遺産相続

遺産相続

 

被相続人の遺産は、積極財産ばかりとは限らず、マイナスの消極財産も存在する可能性があります。

遺産相続につい基本的な知識がないと、相続人は、被相続人からの遺産相続で大きな負担を強いられる事態に陥ることもあります。

また、遺産価値の評価には、専門家の知識を借りなければならない場合も多く、遺産相続に複雑な手続きを必要とする場合もあります。

そこで、相続人は専門家の知恵と経験を活用し、相続人自身も、遺産相続について基本的ではあるが、確実な知識を備えておくことが必要なのです。

 

遺産相続とは

 

相続とは、ある人(被相続人)が死亡した時、その人が生前有していた権利・義務等、また、財産的地位を被相続人の配偶者や子などの一定の身分関係にある者(相続人。法定相続人)が、原則としてそのまま受け継ぐことを言います。民法の規定では、人が亡くなると被相続人の一切の財産は、相続人に承継されるとする明文規定があります。(民法896条)。

この亡くなった被相続人から相続人に承継される財産のことを「相続財産」または、「遺産」と呼んでいます。

相続の対象となる遺産は、現金、不動産、有価証券等のプラス財産だけではなく、金融機関からの借り入れや債務保証、損害賠償債務等のマイナス財産も含まれます。

 

相続分

 

遺言が無い場合で、推定相続人が複数存在する場合は、法定相続分の割合に応じてなくなった方(被相続人)の遺産は相続人に承継されます。

その割合は、例えば被相続人に配偶者と子がある場合は、相続分はそれぞれ2分の1ずつ、子が2人の場合は、それぞれが4分の1の遺産を相続します。

また、被相続人に子がおらず、妻と被相続人の親が健在であれば、配偶者が遺産の3分の2、親が3分の1を相続します。更に、相続対象者が被相続人の配偶者と兄弟姉妹である場合は、配偶者が4分の3を兄弟姉妹が4分に1の遺産を相続します(法定相続分。民法900条)。

またこの遺産相続の分配については、この原則に加え、被相続人が生前の遺産形成にどれ位相続人が寄与したのかと言う「寄与分」や生前に相続人が被相続人から受けた「特別受益」等の要素を加味して遺産相続を行う事になります。

 

遺言がある場合

 

遺言の有る場合は、遺言の内容が法定相続規定に優先されます。例えば、被相続人(亡くなった方)が、遺産の全部を甲に相続させると遺言を残すと、法定相続人による遺留分減殺請求が無い限り、全ての遺産は甲に承継されることになります。

遺留分は、法定相続分の2分の1であり、配偶者と子が相続人ある場合の遺留分は、配偶者と子は、法定相続分2分の1の半分の4分の1となります。

また、兄弟姉妹には遺留分が認められないので、もし、被相続人に子や親が無く、兄弟姉妹に遺産相続をさせない為には、配偶者に遺産の全部を相続させる旨の遺言書を残すことが必要です。 被相続人の残した遺産相続の最終的な帰属は、原則として、全ての相続人の間で行われる協議によって決定します。法律上この協議を「遺産分割協議」と言います。

 

遺産分割協議がまとまらない場合

 

遺産分割協議を行っても相続人の意見がまとまらないこともあります。このような場合は、家庭裁判所に調停や審判といった判断を下して貰える制度があります。最終的には裁判になりますが、この場合でも、まず調停を申請する必要があります(調停前置主義)。

遺産分割は、遺言の有効性やどの範囲の財産が相続対象にあたるのかといった複雑な法律問題が生じることも多いので、遺産相続に関する専門知識と十分な実務経験を有する専門家に遺産相続がこじれる前に相談して、相続人の遺産相続についての基本的な知識を醸成しておくことが得策です。

 

遺産調査には専門家を活用するのが得策

 

また、遺産と言っても、必ずしも現金や有価証券、不動産、権利・債券等のプラスの遺産(積極財産)ばかりではなく、金融機関等からの借り入れ等のマイナス財産(消極財産)もあり、このような場合は、ただ単純に遺産相続について単純包括承認するとその後に大きな禍根を残す危険もあるので十分注意して下さい。

そこで、相続人は、被相続人が生前有していた遺産(相続財産)を調査することが求められます。この点については、積極財産と消極財産の財産目録を作成する必要があるので、遺産相続に経験と知識のない者にとって大きな負担となります。また、正確な遺産の財産的な評価も難しいことから、まず専門家の知恵と経験を活用すると良いでしょう。

 

遺産相続に関する3つの制度

 

