2.相続税の申告
相続税の申告は、課税対象財産の評価や相続人の確定、遺産分割協議書の作成、更に、相続人に対する基礎控除等様々な相続税法上の制度や民法の相続の問題が複雑に絡み合う骨の折れる重要な手続きです。
しかも、相続税の申告には期限定められていて、相続人はこの期限に向かって手続きを迅速に進めることが求められます。
そこで、これらの業務に精通した専門家の知恵と経験を借ることは、相続税の申告を迅速かつ有利に進める上で、必要不可欠なことであると言えます。
相続税の課税価格の合計とは
相続税の申告は、相続または遺贈によって取得した被相続人の財産と相続時精算課税の適用を受け、被相続人から贈与された財産の合計額が、相続財産の課税対象額の基礎控除額を超える場合に行う必要が生じます。
ただ、相続財産が、基礎控除の額を超えない場合は、相続税の申告は必要なく、相続税納付の必要もないことになります。
尚、この相続財産には、被相続人が亡くなる前3年以内に贈与した財産額も含めて合算します。
また、被相続人の財産額の合計は、小規模宅地等についての相続税課税額の特例(居住用地では、240㎡または200㎡までの部分に関しては、土地の評価額の80%から50%に減額した評価額を相続税の課税対象額とする)や特定山林計画山林についての相続税課税価格の計算の特例を適用しない場合の課税価格の合計です。
相続税申告の概要
1.相続税の申告は相続を知ってから10か月以内
相続税の申告は、相続人が、自分が相続人であることを知った日の翌日から10か月以内に申告する必要があります。
例えば、被相続人が2月1日に亡くなり、相続人がこの日に被相続人の死亡を知った場合は、その年の12月1日が相続税税の申告期限になります。
納付期限期日が税務署が休みとなる、土曜、日曜、祭日等である場合は、この日が明けた日(翌日等)になります。
相続税の申告期日は厳格に規定されており、万一、この期日までに申告しない場合は、相続税の無申告課税が年20%、延滞課税が年14.6%の高い税率で課せられるので十分注意して下さい。
また、相続人間での遺産分割協議が長引き、相続税の申告期間内に遺産分割が確定していない場合でも、まず、被相続人の遺産を法定相続分だけ各相続人が相続したとみなして申告する必要があります。
その後、相続財産が確定し、相続分を払い過ぎている場合は税務署に申告して払い過ぎた分を払い戻して貰えますし、また足りない場合は、追加して相続税を納める必要が生じる場合もあります。
2.相続税の申告先と納付場所
被相続人が亡くなった時におけるその住所が日本国内である場合の相続税の申告先は、
被相続人が住民登録していた住所地を管轄する各地方税務署です。相続人の現住所を管轄する税務署ではないので注意して下さい。
尚、相続税の納付は、税務署だけではなく、銀行や郵便局等の各金融機関でも納付することができます。
3.相続税の物納・延納
相続税を含めた各税金は、一時に現金で納付することが原則ですが、相続税は相続人に負担になることも考えられるので、これに対処するため、例外的に相続税の物納、延納と言う制度があります。
物納は、その名の如く、「物」を現金納付に代用することや国債、地方債、株式、社債等の有価証券で納税することが認められています。
相続税の延納は、一時に相続税の現金が納付できない場合に、相続税を何年かに分割して納める制度です。
物納、延納共にある一定の要件のもとで認められる制度であり、物納や延納を希望する相続人は、相続税の申告書の提出期限までに税務署にその旨を申し出て(相続税の修正申告、更生の申告)、税務署の許可を受けることが必要です。
相続税申告の基本的な流れ
相続税の申告期限は厳格に定められています。申請期限の中には、個別的は事情で延ばせる例外が認められることがありますが、そのような場合でも、納税義務者が税務署に申請し、相続税の要件に該当する期限の伸長事項である必要があります。
ここでは、相続税申告の基本的な流れについて説明します。
1.相続税の申告は、相続開始を知ってから10か月以内
何度も言いますが、相続税の申請期限は、被相続人が亡くなったこと(相続があったこと)を知った日の翌日から10か月以内に税務署に申告する必要があります。
「相続の開始を知る」とは、被相続人の死亡を知ることであり、例えば、相続人が海外の僻地に住んでいて、連絡が取れず被相続人の死を知らない時は、相続税の申告期限である10か月は進行しません。
