カテゴリー別アーカイブ: 遺言

借金の相続

借金の相続

 

相続は、亡くなった被相続人が生前有していた権利・義務等の法的地位の全てを相続人が承継することが原則なので、被相続人が借金を抱えたいた場合も、原則として相続対象になります。

ただ、相続によって、相続人が不測の損害を被ることを避けるため、民法ではその回避制度を設けています。

借金の相続を行いたくない場合の手続きや対処法についての基礎的な知識を得ることは、相続人には欠かせないものと言えます。

 

相続は、マイナス遺産も承継する

 

相続する被相続人の財産は、預金や有価証券、株式、不動産といったプラスの財産(積極財産)ばかりとは限りません。被相続人が金融機関等から借金をしていたり、身近な例では、住宅ローンの返済義務が残っている場合もあるでしょう。

相続は、原則として、相続が開始(被相続人の死亡と同時に相続が発生)すると、相続人はその時点で何らの意思表示をしなくても、また相続の事実を知らなくても、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。

つまり、被相続人の借金返済義務も承継することになります。したがって、相続をすれば借金の返済義務を負います。

多少の借金なら何とかするとしても、借金が大きな金額であれば、相続財産を持ってしても払いきれない状態に陥る危険もあります。いわゆる債務超過の状態です。

 

単純承継とは

 

相続は、後述する相続放棄や限定承認手続きを家庭裁判所に申請しない限り、被相続人が生前有していた一身専属権を除く、全ての権利・義務、財産(プラスの財産・マイナスの財産=借金、負債、債務保証等)を承継したものされます。相続ではこの承継形態を「単純相続」と呼んでいます。

また、相続人が相続放棄や限定承認手続きを申請する前に、相続財産の全部またはその一部を処分すれば、単純承認したことになります。更に、相続財産を全部またはその一部を故意に隠したり、使用した場合も、限定承認の際に提出する「財産目録」記載しなかった場合も単純承認となります。

 

相続放棄制度の趣旨

 

民法は、借金を相続しない自由を相続人に認めています。

被相続人が借金を負っていた場合に、相続人を救済する民法上の制度が「相続放棄」です。相続放棄をすると、相続放棄した者は、「初めから」相続人でなかったことに法律上擬制されます(民法939条)。このことは、最初から相続人としての地位を1度も有していないことになるので、亡くなった被相続人が生前有していた権利・義務、財産の一切の承継をすることがないことを意味します。当然、被相続人の借金の返債義務も無くなります。

相続放棄は、被相続人が残した負の遺産から相続人の生活を保護する制度です。例えば、被相続人に金融機関からの多額の借金があり、プラスの遺産だけでは支払い不可能な場合は、相続人は、相続放棄して初めから相続人にならなうように法律上犠牲して、その後の生活を守るのです。

また、相続放棄制度は、被相続人が事業者主や農業を営んでいた場合にうまく活用されます。

事業や農業は、相続による事業資産の分割や農地の細分化が起きては効率的な運営が出来ない場合が多いので、事業資産や農地の細分化を防ぐため、被相続人の借金が無くても、被相続人の後継者に後を継がせるために他の推定相続人に相続放棄をしてもらう事もあります。

ただ、相続放棄は、被相続人や他の相続人が合意していても、被相続人の生前に約束していても法律上は無効なので注意が必要です。

 

相続放棄の手続きと法的効果

 

相続は、相続人知っているか否かに関わらず、亡くなった被相続人の死亡と同時に開始しまが、相続放棄したい相続人は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。相続放棄は、限定承認とは異なり、他に相続人がいる場合でも単独の意思で自由に申請することができます。

家裁の相続放棄の申述が認められれば、相続放棄した相続人は、「初めから」相続人でなかったことになります。

相続には、代襲相続と言って、世代を跨いだ相続制度があります。

例えば、相続廃除された被相続人の子がいた場合でも、その廃除された者に子がある場合は、その子が被相続人の相続財産を代襲相続出来ます。

しかし、相続放棄の法的効果は、「初めから」相続人でなかったことに擬制されるので、この代襲相続もその法的根拠を無くし出来なくなるのです。

相続放棄は、各相続人の相続分に影響を与えたり、相続順位も変わります。

例えば、配偶者と子が法定相続人の場合に、子が相続放棄すれば、被相続人の親が健在であれば、その親は第2順位の法定相続人として遺産を相続する権利を有することになります。
限定承認

 

被相続人の遺産価値がなかなか判明しない場合もあります。また、どれ位の借金があるのか良く分からないことも多いと言えます。

例えば、不動産投資や株式投資と行って資産運用していた被相続人の場合、投資した不動産価値が、地域の再開発事業等で大きく膨らんだり、投資した株式が新規に上場して資産価値が上昇した場合も考えられます。

表面上、被相続人に多額の借金があるので、これを相続しない為に相続放棄することも考えられますが、相続放棄は、被相続人の全遺産の承継を放棄することなので、もし、被相続人が投資対象としていた資産が今後も活用可能で運用したい場合は、相続人はそのチャンスを根元から失うことになります。こんな場合、相続人は相続放棄をなすか否か十分検討する必要があります。

そこで考えられた相続上の制度が、限定承認です。

限定承認を行えば、相続人が相続によって獲得した財産の限度でおいてのみ、被相続人の債務を弁済する義務を負う事になります。(民法922条)


限定承認の手続き


まず、限定承認を行う前提として、相続放棄と異なり相続人が他にいる場合は、それら共同相続人全員で裁判所にその旨を申請する必要があります。

限定承認は、相続開始を知ってから3か月以内に被相続人が残した「財産目録」を家庭裁判所に提出すると共に申請します。

限定承認は、「財産目録」の作成やその他相続財産価値の評価等の様々な手続き上の複雑な作業が伴うので簡単な手続きだとは言えません。限定承認をお考えの方は、これらの業務に豊富な経験と実績を持つ専門家の知恵を活用すべきです。

借金の相続負担の合意は、相続人間で有効

 

相続は、亡くなった被相続人の生前における法律上の地位を相続人において承継させる制度です。

制度上は相続分に応じて按分に被相続人の権利・義務を相続するのが原則ですが、実際は、相続分に従って按分相続しては不都合なことも多いのです。

例えば、事業主や農業経営者が亡くなった場合は、その事業の後継者(承継者)が、その地経営資産や事業資産をまとめて承継することが一般的です。

被相続人が事業経営者や農業経営者である場合は、事業資金を金融機関や農協等から借入している場合も多く、また、土地や建物、機械等の導入時に金融機関のローンを組んでおり、その返済途中であることも多いのです。

このような場合、相続人の誰が被相続人の借金を相続するか(債務を引き継ぐか)といった問題が生じます。

この場合、相続人全員で行われる遺産分割協議等で、被相続人の借金引き継ぎの行為をなすことは、判例上有効とされています。ただ、誰が借金を相続するかは借金先の金融機関等の承諾が必要です。

また、被相続人が一般サラリーマン等であった場合は、住宅ローン債務(借金)は誰が引き継ぐかといった問題が生ることも多いと思います。
ただ、現在の住宅ローン融資では、融資条件に団体信用保険への加入が義務化している場合がほとんどであり、生命保険住宅ローン商品も数多く提供されているので、万一被相続人がローン返済途中に亡くなって相続人がこの借金を相続しても、生命保険会社が相続人に代わってローン残金の返済をなすので、相続人が借金の相続で不測の事態に陥り、困窮することはあまりないと言えます。

遺産相続

遺産相続

 

被相続人の遺産は、積極財産ばかりとは限らず、マイナスの消極財産も存在する可能性があります。

遺産相続につい基本的な知識がないと、相続人は、被相続人からの遺産相続で大きな負担を強いられる事態に陥ることもあります。

また、遺産価値の評価には、専門家の知識を借りなければならない場合も多く、遺産相続に複雑な手続きを必要とする場合もあります。

そこで、相続人は専門家の知恵と経験を活用し、相続人自身も、遺産相続について基本的ではあるが、確実な知識を備えておくことが必要なのです。

 

遺産相続とは

 

相続とは、ある人(被相続人)が死亡した時、その人が生前有していた権利・義務等、また、財産的地位を被相続人の配偶者や子などの一定の身分関係にある者(相続人。法定相続人)が、原則としてそのまま受け継ぐことを言います。民法の規定では、人が亡くなると被相続人の一切の財産は、相続人に承継されるとする明文規定があります。(民法896条)。

この亡くなった被相続人から相続人に承継される財産のことを「相続財産」または、「遺産」と呼んでいます。

相続の対象となる遺産は、現金、不動産、有価証券等のプラス財産だけではなく、金融機関からの借り入れや債務保証、損害賠償債務等のマイナス財産も含まれます。

 

相続分

 

遺言が無い場合で、推定相続人が複数存在する場合は、法定相続分の割合に応じてなくなった方(被相続人)の遺産は相続人に承継されます。

その割合は、例えば被相続人に配偶者と子がある場合は、相続分はそれぞれ2分の1ずつ、子が2人の場合は、それぞれが4分の1の遺産を相続します。

また、被相続人に子がおらず、妻と被相続人の親が健在であれば、配偶者が遺産の3分の2、親が3分の1を相続します。更に、相続対象者が被相続人の配偶者と兄弟姉妹である場合は、配偶者が4分の3を兄弟姉妹が4分に1の遺産を相続します(法定相続分。民法900条)。

またこの遺産相続の分配については、この原則に加え、被相続人が生前の遺産形成にどれ位相続人が寄与したのかと言う「寄与分」や生前に相続人が被相続人から受けた「特別受益」等の要素を加味して遺産相続を行う事になります。

 

遺言がある場合

 

遺言の有る場合は、遺言の内容が法定相続規定に優先されます。例えば、被相続人(亡くなった方)が、遺産の全部を甲に相続させると遺言を残すと、法定相続人による遺留分減殺請求が無い限り、全ての遺産は甲に承継されることになります。

遺留分は、法定相続分の2分の1であり、配偶者と子が相続人ある場合の遺留分は、配偶者と子は、法定相続分2分の1の半分の4分の1となります。

また、兄弟姉妹には遺留分が認められないので、もし、被相続人に子や親が無く、兄弟姉妹に遺産相続をさせない為には、配偶者に遺産の全部を相続させる旨の遺言書を残すことが必要です。 被相続人の残した遺産相続の最終的な帰属は、原則として、全ての相続人の間で行われる協議によって決定します。法律上この協議を「遺産分割協議」と言います。

 

遺産分割協議がまとまらない場合

 

遺産分割協議を行っても相続人の意見がまとまらないこともあります。このような場合は、家庭裁判所に調停や審判といった判断を下して貰える制度があります。最終的には裁判になりますが、この場合でも、まず調停を申請する必要があります(調停前置主義)。

遺産分割は、遺言の有効性やどの範囲の財産が相続対象にあたるのかといった複雑な法律問題が生じることも多いので、遺産相続に関する専門知識と十分な実務経験を有する専門家に遺産相続がこじれる前に相談して、相続人の遺産相続についての基本的な知識を醸成しておくことが得策です。

 

遺産調査には専門家を活用するのが得策

 

また、遺産と言っても、必ずしも現金や有価証券、不動産、権利・債券等のプラスの遺産(積極財産)ばかりではなく、金融機関等からの借り入れ等のマイナス財産(消極財産)もあり、このような場合は、ただ単純に遺産相続について単純包括承認するとその後に大きな禍根を残す危険もあるので十分注意して下さい。

そこで、相続人は、被相続人が生前有していた遺産(相続財産)を調査することが求められます。この点については、積極財産と消極財産の財産目録を作成する必要があるので、遺産相続に経験と知識のない者にとって大きな負担となります。また、正確な遺産の財産的な評価も難しいことから、まず専門家の知恵と経験を活用すると良いでしょう。

 

遺産相続に関する3つの制度

 

遺産相続には、民法上3つの制度が設けられ、相続人はこれら3つの制度を自由に選択することが可能です。

1.単純承認

単純承認とは、相続開始を知った時から後述する限定承認や相続放棄をしなかった時や遺産の全部やその一部を処分した時に承認したと認める制度です。

また、限定承認または相続放棄した場合であっても、相続財産を隠ぺいしたり処分すれば、法定単純承認したことになるので注意が必要です。

2.限定承認

限定承認とは、相続した遺産(不動産、現金、有価証券等)の範囲内で、被相続人が残したマイナスの遺産である負債の債務責任を負う制度です。債務の不足分は弁済責任が免除されます。

ただ、限定承認しても債務が有限になるのではなく、債務は一応全て相続人が承継し、返済責任が遺産の範囲になると言う事です。

そこで、責任以上の弁済を債務が無いのにあると思って弁済した(非債弁済)場合でも、この弁済は有効で、後から法律上の根拠のない弁済として不当利得返還請求することはできないので注意が必要です。

限定承認は、相続の開始を知ってから3か月以内に財産目録を作成し、家庭裁判所に「限定承認の家事審判書」を提出することが必要です。また、限定承認は、相続人全員の同意が必要です。

3.相続放棄

相続放棄とは、その名の如く、相続権をすべて放棄することです。もちろん、被相続人が残した消極財産も受け継ぎません。相続放棄をすれば、相続人は、初めから相続人ではなかったことになります。

相続放棄には、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することが必要です。

相続放棄は、限定承認と異なり相続人全員の同意は必要ありませんが、相続放棄を行うと法律関係を安定させるため、原則として取り消しが出来ません。

 

遺産(積極財産の評価)のための調査について

 

遺産は、多種多様な財産価値のあるものなので、その調査方法も多岐にわたります。

遺産が不動産である場合は、まず、対象不動産を管轄する法務局(登記所)で当該不動産の登記事項全部証明書を入手して遺産(相続対象)である不動産を確認します。

また、この遺産としての評価額は、当該不動産が存在する市町村役場で入手する固定資産評価額証明書や固定資産課税台帳で算定します。

被相続人が残した不動産は、市町村の固定資産税をつかさどる部署に行けば、被相続人名義の不動産が確認できます。

遺産(相続財産)が金融機関へ預金や株式、債券等である場合は、被相続人名義の預金通帳や証券会社の株式名簿の照会請求等で残高証明書を取得すれば確認可能です。

ただ、被相続人が亡くなった時点で預金等が無い場合でも、取引履歴から不自然なお金の出入りがあることもあります。この取引履歴から贈与や隠し財産の発見につながることもあるので、取引履歴は十分注意してみてください。

被相続人が自動車に乗っていた場合は、車検証で真の所有者が確認できます。ただ、被相続人が所有していると外見上は見えても、ローンで購入している場合で車を販売したディーラーやメーカー等にローンの返済が完了していない場合は、車を販売したディーラー等に車の所有権が留保されているので注意が必要です。

最近では、中古自動車の価格について、インターネット上で車種、製造年や型式、走行距離等の基本情報を入力すれば比較的簡単にその中古車の市場価格の概要が分かるので、被相続人の車がどれ位の価値のあるもの判断が可能です。

その他の遺産として骨董や書画、美術品等があります。このような価値は素人ではとても鑑定できないので、専門家に鑑定を依頼しなければなりません。

 

負債・債務保証等の遺産(消極財産)の調査方法

 

被相続人の遺産は、財産価値を有する積極財産とばかりとは限りません。現実は、相続人が知らない債務や保証債務を抱えている場合も数多く見受けられます。

相続人が目に見える遺産のみに目が行き遺産調査を確実に行わず、消極財産の存在を知らずに単純承認すれば、相続人は大変大きな負担を抱え込む事態に陥るリスクがあります。十分に被相続人の遺産は調査する必要があります。

