃除したい相続人の非行を家庭裁判所に申述し、家裁がこれを調停や審判によって認めることで法的効果が生じます。

 

相続人、不存在の場合

 

被相続人が亡くなった時、配偶者や子をはじめ、法定相続人である親や兄弟姉妹等が不存在であるか、または、存在が明らかでない場合があります。このような相続に関する情況を「相続人の不存在」と言います。

被相続人の相続人の存在が明らかでない場合は、本当に被相続人に相続人がいないのかを調査し確定する必要があります。もし、相続人が不存在であれば、相続財産は、被相続人の生活の面倒を見てきた方等の特別縁故者と認められた人がいない場合は、国庫に帰属することになります。

先述した、相続欠格や相続廃除に当たる場合で、代襲・再代襲者がいない場合も、相続人の不存在に該当します。。

相続の手続き

相続の手続き

 

相続は被相続人が、死亡したと同時に開始されます。相続手続きには期限が定められているので、悲しみに浸る暇もなく、相続手続きを着実に進行させなければなりません。

相続については、民法にかなり突っ込んだ詳細な規定が有りますが、これは被相続人の最終意思の発現である遺言書の無い場合に活用され、相続実務は、被相続人や相続人の意思に沿って行われます。

相続手続きは、遺言書や相続人の話し合いや合意により進行するので、各相続人は、相続手続きの概要を知れば、手続きの迅速化を図ることができ、手続きを専門家に依頼する場合も、相続手続きの全体を俯瞰することが出来るので、安心して相続手続きを行えます。

死亡届の提出

 

死亡届の提出は、相続とは直接関連しませんが、人の死亡に際してまずなすことが死亡届の提出です。死亡届は、被相続人が亡くなった日、または、その死亡したことを知った日から7日以内に市町村役場に届出を行います。

この際、死亡診断書と死亡届はセットになっていて、病院で亡くなった場合の死亡診断書は、生命保険を請求するためにも必要です。

死亡届提出の効果は、被相続人の戸籍に死亡記事が記載され、住民票も削除されます。

 

遺言書の存在確認

 

死亡届の提出の後、被相続人の遺言が有るか無いかを確認します。

遺言書の確認を怠ると、遺産分割協議が合意に至っていたあとでも、最初から協議をやり直す必要があるので注意して下さい。

原則として、遺言は被相続人の最終的な意思表示なので、「遺産分割協議」に優先して適用されます。

遺言書が見つかれば、その遺言書が「自筆証書遺言」である場合は、家庭裁判所で、「検認」の手続きを行って下さい。検認の前に、勝手に開封すると過料に課せられることがあるので開封しなでください。

開封した遺言を変造・廃棄、また、遺言を隠匿した者は、相続欠陥事由に該当し、相続権を失う事もあります。

「検認」が終了すれば、遺産確定作業や相続人調査を開始します。

尚、秘密証書遺言の場合も、「検認」手続きが要ります。

「公正証書遺言」の場合は、「検認」の手続きは必要ないので、遺産確定作業や相続人調査を進めることになります。

遺言の無い場合も有る場合も、法定相続人が法定相続分を相続することになりますが、相続人全員で行う「遺産分割協議」での合意により、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことも可能です。

ただ、遺言の有る場合で、遺言執行者が指定されている場合は、遺言の執行は、遺言執行者の判断が優先されます。遺言で認知した子や相続廃除が有った場合は、相続人が変わることになるので、相続人全員で行う必要のある「遺産分割協議」を初めからやり直す必要に迫られます。

 

法定相続人の確定

 

民法には、配偶者並びに血族相続人の相続順位が規定されていますが、これらの相続人は明確に決定した相続人ではなく、「推定相続人」と呼ばれる相続人です。

そこで、被相続人の遺産相続手続きを行うには、真の「相続人」は誰なのかを確定する作業を行う必要があります。

遺産分割協議が終了した後に、相続権者が現れた時は、また最初から協議をやり直さなければならないので、相続人の確定作業は重要な相続手続きと言えます。

法定相続人の確定は、まず、被相続人が生まれた時から亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍)を被相続人の本籍地や居住地の市町村役場で入手します。

この戸籍により、被相続人の子の数や名前、また認知した子や養子の有無を調査し、被相続人にこれらの者がいない時は、被相続人の両親や祖父母まで遡って戸籍を調査し、法定相続人の確定を行います。

この相続人確定作業は、被相続人の歩んだ人生によっても異なりますが、複雑場合は、その分相続人の確定は複雑さを極め、大変面倒な作業で、相続手続きの山場となることも有ります。

 

遺産の調査と財産目録の作成

 

法定相続人の確定作業が終了すれば、次に遺産の調査を開始して「相続財産目録」を作成します。

この目録は、相続人全員で行う「遺産分割協議」には欠くことのできない資料なので、もれなく調査・記入することが必要です。

相続財産目録を作成することで、被相続人が残した債券・現金・不動産等の積極財産や負債等の消極財産が明確になります。

これによって、単純承認するのか、また、限定承認、相続放棄するのかを相続人が判断することにもつながるので、財産目録の財産価値の試算はとても重要な作業です。

尚、限定承認、相続放棄を行う場合は、被相続人の死亡時(相続開始時)または、知った時から3か月以内に家庭裁判所に申し出る必要があり、限定承認に際しては、相続人全員の合意が必要です。

 

遺産分割協議と遺産分割協議書の作成

 

