相続税の節税対策

3.相続税の節税対策

 

相続税の節税対策を行い税額を減少させるには、相続財産を減らせばよいのですが、これでは、納税額は減少しても財産が減るので、良い相続税節税対策とは言えません。

相続税の節税対策でまず考慮すべきは、課税対象財産を圧縮したり、法律上認められている贈与や不動産の評価額を念頭に置き、相続財産における課税対象価額を引き下げることを考える必要があります。

ここでは、その具体的で代表的な方法について紹介します。

 

生前贈与で節税

 

相続税対策の1つに、生前贈与があります。生前贈与とは、文字通り被相続人の生前に財産を移転することです。

ただ、生前贈与には、贈与税が原則として課せられ、この税率は相続税より高いのでが、例えば、被相続人の配偶者に生前贈与を行う場合は、「配偶者控除」と言う特例制度があり、これを活用すれば節税が可能です。

ただし、この控除の特例利用は、1人に対し一生に1回だけです。

また、長期間に渡って少しずつ贈与を行えば、基礎控除や低い税率を活用して節税効果を受けることも可能です。

例えば、相続時精算課税制度(生前贈与促進のため、生前贈与時には贈与税を課さず、被相続者が亡くなった相続時に課税をする制度)を利用していない場合、年間110万円までの贈与は、非課税になっていいます。110万円を超えても200万円以下なら税率は10%です。

贈与税の計算式は、(贈与財産価格-110万円(基礎控除額)×税率-控除額で求められます。

仮に、子と孫が合計6人いれば、年間で660万円まで費増族人の財産を子や孫に無税で移転可能です。

この他、子や孫に対する住宅資金の贈与の非課税措置制度があり、住宅を取得するための贈与は、例えその住宅が中古住宅であっても、耐震基準をクリアしていれば、相続制精算課税制度と合わせて利用すれば、最高3500万円まで贈与税が非課税になります(2014年度)。

更に、親から子・孫に教育資金を贈与する場合は、1500万円まで贈与税の非課税枠が拡大されています。教育資金には、授業料等の他、給食費や修学旅行費も含まれています。

以上のような具体的な贈与税に関する特例措置を考慮して、毎年いくらまで贈与したら実効税率が相続税と比べて低くなるかを専門的に調査すべきです。

2015年から相続税の基礎控除額が4割引き下げられることを考えると、贈与税の非課税枠の検討は相続税の節税対策として不可欠と言えます。

 

配偶者に対する不動産贈与で節税

 

配偶者に対する相続税の基礎控除では、法定相続分または1億6000万円のいずれか多い額まで相続税が課せられない制度があります。

またこれに加え、婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産を配偶者に贈与した場合は、2000万円の基礎控除が認められます。

この制度が認められる要件は、婚姻期間20年間以上の他、贈与不動産を受けた年の翌年の3月15日までに居住の用に供し、以後も引き続き居住の用に供すること、さらに、この特例制度を以前に同一の配偶者からの贈与で利用していないことです。

ただ相続税の節税を考えて、配偶者に偏った遺産分割を行えば、被相続人が亡くなった際の一次相続では相続税の節税ができますが、被相続人から大半の遺産を相続した被相続人の配偶者が亡くなり、その子へ二次相続が起きた場合は、逆に子が、相続税の大きな負担を被ることが起こるので、相続税の節税を考える際には、目先の節税だけにとらわれず、大きな観点から十分考える必要があります。

 

小規模住宅地等の活用で節税

 

相続や遺贈で相続人が取得した宅地のうち、事業または居住用の宅地については、「小規模宅地等の特例」と呼ばれる減税措置制度があります。

相続税の課税対象として最も大きな価額になるのは不動産(土地)ですが、この特例の活用で、居住用や事業用の土地に関して土地の評価額を最高80%まで引き下げることができます。

特例の適用には、様々な要件が規定されているので、相続税に精通した専門家等に詳しい内容のアドバイスを受けてください。

 

生命保険の活用で節税

 

相続税の節税には、まず、相続財産(課税対象価額)を減少させたり、各種の特例を活用することが重要ですが、生命保険も相続税の節税に活用できます。

生命保険と言えば、被相続人が一家の経済的な柱であった場合の遺族のその後の生活費や病気やけがに備えることがその目的としてまず浮かびますが、生命保険は相続税の節税や相続税の納税対策としてとしても有効です。