被相続人の死亡と同時に相続は開始され、医師の死亡診断書と死亡届を市町村役場に7日以内に提出します。この時、葬祭費用等は相続財産課税対象から控除できるので、これらの領収書は必ず取っていてください。
尚、相続税の納税は、原則として、相続税の基礎控除額を超えた場合に必要で相続財産が、基礎控除に満たない場合は、相続税申告の必要はありません。
ただ、例えば、配偶者控除や未成年者控除、障害者控除、また、小規模住宅の特例控除、更に、公益法人等に寄付した場合の相続税控除がある場合で、相続税が非課税になった場合は、相続税の申告をする必要が生じます。
1年以内に相続税の更生の申告をして、相続税を払い過ぎていた場合は、その分が還付税務署から還付されます。
相続の申告に際しては、まず、これらの相続税控除を正確に把握することが重要です。
2.遺言の確認
遺言は被相続人の最終的な意思を表した書面であり、遺言書がある場合は、この内容が相続に反映されます。一般的な遺言書には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがありますが、「自筆証書遺言」の場合は、遺言書の封を切らず、家庭裁判所で検認の手続きを行う必要があります。
3.相続人の確定
相続人を確定するために、被相続人と相続人全ての本籍地の戸籍謄本を取得します。被相続人の戸籍を辿り、相続人の確定作業を行います。
4.3種類の相続形態
相続財産は、財産的価値の有るプラスの財産ばかりとは限らず、借金や保証債務等のマイナス財産もあります。相続人は、これらの財産と債務を合計して単純相続するか否か、また、相続財産の範囲でこれを相続するか(限定承認)また、相続を放棄するかを自由に選択する権利があります。
被相続人の遺産がプラスの財産より債務等のマイナス財産が多ければ、家庭裁判所に「相続の放棄申請」をして、家裁がこれを受理すれば、被相続人の債権者がこれを不服として訴えない限り、「相続放棄」により、相続人は初めから相続人でなかったことになり、被相続人の負債を背負う事はなくなります。
5.被相続人の確定申告
亡くなった方であっても、当期に収入があった場合は、確定申告する必要があります。これを税法上は、「準確定申告」と呼んでいます。この申告期限は、被相続人の死後4か月以内です。
6.相続財産の確定と評価
相続財産は現金や預貯金だけでなく、不動産や書画骨董、また、中小企業主の場合はその未公開の株価も評価して相続税の税額を算出する必要があります。不動産については、評価額の算定の他に、相続を原因とする所有権移転登記して名義変更する必要もあります。
このような相続財産の評価は、非常に専門職が強く、相続財産評価や相続税法に精通した選ばれた専門家とそうでない者との差が大きく現れるので、依頼する税理士の選定には十分注意して下さい。
7.遺産分割協議の作成
相続財産の確定や評価が終了し、相続人全員のもとで遺産分割が行われます。この具体的な内容を書面にしたものが、「遺産分割協議書」です。
遺産分割協議書は、不動産登記事項の変更の際や相続税の申告の際の重要な添付書類となるので、正確に記入作成し、相続人全員の署名と実印による押印、印鑑証明の添付が必要です。
8.相続税の申告書提出
相続税の申告書並びに相続税の納税期限は原則として、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日(相続開始の翌日)から10か月以内です。
相続税の申告は、被相続人が住所登録をしていた住所を管轄する税務署に申告します。
相続税は、原則として一時に現金で納付しなければなりませんが、現金が足りない場合は、「物納」や税金の分割払いである「延納」もある一定条件下で認められ、これらの申請も被相続人の死後10か月以内に申請することが必要です。
ただ、遺産分割協議が長引き各相続人の遺産が10か月経っても確定しない場合は、法定相続分に従って相続税を納付しますが、遺産分割が完了していないと、配偶者の税の軽減措置、小規模宅地の特例等が適用できない場合が生じるので、遺産分割協議の合意はなるべく早くすることが税制面からも有利です。
以上、順を負って相続税の申告を説明しましたが、このように相続税の申告複雑かつ面倒な作業なので、税理士をはじめ多くの専門家の助けが必要であると言えます。
その際、相続の実務知識と豊富な経験を有する本当の意味での「相続税申告」の専門家を見極めて依頼することが非常に重要です。
税理士等の専門家であっても、各税理士、行政書士、司法書士等の「士業」の専門分野は異なるので、相続分野に精通した方に依頼すべきです。