被相続人の遺産調査が終了し、「相続財産目録」を作成したら、遺産内容の確認の上、単純相続、限定相続、相続放棄と言う、相続人に自由意思に委ねられている相続方法を選定します。その後、遺産分割協議を開始して遺産分割協議書を作成します。

この協議書を元に、被相続人の遺産に不動産が含まれていたなら、相続を原因とする所有権移転登記を行い、金融機関等の名義変更手続きを行います。

民法が規定する相続割合は、遺言書が無い場合を想定し、法定相続分を明記しています。ただ、現金や預金等は、可分債権であるため、明確に法定相続分によって分割されるので、遺産分割協議の対象外と言えます。実際の被相続人の遺産は、不動産等の不可分財産が含まれていることが大半なので、遺産分割協議を行うことで、相続人相互に納得と公平感ある相続にすることができるのです。

遺産分割協議は、被相続人の遺産が現金等の可分債権だけであったり、遺言が残されており、その遺言が要式性を持つ法的に有効なものならば、遺言書に従った相続(法定相続人の遺留分を侵害した場合は、「遺留分減殺請求」を提起できる)が行われるため、取り立てて、これを開催する必要もない場合も有ります。

 

遺産分割協議不調に終わった場合

 

遺産分割協議は、悪く言えば、相続各人の欲の絡んだ財産の争奪合戦と思われる場面を呈することさえあります。何回も協議を重ねても納得のいかない相続人が出ることも考えられます。

このように、遺産分割協議がまとまらなかった場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し出てください。裁判その家事審判委員が調停委員となって、各相続人の主張を聞き、調停案を出してくれます。また、この調停案を受け入れないものは、裁判官が下す審判手続きに進むことになります。それでも受け入れない場合は、即時抗告して、高等裁判所で戦います。

尚、遺産分割については、「調停前置主義」が採られているいので、争う場合は、まず、家裁の調停を受ける必要が有ります。

 

遺産分割協議書作成時の注意点とは

 

遺産分割協議書には、遺言書のような要式性は求められていません。ただ、相続分割を決する相続人全員の協議内容を定めた、言わば相続手続きの要となる文書なので、作成に関しては落ち度のないよう十分注意する必要があります。

遺産分割協議書においては、まず、1.当該文書が「遺産分割協議書」であることを明確にすることが必要です。

2.相続人を確定して列記します。(相続人全員の署名・実印による押印)3.被相続人が誰であるか、その名前や死亡日を記載します。3.各相続人の相続分割合を記載します。4.遺産分割協議後の出現した相続人や相続財産に対処するため、当該遺産分割協議書が作成された期日を明記します。また、新たな相続人が判明した場合や新たな事実が確認された場合等に対して、再度協議する旨を明文で規定しておく。

5.「遺産分割協議書」が複数枚に渡る場合は、各ページの間に相続人全員の契印(割印)を押す。

6.相続財産が不動産の場合は、当該不動産が特定出来る物件の記載でも構いませんが、その不動産の登記記録情報を正確に記載することがベストです。

 

相続税の申告と納付

 

遺産分割協議書の作成が終了し、各相続人の相続分が確定したら、相続人は、相続税を計算して期限までに納付する必要があります。

相続税の申告・納付は、相続開始を知った日(被相続人の死亡を知った日)の翌日から10か月以内です。

 

借金の相続

借金の相続

 

相続は、亡くなった被相続人が生前有していた権利・義務等の法的地位の全てを相続人が承継することが原則なので、被相続人が借金を抱えたいた場合も、原則として相続対象になります。

ただ、相続によって、相続人が不測の損害を被ることを避けるため、民法ではその回避制度を設けています。

借金の相続を行いたくない場合の手続きや対処法についての基礎的な知識を得ることは、相続人には欠かせないものと言えます。

 

相続は、マイナス遺産も承継する

 

相続する被相続人の財産は、預金や有価証券、株式、不動産といったプラスの財産(積極財産)ばかりとは限りません。被相続人が金融機関等から借金をしていたり、身近な例では、住宅ローンの返済義務が残っている場合もあるでしょう。

相続は、原則として、相続が開始(被相続人の死亡と同時に相続が発生)すると、相続人はその時点で何らの意思表示をしなくても、また相続の事実を知らなくても、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。

つまり、被相続人の借金返済義務も承継することになります。したがって、相続をすれば借金の返済義務を負います。

多少の借金なら何とかするとしても、借金が大きな金額であれば、相続財産を持ってしても払いきれない状態に陥る危険もあります。いわゆる債務超過の状態です。

 

単純承継とは

 

相続は、後述する相続放棄や限定承認手続きを家庭裁判所に申請しない限り、被相続人が生前有していた一身専属権を除く、全ての権利・義務、財産(プラスの財産・マイナスの財産=借金、負債、債務保証等)を承継したものされます。相続ではこの承継形態を「単純相続」と呼んでいます。

また、相続人が相続放棄や限定承認手続きを申請する前に、相続財産の全部またはその一部を処分すれば、単純承認したことになります。更に、相続財産を全部またはその一部を故意に隠したり、使用した場合も、限定承認の際に提出する「財産目録」記載しなかった場合も単純承認となります。

 

相続放棄制度の趣旨

 