生命保険を活用し、この生命保険料分の現金贈与を続け、親である被相続人が亡くなった時、子に生命保険金が支払われる保険契約に設定しておくと、子はこの保険金を相続税対象ではなく、一時所得の所得税対象として取得するため相続税の節税効果があります。一時所得は、収入から経費を差し引き、更に、50万円の基礎控除があります。

その上、課税対象は、その額を2分の1に圧縮した額になります。

また、相続税の納付は、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内で、しかも一時に(一回で)現金で納付することが原則なので、保険金がおり、キャッシュが入ることは、相続人にとって重要なことなのです。

また、生命保険金には、500万円×法定相続人の数で算出する、非課税金額が設定されています。

更に、生命保険の活用で、相続財産が分割しにくい物である場合は、生命保険金を遺産として分割することもできます。

 

不動産の活用で節税

 

相続税の節税対策で最も重要なのが、不動産を活用する節税です。

何故なら、遺産のうち、現金や預貯金等は、その金額に対してきっちりと課税されますが、不動産に対しては、まずその不動産の評価額を決定して相続税を算出するので、この評価の際に節税可能なのです。不動産の場合は、時価よりも約3割から4割程度評価額は減額されます。

相続税の路線価は、公示価格の約8割と言われているので、相続財産に対する土地の割合が多い場合は、特に相続の税節税のための土地活用を考えるべきです。

また、先述した、マイホーム購入時の「小規模宅地等の特例」の他、自宅をリフォーム・リノベーション、改築した際の改築費が認められ、かなり多額の控除額になります。

例えば、1000万円でリフォームを行った場合は、300万円から500万円が相続税課税対象額から控除されます。

 

遊休地に賃貸アパート・マンション建設で節税

 

土地は、その利用状況に応じて評価額が変化します。

例えば、現在青空駐車場として土地活用を行っている場合に、その土地にアパートや賃貸マンションを建設すると、土地の利用区分が「更地」(自用地)から貸家建付地に代わるので、更地に比べ土地の相続税評価額が2割から3割減価します。

この計算式は、借地権割合×借家権割合で計算します。

具体的に言うと、例えば、借地権割合が80%で借家権割合が30%であれば、自用地評価額から24%評価額が減額されます。

また、建物においても、相続税評価額は、固定資産税評価額に相当する金額で評価するので、その評価額は、建設に要した建設費の約60%に留まります。また、アパート等の貸家は、自家用家屋に比べその評価額は70%になります。

ただ、相続税の節税対策に不動産を活用する際には注意も必要です。

不動産価格は経済の動きに敏感で、しかも、賃貸アパート等の住人は借地借家法で強力にその権利が保護され、更に、不動産資産は、現金化や分割しにく資産なので、これらのリスクを十分考慮したうえで相続税対策を行うべきです。

 

債務控除の利用で節税

 

相続税の課税対象額は、簡単に言うと、被相続人が残したプラスの財産である積極財産と負債等のマイナス財産である消極財産の合計額です。

この制度を活用すると、債務は時価で相続財産評価額から控除されるので、借入金でアパート等を建設すると、その借入金部分が控除され相続税の節税に繋がります。ただ、何とか相続税の節税を行おうと、無理して借入金でアパート等を建設した場合は、入居希望者が少なく空室率が高くなったり、返済金に利率が高く返済額がかさみ、節税どころではなくなったと言う事例もあります。収支計算のシミュレーションは、このようなリスクを厳格に設定して慎重に行ってください。 机上の空論通りに実務は進まないことを肝に銘じるべきです。

 

基礎控除額で節税

 

法定相続人の数を増やせば、相続税の基礎控除額が増加し、その分節税になります。

2015年1月1日からは基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数(現行は、5000万円+500×法定相続人の数)と現行に比べ40%引き下げられますが、依然としてこの控除額は大きな額と言えます。

そこで、この基礎控除制度を利用して相続税の節税を図るものに、養子縁組があります。養子縁組を行うと民法上は、被相続人の実子と同じ法的地位につくので、法定相続人の数を増加させることになります。

ただ、相続税の節税を意図とした不当な養子縁組の乱発を防ぐため、被相続人に実子がいる場合の養子縁組は、相続税法上は1人に限られています。また、実子がいない場合でも養子として相続税の基礎控除の法定相続人になれるのは2人までです。

もちろん、民法は、要件を満たす限り養子が何人いても構いません。