相続の手続き

相続の手続き

 

相続は被相続人が、死亡したと同時に開始されます。相続手続きには期限が定められているので、悲しみに浸る暇もなく、相続手続きを着実に進行させなければなりません。

相続については、民法にかなり突っ込んだ詳細な規定が有りますが、これは被相続人の最終意思の発現である遺言書の無い場合に活用され、相続実務は、被相続人や相続人の意思に沿って行われます。

相続手続きは、遺言書や相続人の話し合いや合意により進行するので、各相続人は、相続手続きの概要を知れば、手続きの迅速化を図ることができ、手続きを専門家に依頼する場合も、相続手続きの全体を俯瞰することが出来るので、安心して相続手続きを行えます。

死亡届の提出

 

死亡届の提出は、相続とは直接関連しませんが、人の死亡に際してまずなすことが死亡届の提出です。死亡届は、被相続人が亡くなった日、または、その死亡したことを知った日から7日以内に市町村役場に届出を行います。

この際、死亡診断書と死亡届はセットになっていて、病院で亡くなった場合の死亡診断書は、生命保険を請求するためにも必要です。

死亡届提出の効果は、被相続人の戸籍に死亡記事が記載され、住民票も削除されます。

 

遺言書の存在確認

 

死亡届の提出の後、被相続人の遺言が有るか無いかを確認します。

遺言書の確認を怠ると、遺産分割協議が合意に至っていたあとでも、最初から協議をやり直す必要があるので注意して下さい。

原則として、遺言は被相続人の最終的な意思表示なので、「遺産分割協議」に優先して適用されます。

遺言書が見つかれば、その遺言書が「自筆証書遺言」である場合は、家庭裁判所で、「検認」の手続きを行って下さい。検認の前に、勝手に開封すると過料に課せられることがあるので開封しなでください。

開封した遺言を変造・廃棄、また、遺言を隠匿した者は、相続欠陥事由に該当し、相続権を失う事もあります。

「検認」が終了すれば、遺産確定作業や相続人調査を開始します。

尚、秘密証書遺言の場合も、「検認」手続きが要ります。

「公正証書遺言」の場合は、「検認」の手続きは必要ないので、遺産確定作業や相続人調査を進めることになります。

遺言の無い場合も有る場合も、法定相続人が法定相続分を相続することになりますが、相続人全員で行う「遺産分割協議」での合意により、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことも可能です。

ただ、遺言の有る場合で、遺言執行者が指定されている場合は、遺言の執行は、遺言執行者の判断が優先されます。遺言で認知した子や相続廃除が有った場合は、相続人が変わることになるので、相続人全員で行う必要のある「遺産分割協議」を初めからやり直す必要に迫られます。

 

法定相続人の確定

 

民法には、配偶者並びに血族相続人の相続順位が規定されていますが、これらの相続人は明確に決定した相続人ではなく、「推定相続人」と呼ばれる相続人です。

そこで、被相続人の遺産相続手続きを行うには、真の「相続人」は誰なのかを確定する作業を行う必要があります。

遺産分割協議が終了した後に、相続権者が現れた時は、また最初から協議をやり直さなければならないので、相続人の確定作業は重要な相続手続きと言えます。

法定相続人の確定は、まず、被相続人が生まれた時から亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍)を被相続人の本籍地や居住地の市町村役場で入手します。

この戸籍により、被相続人の子の数や名前、また認知した子や養子の有無を調査し、被相続人にこれらの者がいない時は、被相続人の両親や祖父母まで遡って戸籍を調査し、法定相続人の確定を行います。

この相続人確定作業は、被相続人の歩んだ人生によっても異なりますが、複雑場合は、その分相続人の確定は複雑さを極め、大変面倒な作業で、相続手続きの山場となることも有ります。

 

遺産の調査と財産目録の作成

 