民法は、借金を相続しない自由を相続人に認めています。

被相続人が借金を負っていた場合に、相続人を救済する民法上の制度が「相続放棄」です。相続放棄をすると、相続放棄した者は、「初めから」相続人でなかったことに法律上擬制されます(民法939条)。このことは、最初から相続人としての地位を1度も有していないことになるので、亡くなった被相続人が生前有していた権利・義務、財産の一切の承継をすることがないことを意味します。当然、被相続人の借金の返債義務も無くなります。

相続放棄は、被相続人が残した負の遺産から相続人の生活を保護する制度です。例えば、被相続人に金融機関からの多額の借金があり、プラスの遺産だけでは支払い不可能な場合は、相続人は、相続放棄して初めから相続人にならなうように法律上犠牲して、その後の生活を守るのです。

また、相続放棄制度は、被相続人が事業者主や農業を営んでいた場合にうまく活用されます。

事業や農業は、相続による事業資産の分割や農地の細分化が起きては効率的な運営が出来ない場合が多いので、事業資産や農地の細分化を防ぐため、被相続人の借金が無くても、被相続人の後継者に後を継がせるために他の推定相続人に相続放棄をしてもらう事もあります。

ただ、相続放棄は、被相続人や他の相続人が合意していても、被相続人の生前に約束していても法律上は無効なので注意が必要です。

 

相続放棄の手続きと法的効果

 

相続は、相続人知っているか否かに関わらず、亡くなった被相続人の死亡と同時に開始しまが、相続放棄したい相続人は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。相続放棄は、限定承認とは異なり、他に相続人がいる場合でも単独の意思で自由に申請することができます。

家裁の相続放棄の申述が認められれば、相続放棄した相続人は、「初めから」相続人でなかったことになります。

相続には、代襲相続と言って、世代を跨いだ相続制度があります。

例えば、相続廃除された被相続人の子がいた場合でも、その廃除された者に子がある場合は、その子が被相続人の相続財産を代襲相続出来ます。

しかし、相続放棄の法的効果は、「初めから」相続人でなかったことに擬制されるので、この代襲相続もその法的根拠を無くし出来なくなるのです。

相続放棄は、各相続人の相続分に影響を与えたり、相続順位も変わります。

例えば、配偶者と子が法定相続人の場合に、子が相続放棄すれば、被相続人の親が健在であれば、その親は第2順位の法定相続人として遺産を相続する権利を有することになります。
限定承認

 

被相続人の遺産価値がなかなか判明しない場合もあります。また、どれ位の借金があるのか良く分からないことも多いと言えます。

例えば、不動産投資や株式投資と行って資産運用していた被相続人の場合、投資した不動産価値が、地域の再開発事業等で大きく膨らんだり、投資した株式が新規に上場して資産価値が上昇した場合も考えられます。

表面上、被相続人に多額の借金があるので、これを相続しない為に相続放棄することも考えられますが、相続放棄は、被相続人の全遺産の承継を放棄することなので、もし、被相続人が投資対象としていた資産が今後も活用可能で運用したい場合は、相続人はそのチャンスを根元から失うことになります。こんな場合、相続人は相続放棄をなすか否か十分検討する必要があります。

そこで考えられた相続上の制度が、限定承認です。

限定承認を行えば、相続人が相続によって獲得した財産の限度でおいてのみ、被相続人の債務を弁済する義務を負う事になります。(民法922条)


限定承認の手続き


まず、限定承認を行う前提として、相続放棄と異なり相続人が他にいる場合は、それら共同相続人全員で裁判所にその旨を申請する必要があります。

限定承認は、相続開始を知ってから3か月以内に被相続人が残した「財産目録」を家庭裁判所に提出すると共に申請します。

限定承認は、「財産目録」の作成やその他相続財産価値の評価等の様々な手続き上の複雑な作業が伴うので簡単な手続きだとは言えません。限定承認をお考えの方は、これらの業務に豊富な経験と実績を持つ専門家の知恵を活用すべきです。

借金の相続負担の合意は、相続人間で有効

 

相続は、亡くなった被相続人の生前における法律上の地位を相続人において承継させる制度です。

制度上は相続分に応じて按分に被相続人の権利・義務を相続するのが原則ですが、実際は、相続分に従って按分相続しては不都合なことも多いのです。

例えば、事業主や農業経営者が亡くなった場合は、その事業の後継者(承継者)が、その地経営資産や事業資産をまとめて承継することが一般的です。

被相続人が事業経営者や農業経営者である場合は、事業資金を金融機関や農協等から借入している場合も多く、また、土地や建物、機械等の導入時に金融機関のローンを組んでおり、その返済途中であることも多いのです。

このような場合、相続人の誰が被相続人の借金を相続するか(債務を引き継ぐか)といった問題が生じます。

この場合、相続人全員で行われる遺産分割協議等で、被相続人の借金引き継ぎの行為をなすことは、判例上有効とされています。ただ、誰が借金を相続するかは借金先の金融機関等の承諾が必要です。

また、被相続人が一般サラリーマン等であった場合は、住宅ローン債務(借金)は誰が引き継ぐかといった問題が生ることも多いと思います。
ただ、現在の住宅ローン融資では、融資条件に団体信用保険への加入が義務化している場合がほとんどであり、生命保険住宅ローン商品も数多く提供されているので、万一被相続人がローン返済途中に亡くなって相続人がこの借金を相続しても、生命保険会社が相続人に代わってローン残金の返済をなすので、相続人が借金の相続で不測の事態に陥り、困窮することはあまりないと言えます。

遺産相続

遺産相続

 

