養子縁組と相続

15.養子縁組と相続

 

節税目的に養子をとることはかなりリスキーなことです。確かに相続税の基礎控除額や生命保険金、死亡退職金の非課税枠は拡大されますが、養子制度は、相続税法、民法上の様々な規定が複雑に絡み合い、また、相続人間における「争続」の原因となる可能性も潜んでいることがあります。

そこで、養子と相続に関しては、専門家の知恵と経験を活用して問題を解決することが肝要です。

 

養子には2つの形態がある

 

養子縁組には、特別養子縁組と普通養子縁組の2つの方式があります。

特別養子縁組は、養子となった者と実親との親子関係が法律上消滅します。法律上は、他人としての扱いを受け、養子になった者は、実親の相続人になることはありません。

また、養子の子に子があっても、この者(孫)が代襲相続することもありません。

一方、普通養子縁組は、養子先の親と法律上の親子関係が生じますが、これによって実親との親子関係が消滅することはありません。つまり、養子になった者は、法律上(相続上)養子先の親と実親の2組の親の子となり相続人になり、相続に関しては、法定相続人と民法上何らの違いもありません。

 

代襲相続と養子

 

また、普通養子が、養親や実親より早く亡くなり、その時点で養子に子がある(養親、実親の孫)場合の相続(代襲相続)は、養子の子が生まれた時と養子縁組がなされた時の前後によって異なります。養子縁組後に生まれた養子の子(養親の孫)は、自分の親の養親、実親の相続権を代襲相続しますが、養子縁組前の養子の子は、養親の代襲相続人にはなりません。

この規定を養子縁組制度の欠点であると指摘する専門家もいますが、養子縁組の際に養子に子がある場合(連れ子を持って養子となる場合)は、その子と養親との間に法的にも血縁関係は生まれません。民法上代襲相続を認めているのは、直系血族関係にある者に対してだけなのです。

 

養子縁組と養子人数の制限

 

民法上の養子は何人いても構いませんが、相続税法上は、課税を公平に行うと言う趣旨から、相続税法の法定相続人の養子の数に制限が加えられています。

その制限とは、①養親に実子がいる場合は、相続税法上の法定相続人に算入可能な数は、1人、②養親に実子がいない場合の法定相続人に算入される養子の数は、2人までとなっています。

ただ、実子との親子関係が消滅した特別養子縁組の場合や連れ子の場合は、この養子制限の対象にはなりません。

養子の数が制限され影響が出るのは、①相続税の基礎控除に関わる法定相続人の人数、②相続税の総算出額に関わる法定相続人の人数、③生命保険金や死亡退職金の相続税非課税枠に関する法定相続人の数の3つが挙げられます。

養子縁組を無制限に認めれば、法定相続人の数を相続税逃れのために悪用することもあり、この相続税課税回避行為を未然に防がなければならないので、相続税法上の養子の人数は制限されているのです。

 

養子数の制限内でも養子認められないこともある

 

養子縁組は、その必要が実質的にあるか否か(合理的な理由があるか否か)で判断されているようです。

例えば、子のない夫婦が、自分の財産や事業を承継させるために養子を迎えること。この場合は、夫婦である養子を共に養子にすることもあります。

また、事業経営者等で、夫婦の子が娘しかいない場合、娘の結婚相手を婿養子にとして迎えることもあります。

更に、実子が早く亡くなり、実子の配偶者が療養看護等に努めてくれた場合、被相続人の遺産を血縁関係が無い実子の配偶を法定相続人としての強力な地位で相続させるため、養子縁組することなどが考えられます。

ただ、相続税法上の制限内の人数の養子でも、養子縁組が否定されることがあります。

法律には、「第15条2項各行に掲げる場合において各号に定める養子の数を同項の相続人に参入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更生または決定に際し、税務署長のみとめるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができる」との規定があり、税務署長に税法上の認定裁量権を認めています。

 

養子縁組の相続対策のメリット

 

養子縁組を活用した相続税対策がよく論じられていますが、養子縁組による相続税の節税効果は本当に有効なのでしょうか。

養子縁組の相続税対策におけるメリットととしてまず挙げられるのは、相続税の基礎控除枠が拡大することです。

現行の相続税基礎控除額は、5000万円+1000万円×法定相続人の数で算出するので、養子縁組により法律上の子が増加すれば、1000万円の非課税枠が増加します。

(2015年1月1日からは、この額は4割カットになり、3000万円+600万円×法定相続人の額になります。)

ただ、養親に実子がいる場合は、養子の数は相続税法上1人までに制限され、養親に実子がいない場合でもその数は2人までに制限されています。

また、養子の数がこの人数以内でも、相続税逃れを目的(租税回避行為)とする養子縁組を防止するため、養子縁組をなすには、合理的な理由が必要です。

また、養子縁組をして法定相続人の数を増やすと、生命保険金の控除額や死亡退職金の控除額も増加させることができます。

これらの相続税控除額は、500万円×法定相続人の数で算出します。

 

養子縁組による相続対策のデメリット

 

養子縁組には様々な節税効果もあると言えますが、養子縁組のデメリットについても理解しておくことが必要です。

養子縁組によるデメリットとにしてまず挙げられるのは、相続人全員の合意を必要とする遺産分割協議が難航するリスクがあることです。

また、被相続人の孫を養子とした場合は、相続税の2割加算が生じます。

「相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である時は、そのものに係わる相続税額は、その者の相続税額に100分の20に相当する金額を加算する」と言う規定があります。

孫養子は、民法上は被相続人の一親等の血族に該当しますが、相続税法上は、これに含めないことになっているので注意が必要です。

特に養親に実子がいる場合に養子縁組を行う場合は、これら本来の法定相続人の了解を得ることがいわゆる「争続」を未然に防ぐために重要です。

養子縁組を行えば、他の法定相続人が有する、遺言でも奪えない相続人の最低相続権である「遺留分」が減少します。被相続人に実子がいる場合は、この遺留分を減少させるために養子をとったと思われる可能性も考慮する必要があります。

相続税法上は、相続人において相続税の負担を軽減する様々な優遇制度がありますが、これらの制度の適用を受けるには、納税に期限までに相続人全員の合意による遺産分割協議が終了していることが必要です。

この協議が整わないままでは、養子をとって節税対策を行ったものの、かえってデメリットの方が大きくなった事例も報告されています。

 

養子縁組と相続問題は、専門家知識と知恵の活用が不可欠

 

普通養子縁組を行えば、養子と実親、養親共に親子関係があるので、民法上は2組の親が存在することになります。遺産相続の問題も重要ですが、養子はこれらの者の子なので、民法上は扶養義務が生じます。

また、養子縁組の届け出が受理されると、簡単には取り消すことができません。

例えば、被相続人の実子が1人娘で、被相続人の事業を承継させる目的で、娘の配偶者を養子にした場合、この夫婦破綻し離婚しても、娘の親である被相続人と離婚した配偶者は、養子縁組の離縁をなさない限り養子・養親の関係が続きます。

被相続人がある程度の資産を持っていて、娘のもと配偶者で有った養子に相当な非行等が無い場合に「離縁」するには、相当な慰謝料が必要になるケースも起きています。

養子と相続に関しては、ただ単に相続税の節税の問題だけではない非常に複雑な問題を潜在的に含有していると考えられるので、相続税の他、相続や民法に詳しく経験豊富な専門家に相談して問題を解決することが重要です。