金融機関の取引履歴に消費者金融業者等の名前が確認できる場合は、速やかに債務処理について方策とることが求められます。

また、実際に被相続人が住んでいた住宅やその敷地でもまだローンが完済されておらず、当該不動産取得のために抵当権が設定されている場合もあります。

ローン等の抵当権は、登記記録全部証明書(以前の名称では登記簿謄本)の乙欄に記載されているので調べて下さい。抵当権の調査から、被相続人が債務保証をしていた場合が判明する場合も多いのです。

この他、被相続人の遺品等を整理していると様々な遺産と思しき物が出てくることもあるので、遺産の評価や遺産整理は十分な注意を払い、専門家の知識を借り確実で迅速な遺産確定とその承継を行うべきです。

遺産について

遺産について

 

どのような経済的価値があるのもが遺産(相続財産)となるのかを知ることは、相続人が相続手続きを行う上で欠くことのできない知識と言えます。

また、遺産は、プラスの積極財産ばかりではなく、消極財産と呼ばれるマイナスの遺産もあるので、相続人は被相続人の遺産の範囲を十分に見極めて相続する必要がります。

遺産の相続問題が円滑で満足する解決に至るには、法的な専門知識と理解が必要なことも多いので、出来る限りこれらの問題に精通した専門家の知恵と経験を借りることがお薦めです。

 

遺産とは

 

ここで取り上げる遺産とは、相続財産と同じことで、死者(被相続人)が生前有していた財産や本人に帰属する権利・義務等の有形・無形的価値(但し、一身専属権(本人以外の者では目的を達することのできない権利。例えば、資格や年金受給権を除く)の総称です。

一般的に使われる「遺産」の意味は、歴史的に受け継げられた、世界遺産のような有形建造物や伝統的な口承、祭り等の文化的無形価値も遺産に含まれます。

民法896条には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属していたものは、この限りではない」と規定されています。

つまり、相続財産である遺産は、「相続開始の時」すなわち、被相続人が死亡と同時に、何らの手続きを経ることなく、当然に相続人承継されます。例え、被相続人が死亡したことを被相続人が知らなかったとしても、被相続人に遺産は、被相続人に移転するのです。

 

代表的な遺産(相続財産)

 

一口に遺産と言っても、その範囲は多岐に及びます。被相続人から承継する遺産、すなわち相続財産はどのような財産価値を有するものまでを含むのか知る必要があります。

預貯金、株や国債、社債、一般債権(貸付金や未収金等)の金銭債権や土地・建物等の不動産、現金、貴金属、書画骨董、家具、果樹・立木等の積極財産は遺産を代表するもので、当然、相続の対象となる遺産に含まれます。

これらの遺産は、その価値を貨幣で測ることが可能なであり、分割可能な可分債権であるので、これらの遺産相続は、法律上、遺言のない場合は、被相続人が亡くなったと同時に生じる相続開始とともに推定相続人が遺産の法定相続分を分割相続します。

ただ、預貯金の名義書き換えは、金融機関の厳格な運営規則に従っているので、相続人間の合意で預金を相続しても、相続人間全員の同意書の提示がないと、応じてくれないことが一般的になっているので注意が必要です。

 

生命保険は遺産に当たるか

 

生命保険は、保険料の支払いを行う契約者や、万一の時に保険金を受け取る受取人、保険の対象となる被保険者等が契約した保険によって異なることがあります。

契約内容が、保険料の支払いを行っていた者(契約者)と保険の対象となる被保険者が被相続人で、保険金の受取人が相続人を含む被相続人以外のだれかである場合は、この保険金は、保険料を対価とする遺産は別の保険契約から生じる「受取人固有の権利」と考えられるので、被相続人の遺産には含まれないことになっています。

ただ、保険契約の内容が、保険金の受取人が被相続人自身である保険契約である場合は、保険金は、被相続人の死亡により被相続人に帰属するので、遺産(相続財産)に含まれます。

また、生命保険等は、被相続人が契約者で被保険者となり、受取人を相続人の誰かのために(例えば次男の為にだけ等)保険支払いを行っていた場合、被相続人の死亡で、保険金は受取人に支払われますが、この際、ある特定の相続人である受取人が、特別受益者(特別な経済的利益や贈与を被相続人から受けたもの)と認められる可能性もあるので、持ち戻し(ある相続人が特別に受けた遺産を、再度、被相続人の遺産に参入して相続財産を計算し直す)等の協議が必要な場合もあるので、相続人間で十分話し合う必要があります。

 

死亡退職金・遺族年金は遺産に含まれない

 

死亡退職金制度の制度趣旨は、被相続人が死亡した場合における、遺族の生活保障のためにあると言えます。

会社の就業規則に準拠した受給権は、受給者の固有の権利として認められているため、これを覆す特段の事情が無い限り、被相続人の遺産(相続財産)に死亡退職金は含まれません。また、死亡者の家族に対して支払われる「遺族年金」も同様の趣旨から、遺産に含まれないとされています。

 

株主としての地位(社員権)は相続遺産になるか

 

株式会社の実質的な所有者である株主たる地位、また、かつての有限会社の社員たる地位、合資会社(有限責任社員と無限責任社員の2種類の社員で構成する会社)の有限責任の社員たる地位は相続財産たる遺産に含まれます。

ただ、合名会社の社員権や合資会社の無限責任社員の社員たる地位は、これらの社員の個性が最も重視されることなので、他の人格である相続人には承継されないのが原則です。

ただ、これらの会社の定款に、相続を認める記述があれば、相続出来ることになります。

更に、合同会社の場合の原則も、定款に被相続人の社員たる地位を相続人が引き継ぐとの明文が存在すれば、被相続人の持分をそのまま引き継ぎますが、このような定款の定めがない場合は、被相続人の出資額相当の金銭等が相続人に支払われることになります。

 

賃貸借権は遺産となるか

 

被相続人が住宅を賃借していた場合の賃借権も、賃借権は財産的価値を有するので、原則としては被相続人の遺産(相続財産)に含まれ、相続の対象になります。

また、賃貸人(貸し手側)の法律上・契約上の地位もその相続人に承継されるのが原則です。

ただ、不動産の賃貸借契約は賃貸人と賃借人の個性を重要な要素とする信頼関係に基づく契約なので、契約内容によっては、必ずしも賃借権を有していた被相続人の権利を相続人がその遺産として当然に引き継ぐとはしない場合もあるので注意が必要です。

賃貸借においては様々な契約形態が考えられるので、専門家と相談して個別に検討する必要が生じます。

 

損害賠償請求権は遺産(相続財産)になる

 

遺産には、交通事故等で被相続人が死亡した場合に発生する医療費や慰謝料、被相続人の逸失利益(万一被相続人が事故に遭遇し死亡しなければなければ得られていたであろう利益)も、相続人の損害賠償請求権として、遺産となることが判例上認められています。

 

祭祀財産

 

墓地の永代使用権、墓石、仏具・仏壇等の祭祀に関連する祭祀財産は、法律上の遺産(相続財産)には該当しません。祭祀財産の承継は、一般的に慣習で祭祀を主宰する者が承継します。ただ、被相続人が遺言によって祭祀承継者を指名することも可能です。

 

消極(マイナス)遺産の承継

 

相続は、被相続人の権利・義務等の法律上の地位の全面的な相続人への承継なので、被相続人が生前有していた遺産は、プラスの遺産である積極財産の他、相続人は、マイナスの遺産も相続するのが原則で、相続人はこのマイナス遺産(負債等)の返済義務を負います。

被相続人のマイナスの遺産が、金銭債務等の可分債務の場合は、相続に人の相続割合に按分して承継されます。

ただ、雇用契約に対する身分保証やある一定の債務に対する継続的な保証の「根保証」については、この保証形態が被相続人と保証を受ける者との人的な信頼関係を重視して行われ、これをそのまま相続人に承継させたのでは、相続人に不測の損害を被らせることに繋がる危険もあるので、原則としてこのようなマイナスの遺産は原則として承継されません。

尚、契約には、様々な形態・種類・条件等があり複雑な場合も多いので、個々の契約内容を十分検討して結論を出す必要があります。

 

遺産相続出来ないもの

 

遺産相続が出来ないもの、すなわち一般的に遺産に該当しないものに、被相続人が有していた被相続人だけが権利行使し得る「一身専属権」と呼ばれる権利があります・

例えば、被相続人の法的身分を前提に支給される生活保護請求権や恩給請求権、厚生年金等は、被相続人の「一身専属権」であり、相続人はこれらの権利を遺産として相続することはできません。

また、民法には、何種類かの契約形態が定められていますが、被相続人と個人の信頼関係が元となり、使用に際して賃料が発生しない「使用貸借契約」は、遺産には入りません。被相続人の死亡により、使用貸借契約は効力を失います。

更に、個人間の信頼関係を契約の基礎とする「委任契約」や「雇用契約」も遺産相続の対象外です。例えば、難しい法律問題の解決を法律家に委任しても、受任者が亡くなれば、その信頼関係は相続人であっても承継されるとは限りません。これは、「雇用契約」でも当てはまり、例え優秀な被相続人に依頼した場合でも、その子やその相続人がこれと同様の力があるとは限りません。

この他、遺産に対する所有権の帰属関しては、様々な形態が生じ、相続法や判例に対する知識と理解も、円滑な手続きや相続人の間の合意形成必要な場合も多いので、遺産相続実務に精通した専門家と十分協議の上、手続きを進める必要があります。

 

遺言について

遺言について

 

遺言を残す方が急速に増加しています。その理由は、遺言知識普及や紛争防止、また相続財産の高額化対策等が挙げられます。

ただ、遺言は、被相続人(亡くなった方)の生前の意思を叶えるために認められた民法上の制度です。人生の総決算として御自分の最終意思を財産面だけに留まらない意思表示することが求められます。

その実現には、多くの相続・遺言に関する知識と経験を持つ専門のアドバイスを受けることがとても有効です。

 

遺言には厳格な要式性がある

 

「遺言」の一般的意味は、「死後に言い残す言葉や文章」と理解され、「ゆいごん」と呼んでいますが、法律上では、遺言は、「ゆいごん」ではなく、「いごん」と言います。

法律上の遺言は、死者(被相続人)が生前有していた権利・義務や財産等の処分をどう実現するかについての最終的な意思表示のための法的制度です。

このように遺言は、国家の法制度が裏付けとなる制度であり、遺言の持つ効力は非常に大きいので、法律上、厳格な様式性や規定が設けられています。

遺言は、被相続人の生前に行う財産処分等に関する最終意思表示ですが、遺言は、ある一定の法律に規定された方式によらなければ、遺言の効果が認められません。この遺言の方式には、全ての記述を被相続人が自書する「自筆証書遺言」や公証人が遺言者の言葉を書き留めて公正証書化とする「公正証書遺言」の「普通形式の遺言」と、稀に、「秘密証書遺言」や死亡危急や船舶遭難時等の危急時における「特別方式の遺言」の2つの要式があります。

先述のように遺言は、民法に定められた厳格な要件を満たしたものでしか法的効果を持ちません。その理由は、遺言が明らかになるのは被相続人が死亡した後なので、死者は、問題が生じても説明できないので、被相続人が自分の意思で本当に作成したものかを明確に判断できる形式上の規定が必要といったことが考えられます。

遺言には権利・義務の承継や財産処分の他に、「兄弟仲良く、最後までお母さんを守ってくいださい」といった文言が書かれている場合がありますが、この文言は法律的には効果が生じません。ただ、このような遺言の「付言事項」と呼ばれる文言によって、相続に対する争いが避けられた事例も多いのです。「付言事項」を記述することは、法的な効果がないとはいえ、被相続人の思いとして後世に伝えておくべきです。

 

遺言能力

 

遺言者が遺言をするときには、遺言の意味・内容を理解し、判断することができる能力(遺言能力)を有していなければなりません。高齢になって判断能力がなくなってからの遺言は、相続人の間で、有効無効の争い起こす要因となる可能性も否定できません。したがって、遺言は、元気なうちに備えとして作成しておくべきです。

なお、遺言は、制限能力者であっても、遺言するときに意思能力(判断能力)さえあれば有効な遺言をすることができます。成年後見人であっても、正常な意思表示が出来る情況に戻っていれば遺言すれば認められます(但し、医師2人の立会いのもとでなした遺言)。

被補助人や被保佐人は、補佐人や補助人の同意が無くても有効な遺言をなすことができます。

また、未成年者であっても、15歳以上であれば遺言を残すことができます。この場合は、親等の法定代理人の同意が無くても遺言の有効性は失われません。

 

遺言が無い場合

 

遺言(遺言書)がない場合は、民法で規定された法定相続人(被相続人等)に、民法の規定に基づいた割合の「法定相続分」が相続されます。ただ、「法定相続分」は、相続人の全ての同意のもとによる「遺産分割協議」によって、遺産分割割合を変えることが可能です。もちろん、遺言が存在すれば、法律の規定の範囲内で遺言にある被相続人の意思が優先されます。

遺言がない場合は、法定相続人間の相互関係や生前の被相続人との関係も加味することなく一律に相続分が決められるので、いわゆる「争族」問題へと発展する危険があります。

 

遺言の内容を変更・取り消しの方法

 

遺言は、被相続人が有する最終的な意思表示であり、大きな法律効果を有するものなので、遺言者の最終意思を遺言により実現させるために、遺言者が生きているうちは何度でも書き直しが可能です。

遺言を変更ないし内容の取り消しをしたい時は、遺言書を破棄するか、新たに遺言書を作成することが原則です。遺言は、常に新しい日付けの遺言の内容が有効になります。

例えば、「2014年3月11日の全て(○○部分)を撤回する」と新しい遺言に記述すれば良いのです。

民法では、「遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法第1022条)」と規定され(法定撤回)、遺言を撤回する権利は放棄できません。(民法1026条)
また、民法では、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。」最初の遺言内容が後からの内容に矛盾する時は、最後の遺言内容が有効な遺言になります。

例えば、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に相続させる」と遺言した場合等です。また、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に売却した」場合等です。

更に、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合は、その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなします。例えば、遺言である物を相続させるとしながらも、遺言者がその目的物

を破棄した場合は、その破棄部分について遺言の撤回とみなされます。

 

遺言で指定できること

 

遺言には厳格な要式が必要であり、また、遺言で指定できる内容も法律で定められています。

遺言で出来ることは、1.相続に関すること、2.財産処分に関すること、3.身分に関すること、4.遺言執行者等に関することの大きく4つに分類されます。

1.は、法定相続割合と異なる相続分を遺言で指定することや法定相続人の廃除や廃除の取り消し、遺産分割方法の指定等があります。

2.は、法定相続人以外の者に遺産を承継させることで、この特定の人を指定して財産を与えることを「遺贈」と呼んでいます。遺贈には、「00万円を甲に遺贈する」といった具体的なものやお金を指定する「特定遺贈」と「遺産の評価額の10%を遺贈する」といった指定を行う「包括」の2つがあります。

また、遺言で、ある社会福祉団体に寄付したり、特定の公益社団・財団法人、更に、国や地方自治体に遺贈することも、遺産を基金にした公益法人を設立することもできます。

3.は、法律婚でない(事実婚)両親の間に生まれた子の認知(胎児にも相続権があるので認知可能です)、また、後見人や後見監督人の指定を行います。

4.は、遺言執行人の指定です。遺言手続きは煩雑で法律上の知識や経験が必要なため、円滑な手続きを確実・公平遂行するためには、遺言で遺言執行者を選定しておくべきです。

 

遺言を残す必要性が高い場合とは

 

遺言を残す必要性が高い場合いとしてまず挙げられるのは、

1.夫婦間に子がいない場合です。

子がいない場合で遺言を残さず被相続人が亡くなった場合、被相続人が配偶者に出来る限りの遺産を残そうと考えていても、親や兄弟姉妹がいれば、法定相続分をそれらの者が相続する権利を持ちます。