被相続人の遺産は、積極財産ばかりとは限らず、マイナスの消極財産も存在する可能性があります。

遺産相続につい基本的な知識がないと、相続人は、被相続人からの遺産相続で大きな負担を強いられる事態に陥ることもあります。

また、遺産価値の評価には、専門家の知識を借りなければならない場合も多く、遺産相続に複雑な手続きを必要とする場合もあります。

そこで、相続人は専門家の知恵と経験を活用し、相続人自身も、遺産相続について基本的ではあるが、確実な知識を備えておくことが必要なのです。

 

遺産相続とは

 

相続とは、ある人(被相続人)が死亡した時、その人が生前有していた権利・義務等、また、財産的地位を被相続人の配偶者や子などの一定の身分関係にある者(相続人。法定相続人)が、原則としてそのまま受け継ぐことを言います。民法の規定では、人が亡くなると被相続人の一切の財産は、相続人に承継されるとする明文規定があります。(民法896条)。

この亡くなった被相続人から相続人に承継される財産のことを「相続財産」または、「遺産」と呼んでいます。

相続の対象となる遺産は、現金、不動産、有価証券等のプラス財産だけではなく、金融機関からの借り入れや債務保証、損害賠償債務等のマイナス財産も含まれます。

 

相続分

 

遺言が無い場合で、推定相続人が複数存在する場合は、法定相続分の割合に応じてなくなった方(被相続人)の遺産は相続人に承継されます。

その割合は、例えば被相続人に配偶者と子がある場合は、相続分はそれぞれ2分の1ずつ、子が2人の場合は、それぞれが4分の1の遺産を相続します。

また、被相続人に子がおらず、妻と被相続人の親が健在であれば、配偶者が遺産の3分の2、親が3分の1を相続します。更に、相続対象者が被相続人の配偶者と兄弟姉妹である場合は、配偶者が4分の3を兄弟姉妹が4分に1の遺産を相続します(法定相続分。民法900条)。

またこの遺産相続の分配については、この原則に加え、被相続人が生前の遺産形成にどれ位相続人が寄与したのかと言う「寄与分」や生前に相続人が被相続人から受けた「特別受益」等の要素を加味して遺産相続を行う事になります。

 

遺言がある場合

 

遺言の有る場合は、遺言の内容が法定相続規定に優先されます。例えば、被相続人(亡くなった方)が、遺産の全部を甲に相続させると遺言を残すと、法定相続人による遺留分減殺請求が無い限り、全ての遺産は甲に承継されることになります。

遺留分は、法定相続分の2分の1であり、配偶者と子が相続人ある場合の遺留分は、配偶者と子は、法定相続分2分の1の半分の4分の1となります。

また、兄弟姉妹には遺留分が認められないので、もし、被相続人に子や親が無く、兄弟姉妹に遺産相続をさせない為には、配偶者に遺産の全部を相続させる旨の遺言書を残すことが必要です。 被相続人の残した遺産相続の最終的な帰属は、原則として、全ての相続人の間で行われる協議によって決定します。法律上この協議を「遺産分割協議」と言います。

 

遺産分割協議がまとまらない場合

 

遺産分割協議を行っても相続人の意見がまとまらないこともあります。このような場合は、家庭裁判所に調停や審判といった判断を下して貰える制度があります。最終的には裁判になりますが、この場合でも、まず調停を申請する必要があります(調停前置主義)。

遺産分割は、遺言の有効性やどの範囲の財産が相続対象にあたるのかといった複雑な法律問題が生じることも多いので、遺産相続に関する専門知識と十分な実務経験を有する専門家に遺産相続がこじれる前に相談して、相続人の遺産相続についての基本的な知識を醸成しておくことが得策です。

 

遺産調査には専門家を活用するのが得策

 

また、遺産と言っても、必ずしも現金や有価証券、不動産、権利・債券等のプラスの遺産(積極財産)ばかりではなく、金融機関等からの借り入れ等のマイナス財産(消極財産)もあり、このような場合は、ただ単純に遺産相続について単純包括承認するとその後に大きな禍根を残す危険もあるので十分注意して下さい。

そこで、相続人は、被相続人が生前有していた遺産(相続財産)を調査することが求められます。この点については、積極財産と消極財産の財産目録を作成する必要があるので、遺産相続に経験と知識のない者にとって大きな負担となります。また、正確な遺産の財産的な評価も難しいことから、まず専門家の知恵と経験を活用すると良いでしょう。

 

遺産相続に関する3つの制度

 

遺産相続には、民法上3つの制度が設けられ、相続人はこれら3つの制度を自由に選択することが可能です。

1.単純承認

単純承認とは、相続開始を知った時から後述する限定承認や相続放棄をしなかった時や遺産の全部やその一部を処分した時に承認したと認める制度です。

また、限定承認または相続放棄した場合であっても、相続財産を隠ぺいしたり処分すれば、法定単純承認したことになるので注意が必要です。

2.限定承認

限定承認とは、相続した遺産(不動産、現金、有価証券等)の範囲内で、被相続人が残したマイナスの遺産である負債の債務責任を負う制度です。債務の不足分は弁済責任が免除されます。

ただ、限定承認しても債務が有限になるのではなく、債務は一応全て相続人が承継し、返済責任が遺産の範囲になると言う事です。

そこで、責任以上の弁済を債務が無いのにあると思って弁済した(非債弁済)場合でも、この弁済は有効で、後から法律上の根拠のない弁済として不当利得返還請求することはできないので注意が必要です。

