遺言について
遺言を残す方が急速に増加しています。その理由は、遺言知識普及や紛争防止、また相続財産の高額化対策等が挙げられます。
ただ、遺言は、被相続人(亡くなった方)の生前の意思を叶えるために認められた民法上の制度です。人生の総決算として御自分の最終意思を財産面だけに留まらない意思表示することが求められます。
その実現には、多くの相続・遺言に関する知識と経験を持つ専門のアドバイスを受けることがとても有効です。
遺言には厳格な要式性がある
「遺言」の一般的意味は、「死後に言い残す言葉や文章」と理解され、「ゆいごん」と呼んでいますが、法律上では、遺言は、「ゆいごん」ではなく、「いごん」と言います。
法律上の遺言は、死者(被相続人)が生前有していた権利・義務や財産等の処分をどう実現するかについての最終的な意思表示のための法的制度です。
このように遺言は、国家の法制度が裏付けとなる制度であり、遺言の持つ効力は非常に大きいので、法律上、厳格な様式性や規定が設けられています。
遺言は、被相続人の生前に行う財産処分等に関する最終意思表示ですが、遺言は、ある一定の法律に規定された方式によらなければ、遺言の効果が認められません。この遺言の方式には、全ての記述を被相続人が自書する「自筆証書遺言」や公証人が遺言者の言葉を書き留めて公正証書化とする「公正証書遺言」の「普通形式の遺言」と、稀に、「秘密証書遺言」や死亡危急や船舶遭難時等の危急時における「特別方式の遺言」の2つの要式があります。
先述のように遺言は、民法に定められた厳格な要件を満たしたものでしか法的効果を持ちません。その理由は、遺言が明らかになるのは被相続人が死亡した後なので、死者は、問題が生じても説明できないので、被相続人が自分の意思で本当に作成したものかを明確に判断できる形式上の規定が必要といったことが考えられます。
遺言には権利・義務の承継や財産処分の他に、「兄弟仲良く、最後までお母さんを守ってくいださい」といった文言が書かれている場合がありますが、この文言は法律的には効果が生じません。ただ、このような遺言の「付言事項」と呼ばれる文言によって、相続に対する争いが避けられた事例も多いのです。「付言事項」を記述することは、法的な効果がないとはいえ、被相続人の思いとして後世に伝えておくべきです。
遺言能力
遺言者が遺言をするときには、遺言の意味・内容を理解し、判断することができる能力(遺言能力)を有していなければなりません。高齢になって判断能力がなくなってからの遺言は、相続人の間で、有効無効の争い起こす要因となる可能性も否定できません。したがって、遺言は、元気なうちに備えとして作成しておくべきです。
なお、遺言は、制限能力者であっても、遺言するときに意思能力(判断能力)さえあれば有効な遺言をすることができます。成年後見人であっても、正常な意思表示が出来る情況に戻っていれば遺言すれば認められます(但し、医師2人の立会いのもとでなした遺言)。
被補助人や被保佐人は、補佐人や補助人の同意が無くても有効な遺言をなすことができます。
また、未成年者であっても、15歳以上であれば遺言を残すことができます。この場合は、親等の法定代理人の同意が無くても遺言の有効性は失われません。
遺言が無い場合
遺言(遺言書)がない場合は、民法で規定された法定相続人(被相続人等)に、民法の規定に基づいた割合の「法定相続分」が相続されます。ただ、「法定相続分」は、相続人の全ての同意のもとによる「遺産分割協議」によって、遺産分割割合を変えることが可能です。もちろん、遺言が存在すれば、法律の規定の範囲内で遺言にある被相続人の意思が優先されます。
遺言がない場合は、法定相続人間の相互関係や生前の被相続人との関係も加味することなく一律に相続分が決められるので、いわゆる「争族」問題へと発展する危険があります。
遺言の内容を変更・取り消しの方法
遺言は、被相続人が有する最終的な意思表示であり、大きな法律効果を有するものなので、遺言者の最終意思を遺言により実現させるために、遺言者が生きているうちは何度でも書き直しが可能です。
遺言を変更ないし内容の取り消しをしたい時は、遺言書を破棄するか、新たに遺言書を作成することが原則です。遺言は、常に新しい日付けの遺言の内容が有効になります。
例えば、「2014年3月11日の全て(○○部分)を撤回する」と新しい遺言に記述すれば良いのです。
民法では、「遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法第1022条)」と規定され(法定撤回)、遺言を撤回する権利は放棄できません。(民法1026条)
また、民法では、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。」最初の遺言内容が後からの内容に矛盾する時は、最後の遺言内容が有効な遺言になります。