2.法定相続人以外の者に遺産を残したい時です。

例えば、内縁の妻やその子に遺産を多く残したい場合も遺言する必要があります。

3.法定相続分の割合を変えたい時です。

被相続の生前の生活援助に多大の貢献をした者や被相続人の亡き後の生活が心配されるもの等に法定相続分より大きく財産を与えることができます。

また、法定定相続人の中に遺産を残したくない者がいる場合も遺言する必要があります。この点、兄弟姉妹は、被相続人に子がおらず配偶者のみの場合は、4分の1の法定相続分がありますが、遺言で、「全財産を妻のB子に相続させる」とすれば、兄弟姉妹には遺留分が無いので、全財産を被相続人の意思通り配偶者に与えることができます。

また、これに関連して、被相続人が事業を営んでいる場合は、経営資産が分散しては経営効率が悪くなるリスクがあるので、事業承継に必要な経営資源や株等に関する経営権の事柄も遺言しておくべきです。

4.先妻の子供と後妻がある場合は、遺産相続で頻繁に問題が起こるので、被相続人は、事前にこれらの者とよく相談して相続財産の割合を決定し、遺言を残しておくべきです。

これらの他にも様々な遺言が必要な場合も考えられます。自分にはこれといった財産が無いと思う場合でも、遺言を残しておいて損はないでしょう。

ただ、遺言は親族間等で争われることも多いので、遺言で相続に詳しく客観的な判断を下せる遺言執行者の選任をしておくことが求められます。
遺言書の保管

 

折角最新の注意を払って遺言を作成しても、自筆証書遺言の場合は、その保管に関して頭を痛めることも多いのです。

何処に保管した本人名は知っていても、その場所を明かす暇なく被相続人が亡くなった場合が大変です。遺言があること自体相続人に知らされていない場合もあります。

遺言は発見されないのは実在しないと同様です。

簡単に発見されるのも問題ですが、被相続人の死後すぐに発見できないと意味を持ちません。そこで、被相続人が一番信頼を置いている配偶者やこ、または、その他の推定相続人が遺言の保管場所を把握していることが多いようです。

ただ、最近では、行政書士や弁護士等の遺言執行者に任命されている者や信託銀行で保何されている遺言も多いようです。
この点、公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管され安心できます。遺言者には正本と謄本が交付されます。この正本や謄本は、遺言執行者も多く保管しています。また、信託銀行が行う遺言信託サービスの場合は、正本を信託銀行が預かっています。

養子縁組と相続

15.養子縁組と相続

 

節税目的に養子をとることはかなりリスキーなことです。確かに相続税の基礎控除額や生命保険金、死亡退職金の非課税枠は拡大されますが、養子制度は、相続税法、民法上の様々な規定が複雑に絡み合い、また、相続人間における「争続」の原因となる可能性も潜んでいることがあります。

そこで、養子と相続に関しては、専門家の知恵と経験を活用して問題を解決することが肝要です。

 

養子には2つの形態がある

 

養子縁組には、特別養子縁組と普通養子縁組の2つの方式があります。

特別養子縁組は、養子となった者と実親との親子関係が法律上消滅します。法律上は、他人としての扱いを受け、養子になった者は、実親の相続人になることはありません。

また、養子の子に子があっても、この者(孫)が代襲相続することもありません。

一方、普通養子縁組は、養子先の親と法律上の親子関係が生じますが、これによって実親との親子関係が消滅することはありません。つまり、養子になった者は、法律上(相続上)養子先の親と実親の2組の親の子となり相続人になり、相続に関しては、法定相続人と民法上何らの違いもありません。

 

代襲相続と養子

 

また、普通養子が、養親や実親より早く亡くなり、その時点で養子に子がある(養親、実親の孫)場合の相続(代襲相続)は、養子の子が生まれた時と養子縁組がなされた時の前後によって異なります。養子縁組後に生まれた養子の子(養親の孫)は、自分の親の養親、実親の相続権を代襲相続しますが、養子縁組前の養子の子は、養親の代襲相続人にはなりません。

この規定を養子縁組制度の欠点であると指摘する専門家もいますが、養子縁組の際に養子に子がある場合(連れ子を持って養子となる場合)は、その子と養親との間に法的にも血縁関係は生まれません。民法上代襲相続を認めているのは、直系血族関係にある者に対してだけなのです。

 

養子縁組と養子人数の制限

 

民法上の養子は何人いても構いませんが、相続税法上は、課税を公平に行うと言う趣旨から、相続税法の法定相続人の養子の数に制限が加えられています。

その制限とは、①養親に実子がいる場合は、相続税法上の法定相続人に算入可能な数は、1人、②養親に実子がいない場合の法定相続人に算入される養子の数は、2人までとなっています。

ただ、実子との親子関係が消滅した特別養子縁組の場合や連れ子の場合は、この養子制限の対象にはなりません。

養子の数が制限され影響が出るのは、①相続税の基礎控除に関わる法定相続人の人数、②相続税の総算出額に関わる法定相続人の人数、③生命保険金や死亡退職金の相続税非課税枠に関する法定相続人の数の3つが挙げられます。

養子縁組を無制限に認めれば、法定相続人の数を相続税逃れのために悪用することもあり、この相続税課税回避行為を未然に防がなければならないので、相続税法上の養子の人数は制限されているのです。

 

養子数の制限内でも養子認められないこともある

 

養子縁組は、その必要が実質的にあるか否か(合理的な理由があるか否か)で判断されているようです。

例えば、子のない夫婦が、自分の財産や事業を承継させるために養子を迎えること。この場合は、夫婦である養子を共に養子にすることもあります。

また、事業経営者等で、夫婦の子が娘しかいない場合、娘の結婚相手を婿養子にとして迎えることもあります。

更に、実子が早く亡くなり、実子の配偶者が療養看護等に努めてくれた場合、被相続人の遺産を血縁関係が無い実子の配偶を法定相続人としての強力な地位で相続させるため、養子縁組することなどが考えられます。

ただ、相続税法上の制限内の人数の養子でも、養子縁組が否定されることがあります。

法律には、「第15条2項各行に掲げる場合において各号に定める養子の数を同項の相続人に参入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更生または決定に際し、税務署長のみとめるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができる」との規定があり、税務署長に税法上の認定裁量権を認めています。

 

養子縁組の相続対策のメリット

 

養子縁組を活用した相続税対策がよく論じられていますが、養子縁組による相続税の節税効果は本当に有効なのでしょうか。

養子縁組の相続税対策におけるメリットととしてまず挙げられるのは、相続税の基礎控除枠が拡大することです。

現行の相続税基礎控除額は、5000万円+1000万円×法定相続人の数で算出するので、養子縁組により法律上の子が増加すれば、1000万円の非課税枠が増加します。

(2015年1月1日からは、この額は4割カットになり、3000万円+600万円×法定相続人の額になります。)

ただ、養親に実子がいる場合は、養子の数は相続税法上1人までに制限され、養親に実子がいない場合でもその数は2人までに制限されています。

また、養子の数がこの人数以内でも、相続税逃れを目的(租税回避行為)とする養子縁組を防止するため、養子縁組をなすには、合理的な理由が必要です。

また、養子縁組をして法定相続人の数を増やすと、生命保険金の控除額や死亡退職金の控除額も増加させることができます。

これらの相続税控除額は、500万円×法定相続人の数で算出します。

 

養子縁組による相続対策のデメリット

 

養子縁組には様々な節税効果もあると言えますが、養子縁組のデメリットについても理解しておくことが必要です。

養子縁組によるデメリットとにしてまず挙げられるのは、相続人全員の合意を必要とする遺産分割協議が難航するリスクがあることです。

また、被相続人の孫を養子とした場合は、相続税の2割加算が生じます。

「相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である時は、そのものに係わる相続税額は、その者の相続税額に100分の20に相当する金額を加算する」と言う規定があります。

孫養子は、民法上は被相続人の一親等の血族に該当しますが、相続税法上は、これに含めないことになっているので注意が必要です。

特に養親に実子がいる場合に養子縁組を行う場合は、これら本来の法定相続人の了解を得ることがいわゆる「争続」を未然に防ぐために重要です。

養子縁組を行えば、他の法定相続人が有する、遺言でも奪えない相続人の最低相続権である「遺留分」が減少します。被相続人に実子がいる場合は、この遺留分を減少させるために養子をとったと思われる可能性も考慮する必要があります。

相続税法上は、相続人において相続税の負担を軽減する様々な優遇制度がありますが、これらの制度の適用を受けるには、納税に期限までに相続人全員の合意による遺産分割協議が終了していることが必要です。

この協議が整わないままでは、養子をとって節税対策を行ったものの、かえってデメリットの方が大きくなった事例も報告されています。

 

養子縁組と相続問題は、専門家知識と知恵の活用が不可欠

 

普通養子縁組を行えば、養子と実親、養親共に親子関係があるので、民法上は2組の親が存在することになります。遺産相続の問題も重要ですが、養子はこれらの者の子なので、民法上は扶養義務が生じます。

また、養子縁組の届け出が受理されると、簡単には取り消すことができません。

例えば、被相続人の実子が1人娘で、被相続人の事業を承継させる目的で、娘の配偶者を養子にした場合、この夫婦破綻し離婚しても、娘の親である被相続人と離婚した配偶者は、養子縁組の離縁をなさない限り養子・養親の関係が続きます。

被相続人がある程度の資産を持っていて、娘のもと配偶者で有った養子に相当な非行等が無い場合に「離縁」するには、相当な慰謝料が必要になるケースも起きています。

養子と相続に関しては、ただ単に相続税の節税の問題だけではない非常に複雑な問題を潜在的に含有していると考えられるので、相続税の他、相続や民法に詳しく経験豊富な専門家に相談して問題を解決することが重要です。

不動産の相続税

14.不動産の相続税

 

相続財産の中には、現金や預金、株式等の有価証券、ゴルフ会員権、骨董書画、美術品等様々なものがありますが、このうち相続に関する財産の約7割が土地・建物等の不動産資産です。

不動産の相続税は、取得した土地・建物の評価価額に対して課せられ、国税庁は、財産評価基本通達で個々の財産価値評価基準を提示しています。

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/01.htm 「国税庁;財産評価ホームページ」

しかし、不動産は、金融資産等と異なり、相続開始時にどれ位の価格で市場に評価されているのか正確に判断することが素人には分かりににくいものです。そこで、専門家のアドバイスが重要になりますが、相続人自身も、不動産評価の基礎的な知識の理解は、不動産相続を迅速かつ納得行くものとするために欠かせません。

また、2015年からの相続税基礎控除縮小に伴って、相続で不動産を取得した相続人の課税対象者の範囲が拡大するので、相続税対策は十分行う必要があります。

 

土地の評価

 

土地は「1物4価」と呼ばれる、複数の価格がつけられている資産です。「4価」とは、①実際の売買取引価格である「実勢価格」、②国土交通省が公示し、実勢価格の90%で評価する「公示価格」、③国税庁が発表し、実勢価格の70%~80%の評価価額になる「路線価」、更に、④地方公共団体が算出する、実勢価格の60%~70%に評価される、「「固定資産税評価額」です。

このうち、相続に関係する土地評価価額は、③の「路線価」または、④の「固定資産税評価額」を基礎にして算出します。

また、土地の評価には、原則として宅地や田畑、山林といった「地目」と呼ばれる土地区分ごとで評価し、更に評価方法は、①路線価方式と②倍率方式があります。

尚、土地の地目は、登記記録に記録されている地目ではなく、課税時期(相続の場合は被相続人が亡くなった日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)の当該土地の現況によって判定されます。

①路線価方式は、「路線価」(国税庁が示す路線に面する土地の価格)が定められている地域で土地価額を算出します。「路線価」とは、道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額を表しています。

「路線価」(1㎡あたり)×面積(○㎡)で計算すれば、おおよその相続に関する土地評価価額が算出出来ます。

ただ土地の形状は、様々なので、「路線価」をその土地ごとの形状に応じて「奥行き補正率」等の各種補正率で修正して現実に適合した1㎡あたりの価額を算出し、これに実際の「地積」(面積)」を乗じて、当該土地の評価価額を算出します。

http://www.rosenka.nta.go.jp/ (国税庁路線価・評価倍率表ホームページ)

  ②倍率方式は、「路線価」が示されていない地域の土地評価額を算出する際に用いる評価方です。「固定資産評価額」に一定の倍数を乗じて算出します。一定の倍数に関しては、国税庁が決定しますが、「固定資産税評価額」は、各市町村役場で確認して下さい。

尚、路線価も固定資産税評価額も、実勢価格よりかなり低い価格で評価されるので、相続財産を現金で所持するより、不動産に代えて所有する方が節税になると言われています。また、自分で使用する土地(自用地)より、第三者に貸している土地(貸宅地)の評価額は減少します。何故なら、貸宅地は、借地権が土地に設定されているので、自由に転売できないからです。自用地と比較すれば、市場価格は2割から3割程度評価減になるからです。

農地の評価

農地の評価は、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて算出しますが、市街地近郊の農地(田畑)に関しては、付近にある宅地と比べて価格評価を行います。農地には、区分が設けられていて、①純農地・中間農地の場合は、固定資産税評価額×倍率、②市街地周辺農地の場合は、(宅地の評価額-造成費用相当額)×0.8、③市街地農地地では、宅地の評価額-造成費用相当額の各式で算出します。

ただ、貸し農地地の場合は、農地の評価額×(1-耕作権割合等)の式で計算し、使用代金を受け取らない、「使用貸借」契約で貸し付けを行っている場合は、耕作権割合の控除はありません。

家屋の評価

家屋等の建物の課税評価額は、「固定資産税評価額」にある一定の倍率をかけて算出しますが、現在は、1.0倍して算出することが決定しているので、家屋等の評価額は、「固定資産評価額」と同じ価格になります。

また、貸家の評価は、時用家屋の評価額から当該家屋の借家権割合を控除した価格で、

近年の借家権割合は、30%に設定されているので、貸家の評価額は、自用地価格の70%で評価します。

マンションの評価と注意点

マンションの登記を見ると、各マンション所有者の持分が記載されています。マンションの評価は、マンションの敷地と建物全体の評価額の内、持ち分割合に従ってマンションの評価額を計算します。マンションを第三者に賃貸している場合は、貸家やアパート同様に、自用マンションと比較して二割から三割が評価減となります。

マンションの資産価値を維持するのは、それなりの費用が発生します。管理費や修繕積立金、大規模修繕に備えた積立金等の費用が発生するほか、固定資産税等の税金の負担もあります。また、築年数がかなり経過したマンションでは、痛みの程度がかなり進行している物件もあり、賃貸するにしてもかなりのリノベーション(リノベーションには、管理組合の承認が必要)を行う必要があります。

立地がよく人気エリアの物件であれば、賃貸物件として収益が期待できますが、これは全てに当てはまることではありません。また、不動産は売却するにしても自分が思うほどの金額で売却されないこともよくあることです。

そこで、マンションの相続税に関しては、マンション資産や相続税に関する専門的な知識と経験を持った専門家と相談しながら、相続税対策を考えるべきです。

マンションは多くの住民が一つの土地と建物に住んでいるので、法律的にも複雑で細かな規定があります。このような問題は、国家資格者であるマンション管理士するのも1つの方法です。

小規模宅地等における特例

この特例は、被相続人が居住していた建物の敷地を配偶者や同居の親族が相続で取得した場合は、ある一定面性を限度として相続税評価額を80%減額する制度です。

この面積は、現在240㎡ですが、2015年1月1日から330㎡に拡大されます。

本制度にはさらに細かな適用要件がありますが、これらの要件をクリアした場合は、例えば、土地評価額が2億円であっても、相続税の申告では、80%控除した4000万円の金額で計算することができます。