限定承認は、相続の開始を知ってから3か月以内に財産目録を作成し、家庭裁判所に「限定承認の家事審判書」を提出することが必要です。また、限定承認は、相続人全員の同意が必要です。

3.相続放棄

相続放棄とは、その名の如く、相続権をすべて放棄することです。もちろん、被相続人が残した消極財産も受け継ぎません。相続放棄をすれば、相続人は、初めから相続人ではなかったことになります。

相続放棄には、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することが必要です。

相続放棄は、限定承認と異なり相続人全員の同意は必要ありませんが、相続放棄を行うと法律関係を安定させるため、原則として取り消しが出来ません。

 

遺産(積極財産の評価)のための調査について

 

遺産は、多種多様な財産価値のあるものなので、その調査方法も多岐にわたります。

遺産が不動産である場合は、まず、対象不動産を管轄する法務局(登記所)で当該不動産の登記事項全部証明書を入手して遺産(相続対象)である不動産を確認します。

また、この遺産としての評価額は、当該不動産が存在する市町村役場で入手する固定資産評価額証明書や固定資産課税台帳で算定します。

被相続人が残した不動産は、市町村の固定資産税をつかさどる部署に行けば、被相続人名義の不動産が確認できます。

遺産(相続財産)が金融機関へ預金や株式、債券等である場合は、被相続人名義の預金通帳や証券会社の株式名簿の照会請求等で残高証明書を取得すれば確認可能です。

ただ、被相続人が亡くなった時点で預金等が無い場合でも、取引履歴から不自然なお金の出入りがあることもあります。この取引履歴から贈与や隠し財産の発見につながることもあるので、取引履歴は十分注意してみてください。

被相続人が自動車に乗っていた場合は、車検証で真の所有者が確認できます。ただ、被相続人が所有していると外見上は見えても、ローンで購入している場合で車を販売したディーラーやメーカー等にローンの返済が完了していない場合は、車を販売したディーラー等に車の所有権が留保されているので注意が必要です。

最近では、中古自動車の価格について、インターネット上で車種、製造年や型式、走行距離等の基本情報を入力すれば比較的簡単にその中古車の市場価格の概要が分かるので、被相続人の車がどれ位の価値のあるもの判断が可能です。

その他の遺産として骨董や書画、美術品等があります。このような価値は素人ではとても鑑定できないので、専門家に鑑定を依頼しなければなりません。

 

負債・債務保証等の遺産(消極財産)の調査方法

 

被相続人の遺産は、財産価値を有する積極財産とばかりとは限りません。現実は、相続人が知らない債務や保証債務を抱えている場合も数多く見受けられます。

相続人が目に見える遺産のみに目が行き遺産調査を確実に行わず、消極財産の存在を知らずに単純承認すれば、相続人は大変大きな負担を抱え込む事態に陥るリスクがあります。十分に被相続人の遺産は調査する必要があります。

金融機関の取引履歴に消費者金融業者等の名前が確認できる場合は、速やかに債務処理について方策とることが求められます。

また、実際に被相続人が住んでいた住宅やその敷地でもまだローンが完済されておらず、当該不動産取得のために抵当権が設定されている場合もあります。

ローン等の抵当権は、登記記録全部証明書(以前の名称では登記簿謄本)の乙欄に記載されているので調べて下さい。抵当権の調査から、被相続人が債務保証をしていた場合が判明する場合も多いのです。

この他、被相続人の遺品等を整理していると様々な遺産と思しき物が出てくることもあるので、遺産の評価や遺産整理は十分な注意を払い、専門家の知識を借り確実で迅速な遺産確定とその承継を行うべきです。

遺産について

遺産について

 

どのような経済的価値があるのもが遺産(相続財産)となるのかを知ることは、相続人が相続手続きを行う上で欠くことのできない知識と言えます。

また、遺産は、プラスの積極財産ばかりではなく、消極財産と呼ばれるマイナスの遺産もあるので、相続人は被相続人の遺産の範囲を十分に見極めて相続する必要がります。

遺産の相続問題が円滑で満足する解決に至るには、法的な専門知識と理解が必要なことも多いので、出来る限りこれらの問題に精通した専門家の知恵と経験を借りることがお薦めです。

 

遺産とは

 

ここで取り上げる遺産とは、相続財産と同じことで、死者(被相続人)が生前有していた財産や本人に帰属する権利・義務等の有形・無形的価値(但し、一身専属権(本人以外の者では目的を達することのできない権利。例えば、資格や年金受給権を除く)の総称です。

一般的に使われる「遺産」の意味は、歴史的に受け継げられた、世界遺産のような有形建造物や伝統的な口承、祭り等の文化的無形価値も遺産に含まれます。

民法896条には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属していたものは、この限りではない」と規定されています。

つまり、相続財産である遺産は、「相続開始の時」すなわち、被相続人が死亡と同時に、何らの手続きを経ることなく、当然に相続人承継されます。例え、被相続人が死亡したことを被相続人が知らなかったとしても、被相続人に遺産は、被相続人に移転するのです。

 

代表的な遺産(相続財産)

 

一口に遺産と言っても、その範囲は多岐に及びます。被相続人から承継する遺産、すなわち相続財産はどのような財産価値を有するものまでを含むのか知る必要があります。

預貯金、株や国債、社債、一般債権(貸付金や未収金等)の金銭債権や土地・建物等の不動産、現金、貴金属、書画骨董、家具、果樹・立木等の積極財産は遺産を代表するもので、当然、相続の対象となる遺産に含まれます。