例えば、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に相続させる」と遺言した場合等です。また、「A土地を甲に相続させる」と遺言した後に、「A土地を乙に売却した」場合等です。
更に、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合は、その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなします。例えば、遺言である物を相続させるとしながらも、遺言者がその目的物
を破棄した場合は、その破棄部分について遺言の撤回とみなされます。
遺言で指定できること
遺言には厳格な要式が必要であり、また、遺言で指定できる内容も法律で定められています。
遺言で出来ることは、1.相続に関すること、2.財産処分に関すること、3.身分に関すること、4.遺言執行者等に関することの大きく4つに分類されます。
1.は、法定相続割合と異なる相続分を遺言で指定することや法定相続人の廃除や廃除の取り消し、遺産分割方法の指定等があります。
2.は、法定相続人以外の者に遺産を承継させることで、この特定の人を指定して財産を与えることを「遺贈」と呼んでいます。遺贈には、「00万円を甲に遺贈する」といった具体的なものやお金を指定する「特定遺贈」と「遺産の評価額の10%を遺贈する」といった指定を行う「包括」の2つがあります。
また、遺言で、ある社会福祉団体に寄付したり、特定の公益社団・財団法人、更に、国や地方自治体に遺贈することも、遺産を基金にした公益法人を設立することもできます。
3.は、法律婚でない(事実婚)両親の間に生まれた子の認知(胎児にも相続権があるので認知可能です)、また、後見人や後見監督人の指定を行います。
4.は、遺言執行人の指定です。遺言手続きは煩雑で法律上の知識や経験が必要なため、円滑な手続きを確実・公平遂行するためには、遺言で遺言執行者を選定しておくべきです。
遺言を残す必要性が高い場合とは
遺言を残す必要性が高い場合いとしてまず挙げられるのは、
1.夫婦間に子がいない場合です。
子がいない場合で遺言を残さず被相続人が亡くなった場合、被相続人が配偶者に出来る限りの遺産を残そうと考えていても、親や兄弟姉妹がいれば、法定相続分をそれらの者が相続する権利を持ちます。
2.法定相続人以外の者に遺産を残したい時です。
例えば、内縁の妻やその子に遺産を多く残したい場合も遺言する必要があります。
3.法定相続分の割合を変えたい時です。
被相続の生前の生活援助に多大の貢献をした者や被相続人の亡き後の生活が心配されるもの等に法定相続分より大きく財産を与えることができます。
また、法定定相続人の中に遺産を残したくない者がいる場合も遺言する必要があります。この点、兄弟姉妹は、被相続人に子がおらず配偶者のみの場合は、4分の1の法定相続分がありますが、遺言で、「全財産を妻のB子に相続させる」とすれば、兄弟姉妹には遺留分が無いので、全財産を被相続人の意思通り配偶者に与えることができます。
また、これに関連して、被相続人が事業を営んでいる場合は、経営資産が分散しては経営効率が悪くなるリスクがあるので、事業承継に必要な経営資源や株等に関する経営権の事柄も遺言しておくべきです。
4.先妻の子供と後妻がある場合は、遺産相続で頻繁に問題が起こるので、被相続人は、事前にこれらの者とよく相談して相続財産の割合を決定し、遺言を残しておくべきです。
これらの他にも様々な遺言が必要な場合も考えられます。自分にはこれといった財産が無いと思う場合でも、遺言を残しておいて損はないでしょう。
ただ、遺言は親族間等で争われることも多いので、遺言で相続に詳しく客観的な判断を下せる遺言執行者の選任をしておくことが求められます。
遺言書の保管
折角最新の注意を払って遺言を作成しても、自筆証書遺言の場合は、その保管に関して頭を痛めることも多いのです。
何処に保管した本人名は知っていても、その場所を明かす暇なく被相続人が亡くなった場合が大変です。遺言があること自体相続人に知らされていない場合もあります。
遺言は発見されないのは実在しないと同様です。
簡単に発見されるのも問題ですが、被相続人の死後すぐに発見できないと意味を持ちません。そこで、被相続人が一番信頼を置いている配偶者やこ、または、その他の推定相続人が遺言の保管場所を把握していることが多いようです。
ただ、最近では、行政書士や弁護士等の遺言執行者に任命されている者や信託銀行で保何されている遺言も多いようです。
この点、公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管され安心できます。遺言者には正本と謄本が交付されます。この正本や謄本は、遺言執行者も多く保管しています。また、信託銀行が行う遺言信託サービスの場合は、正本を信託銀行が預かっています。