また、この制度には、特定事業用宅地に関わる評価減制度や貸付用宅地等に関する評価減制度もあり、前者の場合は、限度面積は400㎡、減額割合80%、また後者では、限度面積200㎡、減額割合50%になっています。

尚、相続税の申告と納税は、相続や遺贈によって財産を取得した場合、被相続人が死亡した日(相続開始を知った日)の翌日から10か月以内に行う必要がありますが、相続財産が、基礎控除額以内であれば、相続税の申告は必要ありません。

ただ、小規模宅地等の特例制度の適用を受けた場合は、相続税の課税対象額に達しなくても申告する必要があるので注意して下さい。

相続税還付手続き

不動産の評価額は、評価した者によって大きく変わることがあります。土地等の不動産を相続し、既に相続税を支払っている場合でも、当時の土地の評価が過大に評価されていれば、相続税を払い過ぎている可能性もあります。

相続税は税務署が支払い額を調査して行うのではなく自己申告であるため、例え納税額が過大でも税務署は教えてくれません。

そこで、このような場合に備えて、国税通則により、納税者には、相続開始から5年10か月以内であれば、「更生の請求」が認められ、税金の還付が認められる場合があります。

不動産相続の際は、不動産に強い専門家に依頼

不動産の相続税を考える際には、通常の税務相談以外の知識や経験が必要です。個人事業者や企業経営者の方は、顧問税理士等の税務の専門家との付き合いがあるので、不動産の相続税についても安心だと考えていませんか。

しかし、税務処理と一口に行ってもその分野は非常に広いので、会社や事業の税務処理の専門家が、必ずしも不動産等の相続家とは言えない場合も多いのです。

不動産は一般的に非常に高額な財産であり、相続税もその分高くなる可能性を秘めています。不動産の相続税に関しては、不動産の評価をどのように評価するかがとても重要で、これにはかなりの経験が必要なので、不動産の相続税についてアドバイスを受ける専門家の選定は、他の相続と比べてより一層の検討が必要なのです。

不動産の相続

13.不動産の相続

 

不動産は、一般的に分割しにくく評価も難しいため、相続トラブルを起こしやすい財産だといわれています。不動産の価格には相続税評価額、不動産鑑定評価額や売却価格など様々で、評価がかなり違うこともあります。そのため価格の評価でもめごとが生じる場合もあります。

また、自宅などの不動産の場合、均等に分割することが出来ないので、「誰がその家に住むのか」といった問題もあります。不動産の他に預貯金が十分にあれば、ある程度預貯金でバランスをとりながら配分することが出来ますが、預貯金が必ずしも相当額あるとは限りません。また、不動産は売却しないと現金化出来ない資産であり、相続登記も必要なので、不動産の相続には、専門家の知識と経験を借りる必要があります。

 

不動産共有のリスク

 

相続には、法定相続人の相続分に従って被相続人に遺産が承継される基本原則がありますが、土地や建物のといった不動産もその持ち分に準じて受け継がれるので、各相続人間で不動産の共有状態が生じます。このような相続財産の共有状態には多くのリスクが隠されています。

例えば、共有者の1人が死亡して共有不動産がこの者の子へ承継されると、共有関係者が更に増加し、共有関係がますます複雑になります。

亡くなった共有者にたくさんの子があれば、その子が共有者になり、代々共有者の地位を承継して収集困難な状態になる危険性があります。現実問題として、当該相続財産である老朽化した建物を取り壊したり建て替えたり、リフォームして他人に賃貸したり、売却する時にも、供給者全員の承諾を得る必要があります。

亡くなった共有者の子が未成年者であった場合は、裁判所が選任する特別代理人をつける必要も生じます。

これらのリスクを回避するためには、相続や相続税に精通した専門家を交えた遺産分割協議を速やかに開催し、相続人全員の合意のもとで、不動産遺産の精算・分配を行い、不動産登記の変更手続きを行う必要が重要です。

 

不動産分割の3つの方法

 

不動産は現金等の相続財産と異なり、相続分に従って分割することが難しい財産です。そこで相続税法では、不動産分割について3つの主な方法を定めています。

①現物分割 例えば、不動産である土地の数え方は、1筆、2筆と数えますが、現物分割とは、不動産の現物を分割する方法で、1筆の土地を2つに「分筆」して分割する方法です。

この分割方法は、相続不動産である土地が更地の場合、比較的有効で、均一に分割しやすい方法です。

ただ、分筆した土地は面積が少なくなるので、一般的に、1筆として活用されたいた場合に比較して土地活用の効率が低下します。また、何らかの事由で将来この土地を売却する場合も、1筆であった時の土地の価格より、分筆された土地の価格を合算しても低くなることが考えられます。

②換価分割 この分割方法は、不動産を「売却」つまりお金に「換価」して、分割する方法です。

不動産市場で土地や建物といった不動産を売却して、各不動産共有者の相続分に従ってお金を分配します。ただ、不動産は市場価格が大きく変動することも考えられ、また建物は、自分が思うほど不動産市場における査定額は高くないのが一般的です。希望価格で相続不動産が売却できればよいのですが、はっきり言って希望通りの金額で売却することは難しい場合も多いのです。

また、相続税の申告・納付期限には、制限期間があるので、相続税の納付に焦って市場価格よりかなり安価な価格で売却し、後悔した経験を持つ方もいます。

相続不動産の換価分割は、不動産取引状況を考慮し、相続人間で十分話し合って、お互いに損のないよう、後悔が無いようになす必要があります。

③代償分割 相続人の一人が当該不動産全体を相続し、他の相続人に対して相続分である相続不動産の持分相当額の対価を金銭に代えて支払う方法(金銭で代わりに償う分割方法)です。
例えば、被相続人から相続により相続人の誰かが単独で相続することにして、他の相続人に対しては、その相続人の相続分の対価を金銭で単独で相続した相続人が支払う不動産分割方法です。

つまり、代償分割方法は、土地の代償として相続分を金銭で他の相続人に支払うので、代償分割する者の金銭的な負担はかかり重いものになります。

代償分割は、被相続人の相続不動産が、抵当権等の担保設定物件の場合もあるので、不動産登記情報や家屋番号等で不動産登記情報をよく確認し、専門家のアドバイスに耳を傾けながらその知恵を借りて進めることが重要です。

 

収益不動産の相続

 

近年、資産運用・投資の1つとしてマンション等の収益不動産を所有している方も増加してきました。また、本格的な不動産オーナーとして賃貸マンションや賃貸アパートのオーナーの方もいらっしゃいます。

このような収益不動産を相続すること言う事は、オーナー、すなわち、「大家さん」の法的地位を承継することでもあるので、家賃収入といった権利だけでなく、修繕義務や税負担等の義務も生じるので、十分これらの権利・義務を考慮の不動産の相続を行う必要があります。

相続した不動産が収益不動産不動産であっても、金融機関からの借り入れローンの残りがあれば当然ながらローンの返済義務もあります。

また、例えば、相続した収益不動産が賃貸マンションであり、その部屋が空室になるリスクもあります。

相続する不動産には、このようなリスクがあることも考慮しておく必要があります。

因みに、最高裁判例によれば、遺産分割協議で相続人の1人が収益不動産を単独相続することに決定しても、被相続人の死亡から遺産分割協議までの期間に生じた家賃収入は、全ての共同相続人の共有になり、法定相続分通りに分配されます。

 

不動産相続登記は必要

 

不動産の相続には、相続を原因とする相続登記手続きが必要です。登記手続きは、義務ではなく、登記を変更しなくても罰則等はありませんが、相続に関する問題を将来に残さないためには是非行って欲しい手続きと言えます。

尚、相続登記の主な形態は、遺言書による相続登記、遺産分割による相続登記、法定相続による相続登記の3つに分類されます。

 

不動産相続登記の流れ(遺産分割協議)

 

遺産相続手続きに欠くことのできない遺産分割協議は、相続人全員の参加のもとで、相続人のうち誰がどの相続不動産の所有権を獲得するのかを決定する話し合いです。

相続人全員の合意が必要なので、法定相続人等の漏れが無いように十分戸籍等を辿って誰が相続人であるか正確に確認する必要があります。

ただ、遺産分割協議は、相続人が一堂に会して協議することまでは求められていないので、手紙や委任状による代理人の参加、また、電話や電子メール等の意思確認で行うことも可能です。

相続人の中で中心者を決定し、その者が各相続人の意思を確認して回っても有効に成立します。こうして相続人全員の了解を受けた遺産分割協議書に相続人全員が署名し、実印を押印すれば遺産分割協議書は完成します。

ただ、遺産分割協議書は、遺言書と異なり、特別な要式性は求められていないのですが、「相続人全員で協議し合意した」との文言は必ず入れるようにしましょう。

また、不動産については、必ず、登記事項証明書に記載されている正確な情報(土地であれば、地番・地積、建物であれば、家屋番号等)を記入することが、その後の争いを避ける上でも有効です。

多くの労力を費やして遺産分割協議書を作成しても、不動産の特定が不明確で法務局が無効と判断すれば、相続不動産の名義書き換え登記が出来ない場合があるので、十分注意して下さい。

この点でも、相続に精通した専門家に依頼することは選択肢の1つとして検討の余地があります。

不動産相続手続きの流れ(相続登記に必要な書類の収集)

相続手続きに必要な書類の収集も、慣れていないとかなり面倒な作業です。

まず、①被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍とその方の住民票の除票を入手します。

これと並行して、②相続人全員の住民票と印鑑証明を入手します。

③不動産の全部事項証明書(従来の登記簿謄本)と固定資産税評価証明書を入手します。

これに、④相続人全員が合意した遺産分割協議書を揃えます。

尚、亡くなった方の戸籍謄本は、通常異なる市町村に散在しているので、戸籍化の相談コーナーで相談しながら着実に慌てることなく収集して下さい。

また、不動産の全部事項証明書は、全国の地方法務局(登記所)で収集可能です。

不動産相続手続きの流れ(相続登記申請書の作成)

相続不動産の登記申請書とは、法務局に対する不動産の名義変更申請書のことです。

この申請書は、自分で一から項目を立てて作成する書類なので、初めての方は苦心するかもしれませんが、法務局のホームページ等に、ひな型が掲載されているので、これに従って作成するとよいでしょう。ワードや一太郎、PDF等でファイル化されたひな型なので、これをダウンロードしてパソコンで必要事項を打ち込めば割と簡単に作成できます。法務省登記申請書の様式及びその説明

http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI79/minji79.html

不動産相続手続きの流れ(相続登記申請書と必要書類を法務局に提出)

相続登記申請書を作成し、相続登記に必要な書類がすべてそろえば、これを相続不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。

法務局の所在地は、インターネット検索ですぐに確認できます。

申請書と必要書類の提出から1週間ほどで新しい登記事項証明書(従来の権利証)が発行されます。

不動産の相続は信頼できる専門家に相談

被相続人の遺産に不動産がある場合は、その分割方法は様々で、しかも、その不動産が現在何に使用されているかや今後どのように使用するのかも、承継した相続人に考え方やライフスタイルによっても多種・多様な選択肢があります。

また、不動産の相続は、相続争いの原因となることも多く、相続財産に不動産がる方は、正確な土地建物の登記情報とその課税価格を把握し、遺言として残しておくことが重要です。

ただ、相続は一生の内で頻繁に経験することではなく、また不動産の相続の場合、登記や不動産価額の算出に細かな知識が必要なので、スムーズで満足いく相続手続きを行うには、相続や相続税に精通した専門家のアドバイスが非常に重要です。

 

土地の相続税

12.土地の相続税

 

相続税とは、亡くなった親族等の被相続人が残した遺産を相続人が承継した際や、遺贈によって財産を贈与された受遺者に課せられる税金(国税)です。

土地は、相続財産に対する割合が最も高い財産ですが、現金や預金等の財産と異なり、分割が難しい資産です。土地は1筆(ひつ)2筆と数え、土地を分割するには、「分筆の登記」が必要です。

また、土地の相続税課税評価価額を算出するには、その基礎なる土地の評価額を算定する必要があります。相続税の計算には、この評価基準の知識も必要です。

大切な遺産である土地を守るためにも、相続税に対する基礎的な知識は付けておく必要があります。

 

土地の価額は1物4価

 

現在の日本で相続対象となる財産の多くは、土地・建物等の不動産です。ただ、一般の方が知識や経験がないままこの土地価格を算出することは困難なことと言えます。

土地の価格と一口に言っても、その実態は、①「実勢価格」(実際の売買取引で成立する市場価格)、②「公示価格」(国土交通省が発表する毎年1月1日時点における全国各地点の標準値の土地価格。実勢価格を1とした場合の評価割合は90%)、③「路線価」(国税庁が発表する毎年1月1日時点における全国の土地価格で、相続税や贈与税の課税評価額の基準になる価格。実勢価格を1とした場合の評価割合は70%~80%)、④「固定資産税評価額」(市区町村が算定する3年毎の1月1日時点における不動産価額。固定資産税や不動産取得税の算定基準になる価格で、実勢価格を1とした場合の評価割合は、60%~70%)の4つがあります。

このうち、相続税や贈与税の計算には、原則として「路線価による評価額」を用い、路線価が付されていない地域では、「固定資産税評価額」に「倍率方式」と言う土地評価方法を加味して評価額を算出します。

 

相続によって取得した土地の評価価額は、国税庁の「財産評価基本通達」に従う

 

相続税や贈与税の計算には、原則として「路線価による評価額」を用い、路線価が振られていない地域では、「固定資産税評価額」に「倍率方式」と言う土地評価方法を加味して評価額を算出しますが、その実務的・具体的評価額は、国税庁の「財産評価基本通達」に従って評価します。

何故なら、相続税に関する土地評価方法に共通する原則や各種評価方法を具体的に明示し統一することで、相続税評価価額に対する公平を期するためです。

この趣旨を実現するため、通常の相場価格と評価額が異なる場合もあります。相場価格を基準に分割する遺産分割協議と異なる注意が必要です。

土地評価算出の基準となる「路線価」は国税庁のホームページからアクセス可能ですが、この情報を読み解くにはかなり専門的知識と経験も要するので、土地の相続税の申告の際には、相続や相続税に精通した(特に不動産関連に強い専門家)専門家に税務処理を依頼することが必要です。

 

路線価による土地価格評価

 

土地に関する相続税額は、路線価による評価方法を使用します。

路線価は、主に市街地的な形態を形成する地域で採用される土地評価で、毎年国税庁が作成する「路線価」図に基付き算定します。

路線価は、土地が面する道路に付された土地の1㎡あたりの価格(路線価)に当該土地の地積(土地面積)を乗じて算出します。

ただ、これは評価の基本であり、実際ではこの値を補正率で修正します。何故なら、土地は2つとして全く同一の形状のものはなく、例え全く同じ面積であっても、土地の奥行きや道路に面する間口、地形等の要素を加味して評価する必要があるからです。

当然ですが、隣接する土地で同じ面積でも、利用しにくい土地は評価額は下がります。

また都市計画法で定めた用途地域で、大きな評価額の差が生じることもあります。

一方、2つの道路に面する角地等は、土地の付加価値が高いとされ対愛評価に繋がるのが一般的です。国税庁路線図を参照したい方は、http://www.rosenka.nta.go.jp/

 

倍率方式による土地価額評価

 

土地の相続税価額評価の算定は、前述の路線価価格を基礎として算出することが基本ですが、この路線価が付されていない地域があります。都市郊外の地域で、「路線価」が定められていない地域です。

それらの地域の土地評価は、「固定資産税評価額」にその土地が属する地域の倍率を乗じて評価額を算出します。

「固定資産税評価額」は、毎年市町村役場から土地建物基本台帳の掲載情報に基づき各所有者に送付される「固定資産税の課税明細書」掲載されているので、この情報を元に相続税の算出を行います。評価倍率表も国税庁のホームページからアクセスできます。

http://www.rosenka.nta.go.jp/

 