これらの遺産は、その価値を貨幣で測ることが可能なであり、分割可能な可分債権であるので、これらの遺産相続は、法律上、遺言のない場合は、被相続人が亡くなったと同時に生じる相続開始とともに推定相続人が遺産の法定相続分を分割相続します。

ただ、預貯金の名義書き換えは、金融機関の厳格な運営規則に従っているので、相続人間の合意で預金を相続しても、相続人間全員の同意書の提示がないと、応じてくれないことが一般的になっているので注意が必要です。

 

生命保険は遺産に当たるか

 

生命保険は、保険料の支払いを行う契約者や、万一の時に保険金を受け取る受取人、保険の対象となる被保険者等が契約した保険によって異なることがあります。

契約内容が、保険料の支払いを行っていた者(契約者)と保険の対象となる被保険者が被相続人で、保険金の受取人が相続人を含む被相続人以外のだれかである場合は、この保険金は、保険料を対価とする遺産は別の保険契約から生じる「受取人固有の権利」と考えられるので、被相続人の遺産には含まれないことになっています。

ただ、保険契約の内容が、保険金の受取人が被相続人自身である保険契約である場合は、保険金は、被相続人の死亡により被相続人に帰属するので、遺産(相続財産)に含まれます。

また、生命保険等は、被相続人が契約者で被保険者となり、受取人を相続人の誰かのために(例えば次男の為にだけ等)保険支払いを行っていた場合、被相続人の死亡で、保険金は受取人に支払われますが、この際、ある特定の相続人である受取人が、特別受益者(特別な経済的利益や贈与を被相続人から受けたもの)と認められる可能性もあるので、持ち戻し(ある相続人が特別に受けた遺産を、再度、被相続人の遺産に参入して相続財産を計算し直す)等の協議が必要な場合もあるので、相続人間で十分話し合う必要があります。

 

死亡退職金・遺族年金は遺産に含まれない

 

死亡退職金制度の制度趣旨は、被相続人が死亡した場合における、遺族の生活保障のためにあると言えます。

会社の就業規則に準拠した受給権は、受給者の固有の権利として認められているため、これを覆す特段の事情が無い限り、被相続人の遺産(相続財産)に死亡退職金は含まれません。また、死亡者の家族に対して支払われる「遺族年金」も同様の趣旨から、遺産に含まれないとされています。

 

株主としての地位(社員権)は相続遺産になるか

 

株式会社の実質的な所有者である株主たる地位、また、かつての有限会社の社員たる地位、合資会社(有限責任社員と無限責任社員の2種類の社員で構成する会社)の有限責任の社員たる地位は相続財産たる遺産に含まれます。

ただ、合名会社の社員権や合資会社の無限責任社員の社員たる地位は、これらの社員の個性が最も重視されることなので、他の人格である相続人には承継されないのが原則です。

ただ、これらの会社の定款に、相続を認める記述があれば、相続出来ることになります。

更に、合同会社の場合の原則も、定款に被相続人の社員たる地位を相続人が引き継ぐとの明文が存在すれば、被相続人の持分をそのまま引き継ぎますが、このような定款の定めがない場合は、被相続人の出資額相当の金銭等が相続人に支払われることになります。

 

賃貸借権は遺産となるか

 

被相続人が住宅を賃借していた場合の賃借権も、賃借権は財産的価値を有するので、原則としては被相続人の遺産(相続財産)に含まれ、相続の対象になります。

また、賃貸人(貸し手側)の法律上・契約上の地位もその相続人に承継されるのが原則です。

ただ、不動産の賃貸借契約は賃貸人と賃借人の個性を重要な要素とする信頼関係に基づく契約なので、契約内容によっては、必ずしも賃借権を有していた被相続人の権利を相続人がその遺産として当然に引き継ぐとはしない場合もあるので注意が必要です。

賃貸借においては様々な契約形態が考えられるので、専門家と相談して個別に検討する必要が生じます。

 

損害賠償請求権は遺産(相続財産)になる

 

遺産には、交通事故等で被相続人が死亡した場合に発生する医療費や慰謝料、被相続人の逸失利益(万一被相続人が事故に遭遇し死亡しなければなければ得られていたであろう利益)も、相続人の損害賠償請求権として、遺産となることが判例上認められています。

 

祭祀財産

 

墓地の永代使用権、墓石、仏具・仏壇等の祭祀に関連する祭祀財産は、法律上の遺産(相続財産)には該当しません。祭祀財産の承継は、一般的に慣習で祭祀を主宰する者が承継します。ただ、被相続人が遺言によって祭祀承継者を指名することも可能です。

 

消極(マイナス)遺産の承継

 

相続は、被相続人の権利・義務等の法律上の地位の全面的な相続人への承継なので、被相続人が生前有していた遺産は、プラスの遺産である積極財産の他、相続人は、マイナスの遺産も相続するのが原則で、相続人はこのマイナス遺産(負債等)の返済義務を負います。

被相続人のマイナスの遺産が、金銭債務等の可分債務の場合は、相続に人の相続割合に按分して承継されます。

ただ、雇用契約に対する身分保証やある一定の債務に対する継続的な保証の「根保証」については、この保証形態が被相続人と保証を受ける者との人的な信頼関係を重視して行われ、これをそのまま相続人に承継させたのでは、相続人に不測の損害を被らせることに繋がる危険もあるので、原則としてこのようなマイナスの遺産は原則として承継されません。

