不動産の相続

13.不動産の相続

 

不動産は、一般的に分割しにくく評価も難しいため、相続トラブルを起こしやすい財産だといわれています。不動産の価格には相続税評価額、不動産鑑定評価額や売却価格など様々で、評価がかなり違うこともあります。そのため価格の評価でもめごとが生じる場合もあります。

また、自宅などの不動産の場合、均等に分割することが出来ないので、「誰がその家に住むのか」といった問題もあります。不動産の他に預貯金が十分にあれば、ある程度預貯金でバランスをとりながら配分することが出来ますが、預貯金が必ずしも相当額あるとは限りません。また、不動産は売却しないと現金化出来ない資産であり、相続登記も必要なので、不動産の相続には、専門家の知識と経験を借りる必要があります。

 

不動産共有のリスク

 

相続には、法定相続人の相続分に従って被相続人に遺産が承継される基本原則がありますが、土地や建物のといった不動産もその持ち分に準じて受け継がれるので、各相続人間で不動産の共有状態が生じます。このような相続財産の共有状態には多くのリスクが隠されています。

例えば、共有者の1人が死亡して共有不動産がこの者の子へ承継されると、共有関係者が更に増加し、共有関係がますます複雑になります。

亡くなった共有者にたくさんの子があれば、その子が共有者になり、代々共有者の地位を承継して収集困難な状態になる危険性があります。現実問題として、当該相続財産である老朽化した建物を取り壊したり建て替えたり、リフォームして他人に賃貸したり、売却する時にも、供給者全員の承諾を得る必要があります。

亡くなった共有者の子が未成年者であった場合は、裁判所が選任する特別代理人をつける必要も生じます。

これらのリスクを回避するためには、相続や相続税に精通した専門家を交えた遺産分割協議を速やかに開催し、相続人全員の合意のもとで、不動産遺産の精算・分配を行い、不動産登記の変更手続きを行う必要が重要です。

 

不動産分割の3つの方法

 

不動産は現金等の相続財産と異なり、相続分に従って分割することが難しい財産です。そこで相続税法では、不動産分割について3つの主な方法を定めています。

①現物分割 例えば、不動産である土地の数え方は、1筆、2筆と数えますが、現物分割とは、不動産の現物を分割する方法で、1筆の土地を2つに「分筆」して分割する方法です。

この分割方法は、相続不動産である土地が更地の場合、比較的有効で、均一に分割しやすい方法です。

ただ、分筆した土地は面積が少なくなるので、一般的に、1筆として活用されたいた場合に比較して土地活用の効率が低下します。また、何らかの事由で将来この土地を売却する場合も、1筆であった時の土地の価格より、分筆された土地の価格を合算しても低くなることが考えられます。

②換価分割 この分割方法は、不動産を「売却」つまりお金に「換価」して、分割する方法です。

不動産市場で土地や建物といった不動産を売却して、各不動産共有者の相続分に従ってお金を分配します。ただ、不動産は市場価格が大きく変動することも考えられ、また建物は、自分が思うほど不動産市場における査定額は高くないのが一般的です。希望価格で相続不動産が売却できればよいのですが、はっきり言って希望通りの金額で売却することは難しい場合も多いのです。

また、相続税の申告・納付期限には、制限期間があるので、相続税の納付に焦って市場価格よりかなり安価な価格で売却し、後悔した経験を持つ方もいます。

相続不動産の換価分割は、不動産取引状況を考慮し、相続人間で十分話し合って、お互いに損のないよう、後悔が無いようになす必要があります。

③代償分割 相続人の一人が当該不動産全体を相続し、他の相続人に対して相続分である相続不動産の持分相当額の対価を金銭に代えて支払う方法(金銭で代わりに償う分割方法)です。
例えば、被相続人から相続により相続人の誰かが単独で相続することにして、他の相続人に対しては、その相続人の相続分の対価を金銭で単独で相続した相続人が支払う不動産分割方法です。

つまり、代償分割方法は、土地の代償として相続分を金銭で他の相続人に支払うので、代償分割する者の金銭的な負担はかかり重いものになります。

代償分割は、被相続人の相続不動産が、抵当権等の担保設定物件の場合もあるので、不動産登記情報や家屋番号等で不動産登記情報をよく確認し、専門家のアドバイスに耳を傾けながらその知恵を借りて進めることが重要です。

 

収益不動産の相続

 

近年、資産運用・投資の1つとしてマンション等の収益不動産を所有している方も増加してきました。また、本格的な不動産オーナーとして賃貸マンションや賃貸アパートのオーナーの方もいらっしゃいます。

このような収益不動産を相続すること言う事は、オーナー、すなわち、「大家さん」の法的地位を承継することでもあるので、家賃収入といった権利だけでなく、修繕義務や税負担等の義務も生じるので、十分これらの権利・義務を考慮の不動産の相続を行う必要があります。