農地の評価

 

田や畑のといった農地の評価単位は、一般の土地と異なり、1枚(耕作している1区画ごと)に評価します。

農地の評価は、①純農地、②中間農地、③市街地周辺農地、④市街地農地の4つの区分に従い、①,②の農地では、倍率方式により、③は、宅地比準方式または倍率方式で、市街地農地の評価額に80%を乗じて算出します。④は、その農地が宅地であるとした場合の価額から農地に転用するために必要な造成費と控除して評価します。

計算式は、(1㎡あたり当該農地が宅地である場合の価額-1㎡あたりの造成費)×面積です。

ただ、倍率方式で算出する地域もあるので注意が必要です。農地に関しては、農地法等の特殊な法律が絡むことがあるので、これらの法律に詳しい専門家のアドバイスを受けることが必要と言えます。

 

小規模宅地の評価減の特例

 

2015年1月1日から相続税の基礎控除額が4割カットになり、現行の基礎控除額の5000万円+1000万円×法定相続人の数が、3000万円+600万円×法定相続人の数に改正されるのに伴い、東京をはじめとする大都市近郊の住宅地を相続する場合は、住居用であっても相続税の課税対象者は大幅に増加することが試算されています。

そこで、小規模宅地の評価減の特例が大きな関心を集めています。

小規模宅地の評価減の特例は、相続や遺贈によって取得した財産で、被相続人と生計を一にするものが居住用や事業等に供されている宅地等を持つものが適用対象で、この宅地等の評価を通常の50%~80%が減額され、相続税の課税対象価額とする制度です。

この制度は、税制改革に伴って、居住用の土地面積が従来の240㎡から330㎡に拡大されます。

一般的な相続財産の内容は、土地等の居住用不動産が大きな割合を占めることから、相続人は、小規模宅地等の評価減の特例についての知識を備えることが重要です。

詳しくは、国税庁http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4124.htm

他人に貸している土地は評価が減少

 

他人に土地を貸している場合は、その土地を所有者が自由に使用できないので評価額が減少します。相続税の計算では、当該土地の本来の評価額から借地権の価格を控除して計算します。

具体的には、国税庁の路線図を見ると、各路線価の横に「B」や「C」といったアルファベットが付されており、このアルファベットが借地権割合を示しています。

例えば、「C」が付された土地なら借地権割合は60%なので、土地の評価額は、「路線価」×(100%-60%)の式で算出します。

路線価も国税庁のホームページから確認できます。

http://www.nta.go.jp/hp-tsukaikata/15.htm

また、貸家建付地としての評価減制度もあります。この制度は、相続する土地のうち、賃貸として利用している部分については、「貸家建付地」として2割程度の評価減を受けるものです。

更に、家屋の賃貸部分の評価額は、居住用家屋の評価額と比較して、3割程度減額されることも押さえておく必要があります。

 

相続税改正に備え、相続税対策は不可欠

 

国税庁が発表しているデータ(相続財産の金額の構成比の推移)では、課税対象になった財産のうち、土地が最も多く5割ほどに達しています。また、相続税の基礎控除額40%カット制度が施行されれば、これまで相続税の課税対象とされていなかった相続にもその範囲を広げることに繋がり、土地の相続財産に対する割合が更に増加することが考えられます。

特に大都市近郊の住宅地等を相続される方は、今の内から相続について十分知識を得て、対策を考えておくべきです。

土地の相続は、煩雑な手続きを伴うので、生前から相続対策、節税対策を十分対処しておくことが重要です。

 

 

土地の相続

11.土地の相続

 

日本における相続財産の多くは、土地や建物等の不動産ですが、このうち土地等の相続は、登記手続きや相続税の問題、更に、相続税の節税対策にも関連する借地や貸地の処理問題も有するので、この対処に悩む相続人の方が大変多く存在します。

また、農地を相続した方は、農業の継続や農地法の問題もあります。

土地の相続の場合、これらの諸問題を速やかに解決し、相続人に有利な相続を行うには、知識と経験を持つ専門家のアドバイスを受けることが必要です。

ただ、相続人が専門家の有効なアドバイスを受け、相続時のトラブルを避けるためには、相続人自身も土地の相続について基礎的な知識と理解を取得して、計画的な相続対策を行う事が必要です。

そこで、このページでは、土地の相続についての基本事項をいくつか挙げて説明したいと思います。

 

相続した土地を残すか、売却するか

 

2015年から相続税の基礎控除額が全体で40%も減額されるので、土地の相続に生じる相続税の負担者が大幅に増加すると言われています。

相続は、1回に全額を納付することが原則なので、相続税の問題だけに限れば、高く売れる土地を売却することが最もよい方法かもしれません。ただ、その土地を代々残しておきたいと考えるなら、納税計画を含めた、様々な方法を考える必要があります。

例えば、相続した土地が複数存在する場合は、残す土地と売却してもよい土地を比較検討する必要があります。バブル景気崩壊後、当時のような土地神話は影を潜めたとも言えますが、大都市周辺の利便性の高い土地は、最近かなり土地価格が上昇しています。

そこで、土地を複数個所相続した場合は、都心部のから遠い土地を売却するのが得策かもしれません。

 

立地の良い土地は、不動産投資対象か

 

土地の相続は、現金預金等の相続財産と比較して、分割しにくい資産です。分割するには、「分筆の登記」が必要で、分筆すれば価値が減少することも多く、更に、土地は固定資産なので、流動資産と比べ現金化に時間がかかる資産とも言えます。

土地は、固定資産税や都市計画税の課税対象になるので、収益性を有しない土地を先祖から承継する資産であることだけで所有することは、税制面から言えば非常にコストパフォーマンスが悪いと言えます。

ただ、都心部の土地は、上手く活用できれば、収益が期待できることも多く、地方の収益性の低い土地等を売却して、都心部の土地や建物に投資する資産運用も検討してみてもよいでしょう。

この検討の際には、業者の提供する名目の投資利回りを鵜呑みにせず、必ず、反対意見や実質利回りの検討を行い、現実的な運用計画を立てることが肝要です。

 

居住用財産の特例や事業用財産の特例をうまく活用する

 

土地は、高額の相続財産で相続税が高く、また、相続人の生活の基盤を形成する財産である場合もあるので、政府は、相続で取得した特定の不動産売却について税額の軽減措置や新規に償却資産を購入した場合の特例措置を講じています。これらの特例措置適用には、一定の要件が必要ですが、土地等の不動産を売却した場合に生じる譲渡税を繰り延べできる点が大きなメリットになります。

相続税増税に伴って、一般の生活者が土地等の相続で過度な負担を被ることのないように、政府なりに対策を講じているので、国税庁のホームページ等で有利な情報を取得することも重要です。

土地の相続に関して、専門家に相談する際は、このような情報を入手してから相談すると、話がかみ合い実効性のある相談をすることができます。

 

相続した土地に権利をつけて課税評価額削減

 

土地の評価は、自用地の評価から当該土地に設定されている権利を斟酌して行います。

相続の相続で、相続税の節税対策を考えるには、以下の方法採るか否かに関わらず、是非理解しておきたい知識です。

①貸宅地  借地権が設定されている土地で、評価額の算出式は、

自用地評価額×(1-借地権割合)。

②借地権  建物所有を目的として土地を賃借する権利で、評価額の算出式は、

自用地評価額×借地権割合。

③貸家建付地  貸家の敷地として利用されている土地で、評価額の算出式は、

自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

例えば、賃貸アパートの敷地評価では、地積:300㎡、路線価:40万円、借地権割合:60%、借家権割合:30%、賃貸割合:100%であれば、

自用地評価額=300㎡×40万円=1億2000万円

貸家建付地=1億2000万円×(1-0.6×0.3×100%)=9840万円

尚、賃貸割合とは、課税時期に現実に貸し付けられている部分の割合ですが、一時的に空室であっても、賃貸されているものとして計算します。

④定期借地権が設定されている土地の評価額は、原則として、

「自用地-定期借地権の価額」の式で算出します。ただ、定期借地権の残存期間が15年を超える場合は、80%、その他は、残存期間に応じて、85%、90%、95%の割合が設定されています。

 

土地の相続手続きの概要

 

土地の相続には、相続を原因とする登記手続きが付きものです。土地名義の変更登記は

義務ではありません。しかし、将来に禍根を残さないよう迅速に登記変更すべきです。

ここでは、その手順の概略を説明します。

①遺言書の確認  被相続人の遺言書が自筆証書遺言であれば、家庭裁判所で「検認」の手続きを行う必要があります。勝手に開封すると科料が課せられます。

②相続する土地の調査  相続財産である土地の現地調査。

③相続人の確定  誰が相続権を持つのかを確定します。

④遺産分割協議と遺産分割協議書の作成  相続人全員の参加で行う遺産分割協議の場(持ち回り会議でも可)で、相続分や相続財産の具体的な物の相続を書面化します。

⑤相続する土地の課税評価額の申告・納税 相続した土地の所在地を管轄する税務署に税務申告と納税を被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内に行います。

 

相続した土地の分割

 

土地は「1筆」「2筆」と数え、土地を分割する場合は、「分筆」の登記を行います。

また、土地の相続では、相続人の1人が当該土地の全てを承継する代わりに、他の相続人に金銭を支払う「代償分割」、土地を売却して現金化し、各相続人の相続分に応じて分配する「換価分割」があります。

「分筆」で分割すれば、土地を引き続き相続人が所有可能ですが、土地を分割することで、思っても見なかったほど、土地評価額が下がることがあります。また、「分筆」は、正確な測量も必要になります。

「代償分割」は、土地を分割も手放すこともなく、相続人間に相続財産が、金銭で公平に換価されますが、土地を承継する相続人は大きな金銭的負担が生じます。

尚、土地の相続は、以上のような手続きを行わず分割しないと、各相続人が土地を相続分の割合で「共有」することになります。

ただ、共有状態にあれば、担保設定や売却する場合にも、共有者の合意が必要で、様々な争いの原因になることが多いので、共有状態は出来る限り避けるべきです。

 

農地の相続

遺言書がなく、相続法の通りの規定によって農地を相続する場合は、農業を承継しようとする相続人に不利な結果をもたらす場合が生じます。

例えば、被相続人に2人の息子がいるとして、長男は被相続人の仕事を手伝い、農業を継ぐ覚悟を決めていますが、次男は、農業を継ぐ意思はなく、サラリーマンをやっている場合では、相続法の規定では、長男・次男の相続分は均等なので、農業を承継しようとする長男の相続地が半分になってしまいます。

そこで、国は、このような事態を回避し、農業という国民の食糧供給を支える重要な産業を守るために、「農地法」と言う法律を制定し、農業従事者(耕作する者)が農地の所有権を取得することを大原則にしています。相続分は法定相続分に従いますが、農業経営を行っていない者が農地を売却するには、知事の許可が必要で、その他、農地の転用・売却・権利移転等には、農業委員会の許可が必要です。

 

農地の相続には、公正証書遺言の作成を

 

農地は、法定相続分に従って分割されると非常に生産性の低い土地になる懸念があります。農業を営む被相続人は、通常、遺産である農業用地を1人の承継人に全て相続させたいと考えます。

そこで、この被相続人の意思を明確に残すためには、「公正証書遺言」を作成すべきです。公正証書遺言なら確定判決土同様の効力を持ち、遺言の不備についても、公証人はこの分野の専門家中の専門家なので、心配することがありません。

ただ、公正証書遺言で、長男に全ての農地を相続させると記しても、次男には、「遺留分」があります。例えば、相続人が兄弟2人なら4分の1は、公正証書遺言によっても侵害できません。

そこで、被相続人が存命の間に、農業の承継者を決定し、農地の相続に対する代償等を決定して、次男に遺留分の放棄をさせておくことができます。

ただ、初めから相続人でなかったことになる「相続放棄」は、被相続人が生きている間は、約束させたり、宣言させたりしても無効なので、注意して下さい。

相続相談

10.相続相談

 

相続問題が生じた場合、私たち一般人は、相続や相続税に関する知識や経験が乏しいため、相続問題に詳しい専門家に相続相談を依頼することを考えるのではないでしょうか。

この時、弁護士や司法書士、行政書士、税理士等の専門家が思い浮かびますが、これらの専門家ならだれでも満足する回答が得たれるとは限りません、

各専門家はその士業ならではの専門分野があり、例えば法律の専門家でも、相続に詳しい者とそうでもない専門家がいます。

相続相談を行うには、これら士業特性と各士業の方の業務内容を十分に検討する必要があります。

そこで、このページでは、専門家に対する相続相談を行う上での基礎的な検討材料を提供したいと思います。

 

弁護士と相続相談

 

弁護士は、法律問題のスペシャリストであり、様々な争いごとや複雑な法律問題の相談にも対処することができます。

ただ、弁護士と一口に言っても、その専門分野大きく異なることがあるので、弁護士に相続相談を依頼する場合は、出来る限り相続について多くの経験を持った方を選ぶべきです。知人からの紹介等により、相続問題について確かな腕を持ち、人柄等にも信頼できる弁護士を選定すべきです。

また、相続相談は、相続人の正直な気持ちを伝える必要があるので、弁護士と依頼人の信頼関係が重要になります。依頼者は、弁護士の判断に基準となる書類や証拠をすべて提示し、素人判断を下すことなく全ての疑問をぶつけることが重要です。

面識のない弁護士の事務所へ飛び込んで、相続相談を行う依頼人の方もいますが、紹介者のない相続相談の依頼に難色を示す弁護士もいます。

何故なら、弁護士も人間であり、依頼者の素性や人柄が分からないと、思わぬ難題に引き込まれるリスクを考えてしまうからです。

 

相続相談を弁護士に依頼するメリット

 

相続は時に、非常のこじれる場合があり、他の相続人が弁護士をつけることがあります。法的な問題は、例え本やインターネットでにわか勉強しても、弁護士のような法律の専門家に素人は勝てません。このような場合は、相続問題の解決に十分な手腕を持つ弁護士に相続相談を持ちかけるべきです。

また、遺産分割で生じた疑問や遺言の内容、また、遺産分割協議の合意が得られそうにない時も弁護士に相談するとようでしょう。

相続や遺産分割に豊富な経験と知識を有する弁護士は、様々な法令の他、裁判所の裁判例も知識にも精通しているので、冷静で客観的に相続問題を満足いく形で解決してくれます。

更に、他の相続人が被相続人の遺産を抱え込み、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合も、弁護士に相談すべきです。

被相続人の遺産形成のために尽力し、当該遺産に対して「寄与分」が認められるにもかかわらず、他の相続人が法定相続分のみしか認めようとしない場合は、弁護士に相続相談を依頼し、正当な財産寄与分を獲得すべきです。

この他、弁護士は、他の法律関連の国家資格者の中で最も法律問題に詳しく、その権限も他に比べオールマイティとも言える存在です。訴訟代理権も有しているので、信頼のおける弁護士に対する相続相談は最も効果的であると言えます。

訴訟を見据えた相続問題の解決は、あまりお薦めはできませんが、他の相続人に対して戦略的な圧力をかけ、話し合いに応じない他の相続人を協議の場につかせる間接的な効果があります。

 

弁護士への相続相談で気になること

 

通常、弁護士へ様々な問題の解決を依頼した場合、他の士業でも有効なアドバイスが出来る事柄についてであっても、その相談料や問題解決への依頼費用が高いとされています。

ただ、確かに現在でも費用は他の士業に比較して高額とも言えますが、相談費用や依頼費用は、各弁護士事務所によって大きく異なります。

また、初回の相続相談については、1時間程度なら無料としたり、実際に相続問題の解決へ向けた実務作業を始める際に生じる「着手金」も、最近ではかなり低く抑える弁護士事務所もあるので、ネット検索や評判、相続問題について弁護士を活用した方の紹介等から、自分に最も適応する信頼感の有る弁護士に相続問題を相談する必要があります。