尚、契約には、様々な形態・種類・条件等があり複雑な場合も多いので、個々の契約内容を十分検討して結論を出す必要があります。

 

遺産相続出来ないもの

 

遺産相続が出来ないもの、すなわち一般的に遺産に該当しないものに、被相続人が有していた被相続人だけが権利行使し得る「一身専属権」と呼ばれる権利があります・

例えば、被相続人の法的身分を前提に支給される生活保護請求権や恩給請求権、厚生年金等は、被相続人の「一身専属権」であり、相続人はこれらの権利を遺産として相続することはできません。

また、民法には、何種類かの契約形態が定められていますが、被相続人と個人の信頼関係が元となり、使用に際して賃料が発生しない「使用貸借契約」は、遺産には入りません。被相続人の死亡により、使用貸借契約は効力を失います。

更に、個人間の信頼関係を契約の基礎とする「委任契約」や「雇用契約」も遺産相続の対象外です。例えば、難しい法律問題の解決を法律家に委任しても、受任者が亡くなれば、その信頼関係は相続人であっても承継されるとは限りません。これは、「雇用契約」でも当てはまり、例え優秀な被相続人に依頼した場合でも、その子やその相続人がこれと同様の力があるとは限りません。

この他、遺産に対する所有権の帰属関しては、様々な形態が生じ、相続法や判例に対する知識と理解も、円滑な手続きや相続人の間の合意形成必要な場合も多いので、遺産相続実務に精通した専門家と十分協議の上、手続きを進める必要があります。

 

遺言について

遺言について

 

遺言を残す方が急速に増加しています。その理由は、遺言知識普及や紛争防止、また相続財産の高額化対策等が挙げられます。

ただ、遺言は、被相続人(亡くなった方)の生前の意思を叶えるために認められた民法上の制度です。人生の総決算として御自分の最終意思を財産面だけに留まらない意思表示することが求められます。

その実現には、多くの相続・遺言に関する知識と経験を持つ専門のアドバイスを受けることがとても有効です。

 

遺言には厳格な要式性がある

 

「遺言」の一般的意味は、「死後に言い残す言葉や文章」と理解され、「ゆいごん」と呼んでいますが、法律上では、遺言は、「ゆいごん」ではなく、「いごん」と言います。

法律上の遺言は、死者(被相続人)が生前有していた権利・義務や財産等の処分をどう実現するかについての最終的な意思表示のための法的制度です。

このように遺言は、国家の法制度が裏付けとなる制度であり、遺言の持つ効力は非常に大きいので、法律上、厳格な様式性や規定が設けられています。

遺言は、被相続人の生前に行う財産処分等に関する最終意思表示ですが、遺言は、ある一定の法律に規定された方式によらなければ、遺言の効果が認められません。この遺言の方式には、全ての記述を被相続人が自書する「自筆証書遺言」や公証人が遺言者の言葉を書き留めて公正証書化とする「公正証書遺言」の「普通形式の遺言」と、稀に、「秘密証書遺言」や死亡危急や船舶遭難時等の危急時における「特別方式の遺言」の2つの要式があります。

先述のように遺言は、民法に定められた厳格な要件を満たしたものでしか法的効果を持ちません。その理由は、遺言が明らかになるのは被相続人が死亡した後なので、死者は、問題が生じても説明できないので、被相続人が自分の意思で本当に作成したものかを明確に判断できる形式上の規定が必要といったことが考えられます。

遺言には権利・義務の承継や財産処分の他に、「兄弟仲良く、最後までお母さんを守ってくいださい」といった文言が書かれている場合がありますが、この文言は法律的には効果が生じません。ただ、このような遺言の「付言事項」と呼ばれる文言によって、相続に対する争いが避けられた事例も多いのです。「付言事項」を記述することは、法的な効果がないとはいえ、被相続人の思いとして後世に伝えておくべきです。

 

遺言能力

 

遺言者が遺言をするときには、遺言の意味・内容を理解し、判断することができる能力(遺言能力)を有していなければなりません。高齢になって判断能力がなくなってからの遺言は、相続人の間で、有効無効の争い起こす要因となる可能性も否定できません。したがって、遺言は、元気なうちに備えとして作成しておくべきです。

なお、遺言は、制限能力者であっても、遺言するときに意思能力(判断能力)さえあれば有効な遺言をすることができます。成年後見人であっても、正常な意思表示が出来る情況に戻っていれば遺言すれば認められます(但し、医師2人の立会いのもとでなした遺言)。

被補助人や被保佐人は、補佐人や補助人の同意が無くても有効な遺言をなすことができます。

また、未成年者であっても、15歳以上であれば遺言を残すことができます。この場合は、親等の法定代理人の同意が無くても遺言の有効性は失われません。

 

遺言が無い場合

 

遺言(遺言書)がない場合は、民法で規定された法定相続人(被相続人等)に、民法の規定に基づいた割合の「法定相続分」が相続されます。ただ、「法定相続分」は、相続人の全ての同意のもとによる「遺産分割協議」によって、遺産分割割合を変えることが可能です。もちろん、遺言が存在すれば、法律の規定の範囲内で遺言にある被相続人の意思が優先されます。