相続した不動産が収益不動産不動産であっても、金融機関からの借り入れローンの残りがあれば当然ながらローンの返済義務もあります。

また、例えば、相続した収益不動産が賃貸マンションであり、その部屋が空室になるリスクもあります。

相続する不動産には、このようなリスクがあることも考慮しておく必要があります。

因みに、最高裁判例によれば、遺産分割協議で相続人の1人が収益不動産を単独相続することに決定しても、被相続人の死亡から遺産分割協議までの期間に生じた家賃収入は、全ての共同相続人の共有になり、法定相続分通りに分配されます。

 

不動産相続登記は必要

 

不動産の相続には、相続を原因とする相続登記手続きが必要です。登記手続きは、義務ではなく、登記を変更しなくても罰則等はありませんが、相続に関する問題を将来に残さないためには是非行って欲しい手続きと言えます。

尚、相続登記の主な形態は、遺言書による相続登記、遺産分割による相続登記、法定相続による相続登記の3つに分類されます。

 

不動産相続登記の流れ(遺産分割協議)

 

遺産相続手続きに欠くことのできない遺産分割協議は、相続人全員の参加のもとで、相続人のうち誰がどの相続不動産の所有権を獲得するのかを決定する話し合いです。

相続人全員の合意が必要なので、法定相続人等の漏れが無いように十分戸籍等を辿って誰が相続人であるか正確に確認する必要があります。

ただ、遺産分割協議は、相続人が一堂に会して協議することまでは求められていないので、手紙や委任状による代理人の参加、また、電話や電子メール等の意思確認で行うことも可能です。

相続人の中で中心者を決定し、その者が各相続人の意思を確認して回っても有効に成立します。こうして相続人全員の了解を受けた遺産分割協議書に相続人全員が署名し、実印を押印すれば遺産分割協議書は完成します。

ただ、遺産分割協議書は、遺言書と異なり、特別な要式性は求められていないのですが、「相続人全員で協議し合意した」との文言は必ず入れるようにしましょう。

また、不動産については、必ず、登記事項証明書に記載されている正確な情報(土地であれば、地番・地積、建物であれば、家屋番号等)を記入することが、その後の争いを避ける上でも有効です。

多くの労力を費やして遺産分割協議書を作成しても、不動産の特定が不明確で法務局が無効と判断すれば、相続不動産の名義書き換え登記が出来ない場合があるので、十分注意して下さい。

この点でも、相続に精通した専門家に依頼することは選択肢の1つとして検討の余地があります。

不動産相続手続きの流れ(相続登記に必要な書類の収集)

相続手続きに必要な書類の収集も、慣れていないとかなり面倒な作業です。

まず、①被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍とその方の住民票の除票を入手します。

これと並行して、②相続人全員の住民票と印鑑証明を入手します。

③不動産の全部事項証明書(従来の登記簿謄本)と固定資産税評価証明書を入手します。

これに、④相続人全員が合意した遺産分割協議書を揃えます。

尚、亡くなった方の戸籍謄本は、通常異なる市町村に散在しているので、戸籍化の相談コーナーで相談しながら着実に慌てることなく収集して下さい。

また、不動産の全部事項証明書は、全国の地方法務局(登記所)で収集可能です。

不動産相続手続きの流れ(相続登記申請書の作成)

相続不動産の登記申請書とは、法務局に対する不動産の名義変更申請書のことです。

この申請書は、自分で一から項目を立てて作成する書類なので、初めての方は苦心するかもしれませんが、法務局のホームページ等に、ひな型が掲載されているので、これに従って作成するとよいでしょう。ワードや一太郎、PDF等でファイル化されたひな型なので、これをダウンロードしてパソコンで必要事項を打ち込めば割と簡単に作成できます。法務省登記申請書の様式及びその説明

http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI79/minji79.html

不動産相続手続きの流れ(相続登記申請書と必要書類を法務局に提出)

相続登記申請書を作成し、相続登記に必要な書類がすべてそろえば、これを相続不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。

法務局の所在地は、インターネット検索ですぐに確認できます。

申請書と必要書類の提出から1週間ほどで新しい登記事項証明書(従来の権利証)が発行されます。

不動産の相続は信頼できる専門家に相談

被相続人の遺産に不動産がある場合は、その分割方法は様々で、しかも、その不動産が現在何に使用されているかや今後どのように使用するのかも、承継した相続人に考え方やライフスタイルによっても多種・多様な選択肢があります。

また、不動産の相続は、相続争いの原因となることも多く、相続財産に不動産がる方は、正確な土地建物の登記情報とその課税価格を把握し、遺言として残しておくことが重要です。

ただ、相続は一生の内で頻繁に経験することではなく、また不動産の相続の場合、登記や不動産価額の算出に細かな知識が必要なので、スムーズで満足いく相続手続きを行うには、相続や相続税に精通した専門家のアドバイスが非常に重要です。