 

司法書士への相続相談

 

司法書士は、現在、債務問題の過払い金返済等の業務の宣伝活動が目立っていますが、本来の業務は、不動産登記や会社登記の専門家です。

この点では、司法書士の排他的専門分野も法律上規定され、不動産の相続問題に欠かせない登記に関する十分な経験と知識を持つ司法書士が多く存在します。

相続によって、不動産の所有権を取得する際には、当該不動産の名義変更等の法務局における煩雑な手続きを行う必要(義務でなく、登記変更手続きを行わなくても罰職等はありませんが、相続による登記変更をしていないと将来に不測の事態を引き起こす危険が高まります。)がありますが、これに迅速に対応してくれるのが司法書士です。

また、従来、裁判所への訴訟代理人は、弁護士の専権事項でしたが、法律の改正で、訴訟額の低い簡易裁判所への訴訟に対しては、司法書士会連合会の研修を終えて認定を受けた「認定司法書士」も訴訟代理行為ができるようになっています。

更に、司法書士は、裁判所へ提出する各種書類の作成業務や遺産分割協議が不調に終わり、裁判所へ調停を申請する場合においても、知識と経験を豊富に有する者も多いので、

まず、司法書士に相続相談を持ちかけてみるのもお薦めです。

 

どのような場合に司法書士に相続相談すべきか

 

先述のように、司法書士は土地・建物等の不動産登記の専門家なので、相続を原因とする不動産登記変更の際には、司法書士に相談して下さい。

また、相続問題の解決や遺産分割協議が有効になるには、全ての相続人の合意が必要なので、相続人の確認作業を欠くことは出来きません。この相続人の確定業務を相談する場合にも司法書士を活用して下さい。

更に、弁護士業務とも共通しますが、相続財産の中にマイナスの遺産があり、積極財産の範囲内で遺産相続を行う「限定承認」を考えている方も、相談に乗って貰う事ができます。「限定承認」は、1人で申請することが出来ず、相続人全員で行う必要があるので、各相続人に現状を把握させ、納得してもらうには、それ相応の経験と確固たる知識が必要です。

 

司法書士と相続相談するメリット・デメリット

 

先述のように司法書士は、登記実務の専門家なので、煩雑な登記変更実務を正確かつスピーディーに行って貰えます。相続相談だけなら、初めの1回に限り相談料無料としている司法書士事務所が殆どです。

一般的に、弁護士に比べ、書類の作成料金や遺産分割協議が不調に終わった場合に行う裁判所への調停申請書作成料も安いとされています。

ただ、簡易裁判所の範囲を超えた高額の訴訟に発展した場合は、弁護士と異なり訴訟代理権を有しないので、最終的には弁護士に依頼し直さなければならない場合も生じます。

 

行政書士への相続相談

 

行政書士も、相続相談の看板を掲げる事務所が近年増加してきました。行政書士のキャッチフレーズは、「町の法律家」であり、様々な法律問題解決のための問題整理を行うには適した存在です。

行政書士は、本来、役所に提出する様々な申請書等の制作代行を行う事が主な業務です。そこで、相続相談を行政書士に依頼する場合は、特に相続について複雑でこじれた争いはないが、法律の規定に準拠して、書類を作成したり、一連の相続手続きに対処したい時であると言えます。

相続税の基本的な計算等も行えますが、相続税の具体的な計算や申告は税理士の専権事項なので、税務については一般論としての説明として聞いてください。行政書士もその点については理解しています。

 

具体的な行政書士との相続相談とは

 

行政書士も、法律の専門家に属する士業なので、相続問題の解決を扱う行政書士も、相続について様々な経験と法律上の知識を有しているものが多数存在します。

そこで、公平な遺産分割についてのアドバイスや法定相続人の相続分の確認、遺産分割書の作成も行政書士が得意とする文書の作成です。

また、遺産相続では、相続人を確定する必要があるので、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本等を収集しますが、行政書士で相続を扱う者は、この分野で大きな実務力があります。何故なら、現在他人の住民票や戸籍を入手することは、プライバシー問題から大きく規制されていますが、行政書士には職務上この権限が与えられているからです。(各都道府県の行政書士会管理のもと専用の請求書類あり)。

 

相続相談を行政書士に依頼するメリット・デメリット

 

行政書士は、通常、他の士業に比べ報酬額が低く抑えられています。

また、敷居が低くいつでもフランクに対応してくれる利点もあります。

デメリットは、相談者が訴訟を行う際の訴訟代理人になれないことです。相談者の代理人として、他の相続人と遺産分割交渉等もできないことです。

 

税理士への相続相談

 

相続問題で気になることの1つに、相続税の問題があります。税理士は税務の専門家なので、相続税についても節税や贈与等に関して有効なアドバイスを貰えるでしょう。

相続財産の課税価額の評価を行い、相続人に適した相続財産の処理方法のアドバイスも期待できます。また、相続前の節税対策として、贈与税の知識も相続相談で十分理解することが可能です。

 

税理士に相続相談するメリット・デメリット

相続問題に詳しい税理士は、相続税の節税問題に詳しい税理士とも言えます。節税可能な遺産分配の方法から、遺産が不動産であれば、その課税評価を減少させる法的知識も有しています。

また、相続税の具体的な相談から納税申告書の作成まで、相続で一番頭の痛い相続税問題を最初から最後まで完了して貰えます。

ただ、税理士と言っても、相続に精通した腕のよい税理士ばかりではありません。商店の青色申告が専門の税理士もいれば、会社の税務が専門の税理士もいます。

これはどの士業に相続相談を依頼する時も重要なことですが、その税理士の専門やこれまでの経験が具体的に何であるかを調査する必要があることを示しています。

 

 

 

相続財産分与と寄与分

7.相続財産分与と寄与分

 

相続財産分与の問題では、相続人不存在の際に生じる特別縁故者の財産分与と離婚した配偶者が被相続人の相続人に対して行う、相続財産の分与請求がよく取り上げられます。

被相続人が遺言も残さず、法定相続人も存在することなく死亡する場合も考えられるので、この問題は、少子化や独身者が増加する現代においては考えておくべき問題です。

また、相続財産の分与では、被相続人の財産形成や被相続人の生活に深く寄与した者の寄与分についての理解も相続を円滑に進めるためには重要な知識です。

 

特別縁故者への相続財産分与制度とは

 

相続人の不存在が確定した場合は、特別縁故者への相続財産分与が生じます。この制度の趣旨は、遺言の不備を補い、被相続人の最終的意思表示の実現を図ることです。

家庭裁判所が法的要件に照らし相当と認める場合は、①被相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めたと認められる者、③その他被相続人と特別の縁故があったとする者からの請求で、被相続人の残存する相続財産の一部またはその全部が、特別縁故者に分与されます。

特別縁故者に該当するものは、上記の3つの要件を満たすものが原則として挙げられますが、裁判所の裁判例では、これらの要件を例示規定と解釈し、被相続人の最終的な意思を尊重したうえで、被相続人が享受した精神的・物理的恩恵や死後における供養の程度等の総合的な諸条件や情況を斟酌して、特別縁故者への相続財産分与やの拒否またはその程度を決定すべきとしています。

 

特別縁故者への相続財産の分与には、相当性が必要

 

相続財産の特別縁故者への分与が容認されるには、「分与することが相当である」と家庭裁判所が認めることが必要です。

相当性に関する裁判例の判断基準では、①被相続人と特別縁故者の縁故関係の度合い、②特別縁故者の年齢や職業、③相続財産の種類や数、財産の所在や状況等の一切の諸般の事情を考慮の上、相続財産の分与すべき種類や数額を決定すべきとしています。

 

特別縁故者の財産分与手続き申立て

 

特別縁故者が相続財産の分与を請求するには、相続財産管理人を選任することが必要で、この依頼を弁護士に依頼した場合は、弁護士が特別縁故者の代理人として選任手続きを行います。

申立ては、相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して行います。提出書類は、特別縁故者であることを具体的に示した申立書と戸籍謄本、また、特別縁故関係を証明できる資料等です。弁護士に依頼した場合は、これらの書類作成業務も弁護士が行います。

尚、判例によると、特別縁故者が申立てを行わず死亡した場合は、特別縁故者の法的地位は、その相続人に承継されず、特別縁故者の相続人は、財産分与の請求を行う事が出来ないとされています。

また、財産分与の申立ては、特別縁故者に限られ、第3者への相続財産の分与申し立てはできません。

 

特別縁故者に該当するか否かの審理・審判

 

家庭裁判所は、提出された特別縁故者申立て書類やその他の資料の他、家裁の調査官の調査により、相続財産の財産分与に相当性があるか否かを確認します。この際、財産管理人の意見を聞き、関係各方面に事情を聴取します。

特別縁故者への事情聴取も行いますが、弁護士に依頼した場合は、弁護士が特別縁故者の代理人として、家裁の事実照会等の対応にあたります。

家裁は、以上のような審理手続きを行った上で、相続財産の特別縁故者への分与が相当であると認める時は容認の判断を示し、相当性が認められない時は、却下の審判を下します。

 

相続財産の分与により取得した資産の取得費について

 

相続財産の分与で不動産を取得した特別縁故者が、当該不動産を譲渡した場合の不動産の取得時と取得費について問題となることがあります。

特別縁故者は、被相続人から遺贈によって当該不動産を取得した者としてよいのでしょうか。

これについて国税庁は、相続財産の分与として取得した財産を遺贈によって取得した者とみなす規定が所得法上存在しないので、遺贈にとって取得したとみなすことが出来ず、相続財産の分与として取得した財産は、分与を受けた時にその当時の価格で取得したことになるとしています。

 

財産分与義務は相続で承継されるか

 

例えば、甲と乙は夫婦であったが離婚し、その後甲が死亡しました。しかし、離婚に際して乙は、財産分与請求権があったにもかかわらず、これを行使していませんでした。この場合乙は、甲の相続財産への分与請求は出来るかといった問題が考えられます。

この問題に関しては、乙に対して無条件に相続財産の分与が認められると言う意見と財産分与のためには、請求や審判、協議が行われる必要があるとの意見が対立しています。

ただ、離婚の際には、一般的に財産分与が認められるので、被相続人の権利・義務の全てを原則として承継する相続人が、この財産分与義務を承継し、乙は、甲の相続人に対して相続財産の分与を請求出来ると考えられます。

また、離婚した配偶者は相続権は有しないものの、この相続財産分与請求権は、法律婚に限らず、事実婚等にも妥当すると言われています。

 

配偶者が相続・贈与を受けた財産は、財産分与の対象になるか

 

これは、相続財産の分与とは多少異なる問題ですが、よく質問されるのが、配偶者が相続や贈与で取得した財産の分与を請求することが出来るか否かと言う問題です。

財産分与とは、婚姻中に夫婦で形成した共同財産を清算して公平に分配することを言いますが、配偶者の一方が相続や贈与で取得した財産は、夫婦で形成した共同財産とは言い難く、配偶者が相続・贈与で取得した財産は、財産分与の対象にはなりません。

 

寄与分とは

 

寄与分とは、被相続人が残した財産形成・維持に大きな貢献が認められる寄与者にその功績を認め、相続財産を公平に分配するものです。

例えば、2人の息子がいる農業等の事業を営む被相続人が死亡し相続が発生した場合で、1人は被相続人の事業を手伝っていたが、もう1人は、会社勤めで全く被相続人の事業には関係していなかった場合、このような状況で法定相続分通りに相続分を配分したのでは、不公平な相続になってしまいます。

そこで、共同相続人の中に「寄与者」がいる場合は、現実の相続財産から寄与分に相当する額を控除したうえで相続分を計算して各自の相続分を算出し、寄与者にはこれに寄与分を加えて相続する制度を民法上規定しています。

 

寄与者とは

 

寄与者とは、民法の規定(第904条の2)にあるように、①被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、②被相続人の療養看護その他の方法により相続人の財産の維持または増加に特別の寄与が認められる共同相続人です。

ここで注意すべきは、寄与者と認められるものは、相続人に限られることです。たとえ上記の要件を充たしていても、相続人でない者は寄与者に該当し無いことです。

また、被相続人の息子の配偶者が被相続人の療養看護に尽くしても、これは義理の父への当たり前の義務と解される範囲内では、寄与者には該当しないとされています。

そこで、被相続人が息子の嫁に財産を多く残したいと思うなら、遺言書を残すことが必要です。遺言による遺贈は、寄与分に優先して適用すると解釈されているので、十分に遺言の効力を活かしてください。

 

寄与分の決定と寄与分の計算

 

寄与分は、共同相続人間で行う協議で決定します。協議が整わない場合は、寄与者は、家庭裁判所に請求して、寄与分を決定した貰う事になります(家庭裁判所の調停、審判)。

寄与分の具体的計算式は、(相続開始時における財産の価額-寄与分)×相続分+寄与分の価額です。尚、カッコ内で算出した額を「みなし相続財産」と言います。

例えば、商店事業者であった甲が死亡し、遺産が5000万円であり、甲には、相続人として配偶者乙と子である丙・丁の3人がいた場合で、丁が寄与者であり、寄与分が1000万円と認められれば、乙の相続額は、(5000万円-1000万円)×2分の1=2000万円、丙の相続額は、(5000万円-1000万円)×2分の1×2分の1=1000万円、丁の相続額は、(5000万-1000万円)×2分の1×2分の1+1000万円=2000万円になります。

相続登記

6.相続登記

 

相続登記は、民法の理解や知識はもちろん、不動産登記法や各種通達が絡む非常に面倒で複雑な手続きが必要となることがあります。

また、相続登記は、登録免許税等の費用がかかるので、被相続人が亡くなってもそのままにしておくことが多く見受けられました。

ただ、相続登記手続きは義務ではないのですが、相続からの時間が経過すればするほど難しい手続きとなり、いわゆる「争続」の原因となるリスクが高まります。

そこで、相続登記は、相続登記や相続実務に精通した「腕の有る」専門家に速やかに依頼して、相続登記に関する将来の禍根を除去すべきです。

 

相続登記とは

 

被相続人が亡くなり相続が開始すると、被相続人が生前有していた権利・義務等の法的地位、また、その財産(土地や建物等の不動産や株式、国債等の有価証券、骨董品、美術品などの価値ある財産)が相続人に承継されますが、この内、土地建物等の不動産の被相続人から相続人への名義変更を相続登記と言います。

 

不動産登記制度とは

 

土地や建物と言った不動産を売却するには、当該土地建物が売主の所有物であることを証明する必要があります。不動産以外の所有物は、その物を占有していることで所有者と推定されますが、不動産はその土地を占有し、土地上に居住していてもその人が不動産の所有者とは限らないので、取引の安全を図るため民法177条で登記制度を定めています。

土地や建物を遺産分割協議や遺言によってある相続人が相続したと言っても、相続により当該相続人が真の所有者であることを公に証明するには、相続を原因とする所有権移転登記を行い、当該不動産の移転登記を行う事が取引の安全上必要です。

例えば、土地の所有者「甲」が「乙」、「丙」2人に2重に当該土地を売却した場合、最初に土地を購入した「乙」より、後から土地を購入した「丙」が先に登記を備えた場合は、「丙」が当該土地の所有権を主張できます(対抗要件を備えます)。

法務局(登記所)に対して不動産登記を申請すれば、全部事項証明を発行してもらえます。(以前はこれを登記簿謄本「権利書」と呼んでいましたが、登記のオンライン化に伴い登記は電子情報化しています。)