遺産相続には、民法上3つの制度が設けられ、相続人はこれら3つの制度を自由に選択することが可能です。

1.単純承認

単純承認とは、相続開始を知った時から後述する限定承認や相続放棄をしなかった時や遺産の全部やその一部を処分した時に承認したと認める制度です。

また、限定承認または相続放棄した場合であっても、相続財産を隠ぺいしたり処分すれば、法定単純承認したことになるので注意が必要です。

2.限定承認

限定承認とは、相続した遺産(不動産、現金、有価証券等)の範囲内で、被相続人が残したマイナスの遺産である負債の債務責任を負う制度です。債務の不足分は弁済責任が免除されます。

ただ、限定承認しても債務が有限になるのではなく、債務は一応全て相続人が承継し、返済責任が遺産の範囲になると言う事です。

そこで、責任以上の弁済を債務が無いのにあると思って弁済した(非債弁済)場合でも、この弁済は有効で、後から法律上の根拠のない弁済として不当利得返還請求することはできないので注意が必要です。

限定承認は、相続の開始を知ってから3か月以内に財産目録を作成し、家庭裁判所に「限定承認の家事審判書」を提出することが必要です。また、限定承認は、相続人全員の同意が必要です。

3.相続放棄

相続放棄とは、その名の如く、相続権をすべて放棄することです。もちろん、被相続人が残した消極財産も受け継ぎません。相続放棄をすれば、相続人は、初めから相続人ではなかったことになります。

相続放棄には、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することが必要です。

相続放棄は、限定承認と異なり相続人全員の同意は必要ありませんが、相続放棄を行うと法律関係を安定させるため、原則として取り消しが出来ません。

 

遺産(積極財産の評価)のための調査について

 

遺産は、多種多様な財産価値のあるものなので、その調査方法も多岐にわたります。

遺産が不動産である場合は、まず、対象不動産を管轄する法務局(登記所)で当該不動産の登記事項全部証明書を入手して遺産(相続対象)である不動産を確認します。

また、この遺産としての評価額は、当該不動産が存在する市町村役場で入手する固定資産評価額証明書や固定資産課税台帳で算定します。

被相続人が残した不動産は、市町村の固定資産税をつかさどる部署に行けば、被相続人名義の不動産が確認できます。

遺産(相続財産)が金融機関へ預金や株式、債券等である場合は、被相続人名義の預金通帳や証券会社の株式名簿の照会請求等で残高証明書を取得すれば確認可能です。

ただ、被相続人が亡くなった時点で預金等が無い場合でも、取引履歴から不自然なお金の出入りがあることもあります。この取引履歴から贈与や隠し財産の発見につながることもあるので、取引履歴は十分注意してみてください。

被相続人が自動車に乗っていた場合は、車検証で真の所有者が確認できます。ただ、被相続人が所有していると外見上は見えても、ローンで購入している場合で車を販売したディーラーやメーカー等にローンの返済が完了していない場合は、車を販売したディーラー等に車の所有権が留保されているので注意が必要です。

最近では、中古自動車の価格について、インターネット上で車種、製造年や型式、走行距離等の基本情報を入力すれば比較的簡単にその中古車の市場価格の概要が分かるので、被相続人の車がどれ位の価値のあるもの判断が可能です。

その他の遺産として骨董や書画、美術品等があります。このような価値は素人ではとても鑑定できないので、専門家に鑑定を依頼しなければなりません。

 

負債・債務保証等の遺産(消極財産)の調査方法

 

被相続人の遺産は、財産価値を有する積極財産とばかりとは限りません。現実は、相続人が知らない債務や保証債務を抱えている場合も数多く見受けられます。

相続人が目に見える遺産のみに目が行き遺産調査を確実に行わず、消極財産の存在を知らずに単純承認すれば、相続人は大変大きな負担を抱え込む事態に陥るリスクがあります。十分に被相続人の遺産は調査する必要があります。

金融機関の取引履歴に消費者金融業者等の名前が確認できる場合は、速やかに債務処理について方策とることが求められます。

また、実際に被相続人が住んでいた住宅やその敷地でもまだローンが完済されておらず、当該不動産取得のために抵当権が設定されている場合もあります。

ローン等の抵当権は、登記記録全部証明書(以前の名称では登記簿謄本)の乙欄に記載されているので調べて下さい。抵当権の調査から、被相続人が債務保証をしていた場合が判明する場合も多いのです。

この他、被相続人の遺品等を整理していると様々な遺産と思しき物が出てくることもあるので、遺産の評価や遺産整理は十分な注意を払い、専門家の知識を借り確実で迅速な遺産確定とその承継を行うべきです。