法定相続人の確定作業が終了すれば、次に遺産の調査を開始して「相続財産目録」を作成します。

この目録は、相続人全員で行う「遺産分割協議」には欠くことのできない資料なので、もれなく調査・記入することが必要です。

相続財産目録を作成することで、被相続人が残した債券・現金・不動産等の積極財産や負債等の消極財産が明確になります。

これによって、単純承認するのか、また、限定承認、相続放棄するのかを相続人が判断することにもつながるので、財産目録の財産価値の試算はとても重要な作業です。

尚、限定承認、相続放棄を行う場合は、被相続人の死亡時(相続開始時)または、知った時から3か月以内に家庭裁判所に申し出る必要があり、限定承認に際しては、相続人全員の合意が必要です。

 

遺産分割協議と遺産分割協議書の作成

 

被相続人の遺産調査が終了し、「相続財産目録」を作成したら、遺産内容の確認の上、単純相続、限定相続、相続放棄と言う、相続人に自由意思に委ねられている相続方法を選定します。その後、遺産分割協議を開始して遺産分割協議書を作成します。

この協議書を元に、被相続人の遺産に不動産が含まれていたなら、相続を原因とする所有権移転登記を行い、金融機関等の名義変更手続きを行います。

民法が規定する相続割合は、遺言書が無い場合を想定し、法定相続分を明記しています。ただ、現金や預金等は、可分債権であるため、明確に法定相続分によって分割されるので、遺産分割協議の対象外と言えます。実際の被相続人の遺産は、不動産等の不可分財産が含まれていることが大半なので、遺産分割協議を行うことで、相続人相互に納得と公平感ある相続にすることができるのです。

遺産分割協議は、被相続人の遺産が現金等の可分債権だけであったり、遺言が残されており、その遺言が要式性を持つ法的に有効なものならば、遺言書に従った相続(法定相続人の遺留分を侵害した場合は、「遺留分減殺請求」を提起できる)が行われるため、取り立てて、これを開催する必要もない場合も有ります。

 

遺産分割協議不調に終わった場合

 

遺産分割協議は、悪く言えば、相続各人の欲の絡んだ財産の争奪合戦と思われる場面を呈することさえあります。何回も協議を重ねても納得のいかない相続人が出ることも考えられます。

このように、遺産分割協議がまとまらなかった場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し出てください。裁判その家事審判委員が調停委員となって、各相続人の主張を聞き、調停案を出してくれます。また、この調停案を受け入れないものは、裁判官が下す審判手続きに進むことになります。それでも受け入れない場合は、即時抗告して、高等裁判所で戦います。

尚、遺産分割については、「調停前置主義」が採られているいので、争う場合は、まず、家裁の調停を受ける必要が有ります。

 

遺産分割協議書作成時の注意点とは

 

遺産分割協議書には、遺言書のような要式性は求められていません。ただ、相続分割を決する相続人全員の協議内容を定めた、言わば相続手続きの要となる文書なので、作成に関しては落ち度のないよう十分注意する必要があります。

遺産分割協議書においては、まず、1.当該文書が「遺産分割協議書」であることを明確にすることが必要です。

2.相続人を確定して列記します。(相続人全員の署名・実印による押印)3.被相続人が誰であるか、その名前や死亡日を記載します。3.各相続人の相続分割合を記載します。4.遺産分割協議後の出現した相続人や相続財産に対処するため、当該遺産分割協議書が作成された期日を明記します。また、新たな相続人が判明した場合や新たな事実が確認された場合等に対して、再度協議する旨を明文で規定しておく。

5.「遺産分割協議書」が複数枚に渡る場合は、各ページの間に相続人全員の契印(割印)を押す。

6.相続財産が不動産の場合は、当該不動産が特定出来る物件の記載でも構いませんが、その不動産の登記記録情報を正確に記載することがベストです。

 

相続税の申告と納付

 

遺産分割協議書の作成が終了し、各相続人の相続分が確定したら、相続人は、相続税を計算して期限までに納付する必要があります。

相続税の申告・納付は、相続開始を知った日(被相続人の死亡を知った日)の翌日から10か月以内です。