民法は不動産に関して登記制度を定めていますが、不動産登記は義務ではなく、自己責任に委ねられていて、相続に関する登記変更を行わなくても罰則もありません。

ただ、相続登記をしないで放置すると思わぬ落とし穴に陥ることもあります。

 

相続登記はなぜ必要か

 

不動産の相続が発生しても、相続人の調査を怠ったり、遺産分割協議が不調に終わる、また、単に相続手続きの怠慢から、相続登記の名義変更手続きを放置している場合があります。

不動産登記変更が義務化せれておらず、名義変更登記には「登録免許税」と言う税金がかかるので、そのまま放置している場合が見受けられます。

ただ、名義変更を怠っていると、大きなデメリットを被ることがあります。

まず、相続不動産は登記上、所有者が亡くなった被相続人になっているで、当該不動産を相続した相続人は、所有者として不動産を売却できません。

また、当該不動産に抵当権等の担保設定をすることもできません。

相続人の中に不逞の輩が存在した場合は、不動産を自己の所有物と偽って、第3者に売却するおそれも生じます。このような事件は、これまで頻繁と言えるほど起こっています。

また、不動産登記変更を怠っていると、その期間が長くなればなるほど名義変更は複雑で面倒になります。

例えば、相続開始時は、配偶者と子2人だけが相続人であった場合でも、その子の1人が万一死亡すれば、死亡した相続人の子に相続権が移転します。相続登記を怠っていると、法定相続分を取得した相続人が相続分を他者贈与等を行えば、所有権の所在が複雑になり、これら権利者全ての合意が得られなければ不動産の所有権の名義変更登記が出来なくなります。

また、遺産分割協議の際には、相続人の円満な合意が得られていても、そのまま相続を原因とする所有権移転登記を行っていないままにしておくと、ある相続人が、何らかの理由から遺産分割協議に対して不満を抱き、これを撤回する意思表示をなした場合、当該相続不動産を自由に売却することが不可能になる場合が生じます。

このように、不動産の名義変更登記は義務ではありませんが、特に、相続により不動産を取得した場合は、相続登記手続きを速やかに行う事が、様々なトラブルを回避するために非常に重要です。

この相続登記手続きは、自分でも可能ですが、登記には様々な添付書類や相続法や不動産登記法等の専門知識が必要なので、相続問題に詳しい司法書士等の専門家に相続登記を依頼した方が合理的と言えます。
相続登記は単独申請可能

 

以前、相続登記をなすには、当事者出頭主義と言って登記義務者(登記により権利を失う者)と登記権利者またはその代理人(司法書士)が出頭することを原則としていましたが(共同申請の原則)、不動産登記法の登記手続きオンライン化に伴い、書面申請や郵送による登記が可能になりました。

ただ共同申請の原則は、相続登記については、相続人単独申請が認められていたのでこの点での変更はありませんが、遺言による贈与(遺贈)の登記移転に関しては、共同登記申請の原則が妥当しますので注意して下さい。

 

相続登記は3種類に分類される

 

相続の際に生じる登記には、3つの種類があります。

①民法に定められた法定相続分通りの相続登記

②遺産分割協議で合意された相続分の登記

③遺言書に記述され相続登記と遺贈分の登記

法定相続分通りの登記では、遺産分割前の相続登記なので、各相続人は被相続人の不動産等の遺産を相続分に従って共同相続している状態です。原則として共有する不動産の相続登記は各共同相続人の全員のものなので、共同登記申請が必要と思われますが、この点、不動産登記法では、例外的に、相続登記に関して、共同相続人の1人が共同相続人全員のために登記申請することを認めています。

ただ、共同相続人の一人だけの登記は認められず、遺産分割協議が合意に達し、各相続人の持分が決定した際には、持分の移転登記を行う必要があります。

尚、登記実務上は、共同相続登記を行った後に再度持ち分登記を行う事は、登録免許税が2重に課せられ、また、登記手続きも面倒になるので、共同相続登記を割愛して、遺産分割協議後の決定した相続人の持ち分を直接被相続人から取得したとする相続登記がなされています。

ただ、遺産分割協議がまとまらない場合は、共同相続登記をまず行います。

 

遺産分割協議と相続登記

 

遺産分割協議を行い、相続財産である不動産が相続人1人の単独所有となる場合もあれば、相続人の何人かの共有とする場合もあります。

まず、遺産分割協議後の登記を行う時点で、「共同相続の登記」がすでに行われている場合は、遺産分割による「持ち分移転登記」を申請する必要があります。

一方、「共同相続の登記」がなされていない場合は、相続を原因とする「所有権移転登記」の申請をします。この登記申請は、共同申請の原則の例外として、1人の相続人が相続人全員のために登記することが認められています。

 

遺言書と相続登記

 

被相続人の遺言が存在すれば、被相続人の最終的な意思である遺言の内容に従って相続登記を行います。また、当該遺言に「遺贈」があれば、遺贈を原因とする所有権移転登記を行います。

遺言の主な形式には、被相続人が遺言書の全部を自筆で記述する「自筆証書遺言」と公証人に遺言者が遺言内容を読み聞かせ、その内容を記し、これを公証人が公証して公正証書化する「公正証書遺言」があります。

「自筆証書遺言」の場合は、相続人が遺言書の封緘を解くことは許されず、家庭裁判所に持って行き、立会人のもとで封緘を解き、「検認の手続き」を受ける必要があります。

公正証書は、確定判決と同様の効力があるので、この検認手続は必要ありません。

尚、遺言の記述は、○○(面積や地番で特定する)土地をAに「相続させる」としてください。「Aにやる」とか「Aに遺贈する」と記述したのでは、登記権利者である「受遺者」と登記義務者である相続人または被相続人等から指定を受けた遺言執行者といった「登記義務者」が、相続登記を共同でなす必要があり、また、遺言執行者の指定が無い場合は、相続人全員の共同登記申請が必要なので、大変手間と時間がかかる場合もあるので注意して下さい。

 

相続登記に必要な書類とは

 

相続登記に必要となる書類は、登記申請書、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本、被相続人の住民票の除票(本籍地が死亡した際の住所と異なる場合は、戸籍の付票も必要)、不動産を相続する者(登記権利者)の住民票、相続人が代理人の申請手続きを依頼する場合は、相続人の委任状、更に、形式は問いませんが、相続関係説明図の各書類が必要です。

また、相続登記には、遺言書がある場合は、遺言書、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の印鑑証明、遺産放棄した者がある時は、相続放棄申述受理書、更に、家庭裁判所の力を借りて遺産分割した場合は、家裁の調停、審判に基づく調停書・審判書が必要です。

更に、相続欠格者として認められた相続人がいる場合は、その裁判の確定判決の謄本、または、当該相続欠格者自身が欠格者でることを認めた証明書が必要です。

ただ、相続人の廃除の場合は、この内容が戸籍に掲載されるので、特別な書類は必要ありません。

 

相続登記の費用

 

相続登記に必要となる費用は、登録免許税と所有権移転登記費用の大きく2つに分類されます。

このうち登録免許税は、不動産固定資産評価価額の1000分の4であり、「遺贈」の場合は、1000分の20になります。ただ、「遺贈」の場合でも、相続人に対する「遺贈」であれば、相続と同様の1000分の4の登録免許税で済みます。

所有権移転登記に関する費用では、戸籍や住民票の取り寄せ費用や発行手数料がかかり、更に被相続人の戸籍の調査を行政書士等の専門家に依頼する場合や相続登記手続きを司法書士に依頼する場合は、これらの者に対する報酬が発生します。

この金額は、業務の難易度や相続人の数、相続不動産の評価価額等によって大きく異なり、また、各専門家の中でも大きくその報酬に差があるので、相続登記をなす相続人は、これらの専門家の何人かをリストアップしてよく話を聞き、報酬を含めて自分の相続問題を解決するに一番ふさわしい専門家を選定して下さい。

相続税の基礎控除

4.相続税の基礎控除

 

相続税の基礎控除とは、相続遺産の課税対象額のある一定額を相続税の非課税枠とする制度です。

2015年1月1日から相続税の基礎控除額が引き下げられることが決定し、基礎控除額が4割縮小されます。

これにより、今までは基礎控除額が相続財産の評価額を上回り、課税の対象とならなかった方も納税の対象となる場合があります。

基礎控除額の縮小に伴う相続税の対象は、改正前の4.2%から6%に上昇するとの試算も出ていますので、相続税の基礎控除額の縮小に伴う節税知識も今の内から十分理解しておく必要があります。

 

相続税総額の算出

 

相続税の基礎控除について理解を深めるのは、相続税の総額は如何にして算出するかを知っておく必要があります。

通常、相続は、複数の相続人に対してなされ、その相続財産の総額の算出の流れは、大きく3つの段階があります。

①課税遺産総額の計算  相続遺産には、債権や現金等の積極遺産だけではなく、借金等の消極遺産も含んでいる場合があります。そこで、相続した遺産のプラス遺産である積極遺産と消極遺産であるマイナス遺産を合計して課税対象となる課税遺産総額を算出します。

②相続税の総額を算出  ①で求めた課税遺産総額を法定相続人が法定相続分を相続した者と仮定して各相続人の相続税額を計算し、この金額を合計して相続税の総額を算出します。

③各相続人の相続税額の計算  相続人の相続割合に応じて、各相続人が有する控除分と加算分を合計して相続税額が算出されます。

 

具体的な相続税基礎控除の計算例

 

現在の相続税基礎控除額の算出式は、5000万円+(1000万円×法定相続人の数)です。

この式に一般的な相続例を当てはめると、例えば、相続人が配偶者と子供2人の3人である場合は、5000万円+(1000万円×3人)=8000万円で、この8000万円が相続税の基礎控除額になります。

また、基礎控除額の算出には、相続人の中に相続放棄した者があってもこれを考慮せず、相続放棄がなかったものとして計算します。

尚、被相続人に養子がある場合は、被相続人に実子がある場合とない場合によって、相続税で認められる法定相続人の数が異なります。

被相続人に実子がある場合は、養子が何人いても相続税法上の基礎控除算出に加えることのできる養子の数は1人です。

また、被相続人に実子がいない場合は、2人までが基礎控除額の算出に加えることのできる法定相続人の数になります。

ただ、実親との法律上の親子関係を断って養父の養子となる「特別養子縁組」で養子となった者は、法律上は実子と同じ扱いを受けるので、相続税の基礎控除額の算出時関わる法定相続人の数の制限適用はありません。

 

相続税基礎控除額の大幅縮小

 

2015年1月1日から相続税の基礎控除額が大幅に縮小されます。

現行の基礎控除額の算出は、5000万円+1000万円×法定相続人の数ですが、改正後は、3000万円+600万円×法定相続人の数で算出することになります。

基礎控除額が従来の6割に縮小されます。

遺産が基礎控除額を超えない場合は、相続税を申告する必要はないのですが、超えると申告の必要があるので、これまで相続税の課税対象でなかった方たちの多くが、相続税の課税対象に該当する場合が生じてきます。

大都市近郊の住宅等を相続対象不動産として所有している方は、早めの相続税対策が必要です。

 

相続税の税率もアップ

 

相続税の税率も相続税の基礎控除と同様に2015年1月1日から引き上げられます。

具体的な事例では、例えば、法定相続人が被相続人の子2人だけであり、遺産総額が5億円であった場合。

改正前は、5億円-7千万円=4億3000万円、4億3000万円×1/2(法定相続分)=2億1500万円であり、この金額に相続税率を乗じ控除額を差し引くと、

(2億1500万円×税率40%-控除額1700万円)×2人=1億3800万円

ですが、

改正後は、5億円-基礎控除額4200万円=4億5800万円、

4億5800万円×1/2(法定相続分)=2億2900万円、この金額に相続税率を乗じ控除額を差し引くと、

(2億2900万円×税率40%-控除額1700万円)×2人=1億4920万円

と改正前に比べ約1千万円の増税となります。

参考までに、相続税の速算表を提示しておきます。

 

2015年1月1日からの相続税速算表 財務省税制改正ホームページから抜粋

http://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei13/02.htm#01

 

相続税控除の拡大

 

相続税の基礎控除額の縮小に伴い、未成年者や障がい者に対する相続税額の控除額は拡大されます。この緩和制度は、相続税基礎控除縮小開始時と同時の2015年1月1日から施行されます。

①未成年者控除 現行は、20歳になるまで、1年につき6万円の控除額ですが、改正後は、20歳になるまで、1年につき10万円が控除になります。

②障がい者控除 現行では、85歳になるまで、1年につき6万円の控除額ですが、改正後は、85歳になるまで、1年につき10万円の控除を受けることができます。

また、特別障害者の認定を受けた、障がい者1級、2級の方の控除額は、現行の1年につき12万円から20万円に引き上げられます。

 

相続税基礎控除額減額に対する節税対策

①小規模宅地等の課税価額計算の特例の改正  相続税の基礎控除額の大幅な縮小に伴い、小規模宅地等の特例が緩和されます。

小規模宅地等の特例は、被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族)の事業(不動産貸付業や駐車場経営を含む)の用または、住居の用に供されていた宅地等で、建物や構築物の敷地の用に供されている土地のうち、ある一定面積にまでの宅地等の課税評価額を50%から80%に減額する制度です。

改正では、被相続人等の自宅の敷地面積が80%小規模宅地の特例等の限度面積が、現行の240㎡から330㎡に拡大されます。

この特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに特例の対象となる宅地等を遺産分割や遺言で確定されていることが要件になります。

ただ、相続税の申告期限から3年以内に特例の対象となる土地の取得者が確定した場合は、この特例を遡って適用し、既に納付した相続税をこの制度の基準に従って返還してもらえます。

②連年贈与の活用

毎年贈与繰り返し贈与することで、相続税基礎控除縮小に対処する方法もあります。

連年贈与は、1年間の贈与税の基礎控除額の上限である110万円枠を活用し贈与を継続して行う事です。

地道な方法ですが、相続税基礎控除の縮小に伴って、被相続人の孫に対する教育資金等の贈与枠の規制が大幅に緩和されたので、相続税基礎控除額が縮小されたのちは、大きな節税方法の1つとなります。

ただ、贈与を行えば、贈与税の申告が必要なので、申告は忘れずに行ってください。また、連年贈与は、税務署の関心の高い事例なので、税務署がいつ調査に入っても大丈夫なように、銀行振り込みであれば、振込金額と日付けが記入された預金通帳を無くさないようにしてください。

また、税務署とのトラブルを避けるためには、あえて110万円までの枠を超えた贈与を行い、その超過部分の贈与税を納めることも1つの節税手段です。

配偶者控除を活用した相続税基礎控除額縮小対策

婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用の不動産を贈与した場合や居住用の不動産購入資金を贈与した場合は、基礎控除額を含めた2110万円まで贈与税がかかりません。

また、通常の贈与税の規定では、相続開始前の3年以内の贈与は、相続財産に含まれますが、配偶者控除の活用の場合では、相続3年以内で贈与が相続財産に含まれないことになります。

④相続時精算課税制度を活用した相続税基礎控除額縮小への対策

この制度の活用で、通常、2500万円、住宅資金なら3500万円までの贈与税が非課税になりますが、この制度の趣旨は、相続税の一時的な後払い制度であり、相続が発生した場合は、相続税にこの贈与額を加算して相続税額が算定されるので、注意が必要です。

相続税と税理士

1.相続税と税理士

 

相続に関連する最も重要で複雑なことは、相続税の問題と言えます。相続税の問題は、被相続人の遺産の評価はもちろんのこと、様々な税制や特例措置にも精通していなければ、相続人が満足し、有利な相続税納付は実現しません。