遺言がない場合は、法定相続人間の相互関係や生前の被相続人との関係も加味することなく一律に相続分が決められるので、いわゆる「争族」問題へと発展する危険があります。

 

遺言の内容を変更・取り消しの方法

 

遺言は、被相続人が有する最終的な意思表示であり、大きな法律効果を有するものなので、遺言者の最終意思を遺言により実現させるために、遺言者が生きているうちは何度でも書き直しが可能です。

遺言を変更ないし内容の取り消しをしたい時は、遺言書を破棄するか、新たに遺言書を作成することが原則です。遺言は、常に新しい日付けの遺言の内容が有効になります。

例えば、「2014年3月11日の全て(○○部分)を撤回する」と新しい遺言に記述すれば良いのです。

民法では、「遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法第1022条)」と規定され(法定撤回)、遺言を撤回する権利は放棄できません。(民法1026条)
また、民法では、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。」最初の遺言内容が後からの内容に矛盾する時は、最後の遺言内容が有効な遺言になります。

例えば、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に相続させる」と遺言した場合等です。また、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に売却した」場合等です。

更に、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合は、その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなします。例えば、遺言である物を相続させるとしながらも、遺言者がその目的物

を破棄した場合は、その破棄部分について遺言の撤回とみなされます。

 

遺言で指定できること

 

遺言には厳格な要式が必要であり、また、遺言で指定できる内容も法律で定められています。

遺言で出来ることは、1.相続に関すること、2.財産処分に関すること、3.身分に関すること、4.遺言執行者等に関することの大きく4つに分類されます。

1.は、法定相続割合と異なる相続分を遺言で指定することや法定相続人の廃除や廃除の取り消し、遺産分割方法の指定等があります。

2.は、法定相続人以外の者に遺産を承継させることで、この特定の人を指定して財産を与えることを「遺贈」と呼んでいます。遺贈には、「00万円を甲に遺贈する」といった具体的なものやお金を指定する「特定遺贈」と「遺産の評価額の10%を遺贈する」といった指定を行う「包括」の2つがあります。

また、遺言で、ある社会福祉団体に寄付したり、特定の公益社団・財団法人、更に、国や地方自治体に遺贈することも、遺産を基金にした公益法人を設立することもできます。

3.は、法律婚でない(事実婚)両親の間に生まれた子の認知(胎児にも相続権があるので認知可能です)、また、後見人や後見監督人の指定を行います。

4.は、遺言執行人の指定です。遺言手続きは煩雑で法律上の知識や経験が必要なため、円滑な手続きを確実・公平遂行するためには、遺言で遺言執行者を選定しておくべきです。

 

遺言を残す必要性が高い場合とは

 

遺言を残す必要性が高い場合いとしてまず挙げられるのは、

1.夫婦間に子がいない場合です。

子がいない場合で遺言を残さず被相続人が亡くなった場合、被相続人が配偶者に出来る限りの遺産を残そうと考えていても、親や兄弟姉妹がいれば、法定相続分をそれらの者が相続する権利を持ちます。

2.法定相続人以外の者に遺産を残したい時です。

例えば、内縁の妻やその子に遺産を多く残したい場合も遺言する必要があります。

3.法定相続分の割合を変えたい時です。

被相続の生前の生活援助に多大の貢献をした者や被相続人の亡き後の生活が心配されるもの等に法定相続分より大きく財産を与えることができます。

また、法定定相続人の中に遺産を残したくない者がいる場合も遺言する必要があります。この点、兄弟姉妹は、被相続人に子がおらず配偶者のみの場合は、4分の1の法定相続分がありますが、遺言で、「全財産を妻のB子に相続させる」とすれば、兄弟姉妹には遺留分が無いので、全財産を被相続人の意思通り配偶者に与えることができます。

また、これに関連して、被相続人が事業を営んでいる場合は、経営資産が分散しては経営効率が悪くなるリスクがあるので、事業承継に必要な経営資源や株等に関する経営権の事柄も遺言しておくべきです。

4.先妻の子供と後妻がある場合は、遺産相続で頻繁に問題が起こるので、被相続人は、事前にこれらの者とよく相談して相続財産の割合を決定し、遺言を残しておくべきです。

これらの他にも様々な遺言が必要な場合も考えられます。自分にはこれといった財産が無いと思う場合でも、遺言を残しておいて損はないでしょう。

ただ、遺言は親族間等で争われることも多いので、遺言で相続に詳しく客観的な判断を下せる遺言執行者の選任をしておくことが求められます。
遺言書の保管

 

折角最新の注意を払って遺言を作成しても、自筆証書遺言の場合は、その保管に関して頭を痛めることも多いのです。

何処に保管した本人名は知っていても、その場所を明かす暇なく被相続人が亡くなった場合が大変です。遺言があること自体相続人に知らされていない場合もあります。

遺言は発見されないのは実在しないと同様です。

簡単に発見されるのも問題ですが、被相続人の死後すぐに発見できないと意味を持ちません。そこで、被相続人が一番信頼を置いている配偶者やこ、または、その他の推定相続人が遺言の保管場所を把握していることが多いようです。

ただ、最近では、行政書士や弁護士等の遺言執行者に任命されている者や信託銀行で保何されている遺言も多いようです。
この点、公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管され安心できます。遺言者には正本と謄本が交付されます。この正本や謄本は、遺言執行者も多く保管しています。また、信託銀行が行う遺言信託サービスの場合は、正本を信託銀行が預かっています。