ただ、相続税に関する優秀な税理士等の専門家は意外と少ないのが現状なので、相続税の問題に的確に対処できる専門家の選定は重要です。

所得税などとは違い、相続税は、相続税に算出において税額が大きく異なることがよくあります。相続税の金額は様々な要素が複雑に絡み合うので、相続に十分な経験と知恵がある税理士と経験の少ない税理士では、節税を含めた業務の満足度に差があるのです。

 

実務経験と優れた技量を持つ税理士に依頼

 

「相続税と税理士」でインターネット検索すると、おびただしい数の「相続が専門・詳しい」と謳う税理士や税理士事務所がヒットします。

ただ、インターネット上で洗練されたページを公開している税理士が、必ずしも相続税に精通しているとは限りません。

これは、弁護士や行政書士、司法書士等のいわゆる「士業」の方にも言えることですが、各税理士は、同じ科目の国家試験を経て税理士資格を得ていても、その後経験した業務や勤めた税理士事務所の業務内容で、専門分野は大きく異なります。

特に、相続税の業務では、その発生頻度が他の税務処理に比較して頻度が少なく、また、様々な要素が複雑に絡み合っているので非常に難しい仕事なのです。

その結果、相続専門と言う税理士でも、相続税に実務経験の多さや技量によっても大きな差異(相続税の納税額の差)が生じることが良くあります。

相続税に関してまず考慮すべきは、税理士の選定です。税理士選定の重要性をよく考えて、相続税の問題を納得行く形で迅速に進めることが重要です。

 

相続税の問題を相続税に強い税理士の相談した方が良い方とは

 

相続税の問題は、相続税法上に関連する事柄に限らず、民法や建築基準法等の不動産関連法規等の影響を受けるため、相続に強い税理士を探す必要がありますが、特に、どのような方が、相続税の相談を税理士にした方が良いのでしょうか。ここでは、相続税の相談を税理士に行う必要性の高い方を列挙してみます。

1.相続財産に土地等の不動産が多い方。

2.相続税が自分にどれ位課せられるのかシミュレーションしたい方。

3.相続税に課税額を節税したい方。

4.相続税の納税資金をどうのうに確保するかのアドバイスを受けたい方。

5.専門家の遺産分割の実務経験を聞き、自分の遺産分割での「争続」のリスクを回避したい方。

6.被相続人が事業主又は農業従事者で、その後の事業資産として被相続人の相続財産を細かく分割したくない方。等を挙げることができます。

相続税の納付期限は、相続開始を知った翌日から僅か10か月です。10か月間は長いと思うかもしれませんが、実際に相続が始まってしまえば、あっという間の10か月です。相続税の問題は非常に複雑で、相続人の利害も関わるので、事前に相続に精通した税理士等に相談しておくことをお薦めします。

 

相続に精通した税理士を見分ける基準とは

①相続税の申告代理実績は十分か

高齢化社会を反映して、相続に関心を持つ方が増加しています。その結果、税理士等の専門家と言われる方も、そのニーズを取り込もうとする方が増加しています。

ただ、税理士等のこれらの専門家を選定するには、相談実績ではなく、実際の相続税の申告実績、つまり、真の実務経験を重視すべきです。

インタータネット上には、相談実績が何年であるとか相談実績が多数であるとか、自己宣伝情報が多く掲載されていますが、本来頼りになる税理士は、税理士の相続税申告の実績であり、その実績に依頼者である相続人が満足していることなのです。

税理士の相続税申告の経験やその実績について真価を問うには、様々な質問をすることが必要なのですが、依頼する相続人に相続税の基礎的な知識がなければ、税理士の真贋を判断する質問はできません。

相続税の支払いや税理士への依頼・手続き費用を支払うのは相続人自身なので、十分相続税に関する知識と理解を深めたうえで、その先を行く税理士等の知恵と経験を活用すべきです。

②土地建物等の不動産評価について尋ねる

日本における相続財産の課税対象は、バブルが崩壊して久しいと言っても、依然として土地等の不動産です。

そこで、相続税の問題を税理士に相談する場合は、土地の評価方法について専門的な理解を尋ねてみることが重要です。土地の評価は、登記法や特殊な地図や路線図、または、現状における取引価格等を総合して判断して算出する必要があります。土地の相続税評価額は、表面的な知識と理解では通用しない深い世界です。この評価額を相続人の立場や現状に基づいて行える税理士が本物の相続税に精通する税理士と言えます。

不動産評価が正確に出来ることが、税理士選定の試金石になります。この試金石をクリアしている税理士が、合法的で相続人に有益な節税感覚を有する税理士と言えるのです。

相続税の算定基準になる相続財産である土地等の不動産の評価は、たとえどんなに優れた教科書を理解しても太刀打ちできません。現実に業務をこなした活きた経験こそがものを言うのです。

優秀な税理士は、経験からこの書籍や他の情報から決してえられない自分個人のノウハウを有しています。相続人がこのような税理士に巡りあえてこそ、納得行く相続税の支払いが行えるのです。

③その税理士は事業成功者か

相続税の相談は、その業務に成功している税理士に相談しなければなりません。

成功者であっても、業務が軌道に乗るまでは、人知れない努力と失敗を積み重ねた上で成功への秘訣を掴んでいます。

机上の空論ではなく、積み重ねた経験に基づく知恵が、相続税の問題に悩む相続人の問題を解決するものと思います。

経験に裏付けられた独自のアドバイスを自信を持って指南出来る税理士を選ぶべきです。税理士等のいわゆる「士業」の仕事の依頼は、依頼者からの紹介で業務が発注されることがとても多いのです。

④各種の法律や税務調査に精通しているか

相続税の問題は、ただ単に、相続税法を知りこれを元に相続税額を計算して納税者を代理して税務署に申告すれば済むといった単純な業務ではありません。

相続に関する基本法は、民法の家族法の中の相続法であり、土地や建物に関しては建築基準法、また、税務署が行う相続税特有の税務調査の実施も考えられるので、この対処のポイントも知っている必要があります。

この他法令や財務省通達の他、預金や金融商品の解約や名義変、更に、相続に必要な専門的な手続きの概要を十分説明して相続人を安心させることができるかといった、実務的な経験と能力も相続税に関する税理士選定の重要な選定基準となります。

 

税理士にも専門分野がある

税理士をはじめあらゆる「士業」と呼ばれる方々は、各専門分野を持っています。これは、医者に関して言うと外科や内科、またその中でも細分化された様々な専門科目があるのと同様です。相続税は片手間に出来るような簡単な業務ではないので、より一層、税理士の能力差が出てしまいます。

また、税理士と依頼者の相性も重要です。相性がよいと自分の言う思いを理解してくれ、信頼感が生まれます。これは意外と重要なことです。

所得税や法人税の場合は、比較的度の税理士に依頼しても、その税額に大差はないと言えますが、先述の通り、相続税はこれらの税金の算出より複雑で、特例の選定や遺産の評価額が異なるので、税理士の違いで大きな納税額の違いに繋がることもあるのです。

 

遺言について

遺言について

 

遺言を残す方が急速に増加しています。その理由は、遺言知識普及や紛争防止、また相続財産の高額化対策等が挙げられます。

ただ、遺言は、被相続人(亡くなった方)の生前の意思を叶えるために認められた民法上の制度です。人生の総決算として御自分の最終意思を財産面だけに留まらない意思表示することが求められます。

その実現には、多くの相続・遺言に関する知識と経験を持つ専門のアドバイスを受けることがとても有効です。

 

遺言には厳格な要式性がある

 

「遺言」の一般的意味は、「死後に言い残す言葉や文章」と理解され、「ゆいごん」と呼んでいますが、法律上では、遺言は、「ゆいごん」ではなく、「いごん」と言います。

法律上の遺言は、死者(被相続人)が生前有していた権利・義務や財産等の処分をどう実現するかについての最終的な意思表示のための法的制度です。

このように遺言は、国家の法制度が裏付けとなる制度であり、遺言の持つ効力は非常に大きいので、法律上、厳格な様式性や規定が設けられています。

遺言は、被相続人の生前に行う財産処分等に関する最終意思表示ですが、遺言は、ある一定の法律に規定された方式によらなければ、遺言の効果が認められません。この遺言の方式には、全ての記述を被相続人が自書する「自筆証書遺言」や公証人が遺言者の言葉を書き留めて公正証書化とする「公正証書遺言」の「普通形式の遺言」と、稀に、「秘密証書遺言」や死亡危急や船舶遭難時等の危急時における「特別方式の遺言」の2つの要式があります。

先述のように遺言は、民法に定められた厳格な要件を満たしたものでしか法的効果を持ちません。その理由は、遺言が明らかになるのは被相続人が死亡した後なので、死者は、問題が生じても説明できないので、被相続人が自分の意思で本当に作成したものかを明確に判断できる形式上の規定が必要といったことが考えられます。

遺言には権利・義務の承継や財産処分の他に、「兄弟仲良く、最後までお母さんを守ってくいださい」といった文言が書かれている場合がありますが、この文言は法律的には効果が生じません。ただ、このような遺言の「付言事項」と呼ばれる文言によって、相続に対する争いが避けられた事例も多いのです。「付言事項」を記述することは、法的な効果がないとはいえ、被相続人の思いとして後世に伝えておくべきです。

 

遺言能力

 

遺言者が遺言をするときには、遺言の意味・内容を理解し、判断することができる能力(遺言能力)を有していなければなりません。高齢になって判断能力がなくなってからの遺言は、相続人の間で、有効無効の争い起こす要因となる可能性も否定できません。したがって、遺言は、元気なうちに備えとして作成しておくべきです。

なお、遺言は、制限能力者であっても、遺言するときに意思能力(判断能力)さえあれば有効な遺言をすることができます。成年後見人であっても、正常な意思表示が出来る情況に戻っていれば遺言すれば認められます(但し、医師2人の立会いのもとでなした遺言)。

被補助人や被保佐人は、補佐人や補助人の同意が無くても有効な遺言をなすことができます。

また、未成年者であっても、15歳以上であれば遺言を残すことができます。この場合は、親等の法定代理人の同意が無くても遺言の有効性は失われません。

 

遺言が無い場合

 

遺言(遺言書)がない場合は、民法で規定された法定相続人(被相続人等)に、民法の規定に基づいた割合の「法定相続分」が相続されます。ただ、「法定相続分」は、相続人の全ての同意のもとによる「遺産分割協議」によって、遺産分割割合を変えることが可能です。もちろん、遺言が存在すれば、法律の規定の範囲内で遺言にある被相続人の意思が優先されます。

遺言がない場合は、法定相続人間の相互関係や生前の被相続人との関係も加味することなく一律に相続分が決められるので、いわゆる「争族」問題へと発展する危険があります。

 

遺言の内容を変更・取り消しの方法

 

遺言は、被相続人が有する最終的な意思表示であり、大きな法律効果を有するものなので、遺言者の最終意思を遺言により実現させるために、遺言者が生きているうちは何度でも書き直しが可能です。

遺言を変更ないし内容の取り消しをしたい時は、遺言書を破棄するか、新たに遺言書を作成することが原則です。遺言は、常に新しい日付けの遺言の内容が有効になります。

例えば、「2014年3月11日の全て(○○部分)を撤回する」と新しい遺言に記述すれば良いのです。

民法では、「遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法第1022条)」と規定され(法定撤回)、遺言を撤回する権利は放棄できません。(民法1026条)
また、民法では、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。」最初の遺言内容が後からの内容に矛盾する時は、最後の遺言内容が有効な遺言になります。

例えば、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に相続させる」と遺言した場合等です。また、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に売却した」場合等です。

更に、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合は、その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなします。例えば、遺言である物を相続させるとしながらも、遺言者がその目的物

を破棄した場合は、その破棄部分について遺言の撤回とみなされます。

 

遺言で指定できること

 

遺言には厳格な要式が必要であり、また、遺言で指定できる内容も法律で定められています。

遺言で出来ることは、1.相続に関すること、2.財産処分に関すること、3.身分に関すること、4.遺言執行者等に関することの大きく4つに分類されます。

1.は、法定相続割合と異なる相続分を遺言で指定することや法定相続人の廃除や廃除の取り消し、遺産分割方法の指定等があります。

2.は、法定相続人以外の者に遺産を承継させることで、この特定の人を指定して財産を与えることを「遺贈」と呼んでいます。遺贈には、「00万円を甲に遺贈する」といった具体的なものやお金を指定する「特定遺贈」と「遺産の評価額の10%を遺贈する」といった指定を行う「包括」の2つがあります。

また、遺言で、ある社会福祉団体に寄付したり、特定の公益社団・財団法人、更に、国や地方自治体に遺贈することも、遺産を基金にした公益法人を設立することもできます。

3.は、法律婚でない(事実婚)両親の間に生まれた子の認知(胎児にも相続権があるので認知可能です)、また、後見人や後見監督人の指定を行います。

4.は、遺言執行人の指定です。遺言手続きは煩雑で法律上の知識や経験が必要なため、円滑な手続きを確実・公平遂行するためには、遺言で遺言執行者を選定しておくべきです。

 

遺言を残す必要性が高い場合とは

 

遺言を残す必要性が高い場合いとしてまず挙げられるのは、

1.夫婦間に子がいない場合です。

子がいない場合で遺言を残さず被相続人が亡くなった場合、被相続人が配偶者に出来る限りの遺産を残そうと考えていても、親や兄弟姉妹がいれば、法定相続分をそれらの者が相続する権利を持ちます。

2.法定相続人以外の者に遺産を残したい時です。

例えば、内縁の妻やその子に遺産を多く残したい場合も遺言する必要があります。

3.法定相続分の割合を変えたい時です。

被相続の生前の生活援助に多大の貢献をした者や被相続人の亡き後の生活が心配されるもの等に法定相続分より大きく財産を与えることができます。

また、法定定相続人の中に遺産を残したくない者がいる場合も遺言する必要があります。この点、兄弟姉妹は、被相続人に子がおらず配偶者のみの場合は、4分の1の法定相続分がありますが、遺言で、「全財産を妻のB子に相続させる」とすれば、兄弟姉妹には遺留分が無いので、全財産を被相続人の意思通り配偶者に与えることができます。

また、これに関連して、被相続人が事業を営んでいる場合は、経営資産が分散しては経営効率が悪くなるリスクがあるので、事業承継に必要な経営資源や株等に関する経営権の事柄も遺言しておくべきです。

4.先妻の子供と後妻がある場合は、遺産相続で頻繁に問題が起こるので、被相続人は、事前にこれらの者とよく相談して相続財産の割合を決定し、遺言を残しておくべきです。

これらの他にも様々な遺言が必要な場合も考えられます。自分にはこれといった財産が無いと思う場合でも、遺言を残しておいて損はないでしょう。

ただ、遺言は親族間等で争われることも多いので、遺言で相続に詳しく客観的な判断を下せる遺言執行者の選任をしておくことが求められます。
遺言書の保管

 

折角最新の注意を払って遺言を作成しても、自筆証書遺言の場合は、その保管に関して頭を痛めることも多いのです。

何処に保管した本人名は知っていても、その場所を明かす暇なく被相続人が亡くなった場合が大変です。遺言があること自体相続人に知らされていない場合もあります。

遺言は発見されないのは実在しないと同様です。

簡単に発見されるのも問題ですが、被相続人の死後すぐに発見できないと意味を持ちません。そこで、被相続人が一番信頼を置いている配偶者やこ、または、その他の推定相続人が遺言の保管場所を把握していることが多いようです。

ただ、最近では、行政書士や弁護士等の遺言執行者に任命されている者や信託銀行で保何されている遺言も多いようです。
この点、公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管され安心できます。遺言者には正本と謄本が交付されます。この正本や謄本は、遺言執行者も多く保管しています。また、信託銀行が行う遺言信託サービスの場合は、正本を信託銀行が預かっています。